魔王は一度、勇者と対面してもいいかもしれない その5
「カイリよ。
いくら何でも、そんな不正が許されると思っているのかね?」
バージルも魔王である。
らしく、感情をあらわにする。
だが、初老の見た目どおり、彼は怒りを表す事は無く。
そんな彼の、この冷静さは、実に怖い。
身をよじっているシュロを見て、、カイリはニヤニヤとして答えた。
「さっき出した、モンスターの特技なんだよ。
書いてあるだろ?
『ラミア』
特技『誘惑』
相手を指定して、その手札を開示させる。
そんでその中で好きなモンスターカードを一枚もらうって事が出来るんだよ」
バージルはマジマジと、先ほどのラミアのカードを見ていると、ブラドは遠慮がちに言った
「バージル様、これはルールなので…」
「うむ、カイリに何の非も無いという事か?」
そうして、ドラゴンのカードを差し出していると、シュロは慌てて説明書をバージルに手渡した。
「やっぱり、初心者にはこのゲームは難しくないですかね?」
「いんや、気にする事はねえ。
コイツのあだ名の前じゃ、ちょうど良いハンデだ」
「あ、あだ名?」
「通称、深き考えの魔王、バージル。
この魔王はな。
文字通り、様々な事象を持って、予言に近い憶測が出来るんだよ」
カイリは解説するが、意外とこういう事は、口答で説明すると理解出来ないモノである。
「それって、つまり、ええと…」
近くで口をあんぐり聞けていたダロタと同じように、
「どういう事でしょう?」
シュロもその例に、もれなかった。
「つまり相手がチェスの一コマ動かしただけで、何手でチェック出来るか公言出来るって事だよ」
「カイリ、それは買いかぶりすぎだ。
最初の一手で、何がわかろうものか…」
「でも、現実、負けた事ねえだろ?」
「ああ、無敗だが?」
バージルが平然と答え、説明書を見つめて言う。
「そもそも、このゲームの勝利条件は、勇者を倒した際に、自分の所持しているカードのコストらしいではないか?
こうなると、私の能力は無意味に等しい」
「へえ、この手のゲーム、やった事がねえのか?」
バージルは感慨深く、答えた。
「うむ、今まで、この手のゲームに出会った事は無い。
カイリの国も面白いモノを作る」
「いんや、これはシュロのトコのモンだ。
正確には、地上のゲームってトコだな」
「ほう、地上の…」
感心するように、シュロを見るが、彼は自分が作ったワケでも無いので、少し戸惑いをみせる。
「もっと正確に言やあ、ブラドが買って来たモンなんだがな。
なあ、ブラド、こんなの、どこで買って来てるんだ?
この前、地上に出たけど、売ってなかったぞ?」
「ち、地上で、ございますよ」
ブラドが遠慮がちに答えているのを、バージルは見て、
「さて、シュロ君、君の番だな?」
シュロに出番を急かせた。
「あ、はい、では…」
そう言って、シュロの取った一手は…。
「勇者に攻撃しないのかね?」
「内政って、トコロですね。
とりあえず、コストの低いモンスターを使って、ここに隔壁を作る事にします」
「へっ、相変わらず、後手に回るヤツだな~」
カイリは苛立ちを、シュロに向けていたが、ボードで勇者が歩き道を指しながら答えた。
「ですけど、ここを塞げば、25マス稼げるのですよ?」
その答えには、バージルは感心を見せていた。
「地図上の勇者は最短の道を辿るのだから、この道を塞げば歩数は倍以上、稼げているではないか?
これはなかなかの手ではないか…」
「はい、そして、内政は、一枚多く、カードを補充出来ます」
シュロが山札から二枚、カードを補充した。
「なるほど、やみくもに勇者にダメージを与えても、手札によって大した損害を与える事は出来ないから、内政で手札を稼ぐと言うワケだな」
「有効なダメージを与える手札が揃うまで、内政をするというのも一つの手ですからね。
勇者の進行を許してしまいますけどね」
「なるほど、それで実際のキミの手札はどうなのかね?」
バージルが見え見えな質問を投げてくる。
「さ、さっきのラミアなどを使ってください」
魔王相手に対し、どう反応すれば良いのかシュロは困る。
「うむ、そうしよう」
魔王らしい返答をして、次はブラドの出番だった。