第九話 哀しき戦士たち その2
そういえば、ダロタって初登場の時、兜を脱いだ事あるんだよね。
まあ、中身まで見えなかったって、事で…。
「な、なんて事を…。」
「それは、私の台詞よ。あれはどういう事よッ!?」
今度ばかりは、セリカが悪いだろうが彼女はそんな事おかまいなく、何かに怒っていた。
いつものイラつきではなく、純粋な怒りだというのが純粋に見て取れたが、それじゃあダロタがあまりにも可哀相だったので、精一杯食いついた。
「いきなりモノ投げ付けて、目の前の惨事が目に入らず、何を急に怒っているのですか?」
『キッ』と自分を睨みつけて、自身の魔力を解放したのだろう『ドンッ!!』と空気を波打たせながらシュロを睨みつけてこう言った。
「良い事、何とかしなさいっ!!」
まったく何を何とかしろと言うのだろうか、それを聞こうとする前にセリカは思い切りドアを閉めてそのまま出て行った。
「一体…何ですか、あれ…?」
「いや、わからん…。シュロ、その辺に何があった?」
「何って、魚を咥えた熊の木彫りの像…。」
「それは掴んだモノだろう?」
そんな事を話して投げたそのトコロを注目していると、何かが動いた。
それは…。
「…ネズミ…ですか?」
「ネズミだべな…。」
気が付くとダロタが横にいた。
「ダロタ、大丈夫…なのか?」
年上ゆえの行動だろうか、ブラドは不安を隠しながらそう聞いていると、ダロタは鏡を見ながらバリカンを手にして、ひと通し、そしてこう答えた。
「髪は、また生えてくるだ。
それより今、目の前にある困難に立ち向かうのが大事だべ。」
…なぜだろうかダロタが、かっこ良く見えた。
「しかしネズミか、参ったな…。」
「ネズミって、それが怖いって、あの人らしくないじゃないですか?」
「いや、シュロ、それがあの人だべ。なあ、ブラド?」
「そうだな、これは私の方から話したほうがいいだろうな。
それはセリカ様の子供の頃の話だ。
まあ、今も昔も性格は変わらないのだがな。
当時子供の頃と言う訳でな。セリカ様には美容の為と昼寝の時間が定められていたんだ。
そして、セリカ様が寝ていた時だ…。」
「その時…?」
「耳をかじられたんだ。」
「どこの未来のネコ型ロボットですか…。」
ブラドはさっきから笑いを堪えていたのだろう。とうとう笑い出した。
「それ以来セリカさまは、昼寝をする事はなく、ネズミをみるとさっきのように嫌がる様になったのだ。おかしいだろうっ。」
正直、笑えなかった。
自分でもネズミに噛まれたら疫病にかかると言う話を、よく聞いているからだ。
「そんなに笑って、何がおかしいかしら?」
それともう一つ、魔王様がそこにいらっしゃるからだ。
「さすがに失礼だと思って戻って来てみたら、ブラド、何が『おかしい』の?」
『ねえ?』と聞きながらブラドの頭をわし掴みにして、自分の身長より高いブラドを苦も無くねじ伏せていた。
「あの後、高熱にうなされる私の苦しみがあなたにわかるの?
それとも貴方達に同等の苦しみを与えてあげましょうか?」
今度はこっちを見つめてきたので、思う事と言う事は一つだ。
「それはブラドさんが酷いと思います。僕たちは笑えませんでしたよ。
ねっ、ダロタ?」
「んだっ。」
当然じゃないか、人が嫌な思い出を笑いモノにする人は、人として最悪だと思う。
こういう時は連帯責任というのも、確かに考えた。だけど、今回の件に関しては『明らか』にこっち無関係なのだ。
だから、この罰をブラド一人で受けるのは当然だと思った。
そう、巻き添えなんてゴメンだなんて、一つも考えてない。
「さすがにわかっているのね。
見なさいブラド、あなた最年長のくせにそんな事もわからないの?」
「いたたたたっ、軋む、軋んでますっ、セリカ様っ!!」
「そうですよ。反省してくださいよ。
ねっ、ダロタ?」
「んだっ。」
「セ、セリカ様、こ、これ以上はマズイです。か、顔が8の字になりまする!!」
「あら、貴方、どの時代の生まれかしら?」
そろそろ断末魔の雄叫びを聞こえてきそうだったので、セリカに聞いて見た。
「とりあえず駆除しておけば、良いのですかね?」
「あっ。」
ブラドを手放して本題を思い出したのだろう。