魔王は一度、勇者と対面してもいいかもしれない その3
「い、いらっしゃいませ」
シュロは、一瞬、戸惑いを見せながら出迎えた。
「キミがシュロ君だね?」
「は、はあ、はい…」
心なしかシュロは緊張を見せる。
それはこの初老のエルフが雰囲気だけで、魔王だと雰囲気でわかったからだった。
ていうか、ダロタが姿を隠したからでもあり。
「シュロ、今、配達に戻ったぞ」
ブラドが、
「いや、すまんな。
この国の結界が、思ったほど強くて、出るのは簡単なんだが、戻るのには一苦労でな…。
いや~、ここの魔王は厄介な事を…」
こんな典型的に、
「うん、ならばここで商売などしなければ良かろう」
「…っ!?」
『ガダダダ』とドアノブを掴んで、思い切り『どんがらがっしゃん』と『どだだだ』と反応を見せたからでもある。
「いや、ブラドさん、やりすぎ」
「わかるか?」
幸い、このブラドの態度には、さほど気にならないらしく、バージルは周囲を眺めて言った。
「しかし、繁盛はしてないみたいだな…」
「いつもは、こんな状態じゃないのですが…」
「ここは我らの国の結界内、ある程度、魔力の高いモノでなければ来ることも困難だ。
それにエルフは人間を見下している。
見たところ、繁盛というのも最初の数時間というトコロだろう?」
「はあ、面目ありません」
「ふむ、商売とは品質に左右され、噂に上下されるデリケートな職業といえる。
苦労はたえまい」
シュロは何も言うことが出来ないのは、事実、その通りだったからだった。
「あ、あのバージル様、本日は何のご用なので…?」
そこでブラドは、機嫌を損ねないように聞いて来た。
「うむ、その前に、そこの席に座ってよろしいかな?」
「ど、どうぞ…」
おかげでシュロも緊張してしまうが、それをみたバージルは少し興味がわいていた。
「実は、シュロ君、キミに相談があってね」
「は、はあ、何でしょうか?」
「今、私は休日なのだよ…」
本日のやって来た理由を、この人間に話していた。
「休日と言われましても…。
休日だからこそ、ここで働く事になってますからね…」
「そこを何とか頼めないかな…」
魔王が頼み込んでくる状況に、さすがにブラドが手招きをした。
「シュロ、ちょっと来い…」
ブラドが手招いて来るので、シュロにしても何かしら警戒を見せた。
「ブラドさん、これ、どういう状況なんですか?」
「う~ん、基本、他国の魔王が直接やって来て、こんな状況、頼み事をしてくるというのはな。
まず、ありえない」
「もしかして、何かしらの企みがあるのですか?」
「こういう時こそ、セリカ様の出番なのだが…な…。
今日は、まだ来てないのか?」
「そろそろ、来る頃だと思うのですが…?」
シュロは思わず、店内を見て…しまった。
おかげでバージルと目を合わせてしまう。
「考えはまとまったかね?」
バージルも何となく状況を察したのか、呆れ混じりに聞いて来た。
見るとブラドとダロタが、隠れて動向を見守っているという状況だった。
その動作の中で、あるモノを見つけた。
「ブラドさん、コレを借りますね」
「あ、ああ、いいぞ?」
シュロは持ち運びながら、バージルの元に戻ろうとすると…。
「うわ、なんでテメエがいるんだよ?」
いつの間にやら、カイリが殺気ダダ洩れで、バージルに話しかけていた。
「私の国に、私がいる。
それは至極、当然の事ではないかね?
ここで悪態を付くのならば、私の国に土足で踏み込んだ魔王に、私が付くべきだろう?」
魔王、両者にらみ合いの、一触即発。
「ちょ、ちょっと!?」
ろくな言葉を掛けず、シュロは踊り出てしまう。
「カ、カイリさん、今日はバージルさんは用事があってやって来たのですよ」
カイリを引き離し、シュロはそれを置いた。
当然、バージルは興味を見せた。
「シュロ君、これは何だね?」
「ボードゲームです」
「あっ、あれか、あの勇者を倒すってヤツか?」
カイリの表情も明るくなるのを、バージルは見ていた。
「バージルさん、今回、これをやってみませんか‽」