いつか来る、対策をする者達 完結編
「へへへ…」
どんな魔界に鈍足な魔王がいる事だろうか?
カイリは不気味な笑いがしたと思えば、彼女のスプーンで、シュロのスープを掬い…。
「ほれ、シュロ…」
シュロにはそこまでの動作が見えなかった。
それどころか、気がつけば膝の上に乗っている始末である。
「ちょっとカイリ、何をやってるのよ?」
「何って、ほれ『あ~ん』だよ」
「あ~んって、アレですか!?」
シュロにしても、その意味を知らないほど鈍感では無い。
「いやさ、アレ、一回やってみたくてさ~」
「ちょ、ちょっとカイリさん…」
シュロは思わず壁の方を見た。
みなも忘れて無いだろうかとばかりに、自分の母親がいる壁を見る。
「……」
そして、自分の息子、シュロが不純な交流をしてるのでは無かろうかと、視線を送る姿…。
「いっ!?」
その重圧、これは親子にしか見えない。
いるであろう場所から、暗雲が立ち込めていた。
いや、その暗雲から降り注ぐ雨が、シュロの頭を叩く事、叩く事…。
しかし、シュロは魔王を相手にしてる事を忘れてはならない。
「シュロ…」
セリカも自分のスープを掬って、目の前に差し出す。
すると重圧は、一層と強くなる。
前方の魔王、背後には母親の重圧。
「…ここは一体、どんな魔界なんですか、ちょ、ちょっと待って!?」
シュロも騒ぎ出すが…。
「パンでもどうだ?」
「むーっ」
絶妙なタイミングで、口をふさがれる。
シュロにしても、抵抗はしているのだが…。
カイリの純粋な腕力に逆らえるワケがなかった。
その意図がわからなかった母親には、
……。
『えっ、食べさせてくれって?』
『なあ、そんなオレがそんな恥ずかしいマネが出来ると思うか?』
『えっ、じゃあ食べないって…?』
『困るよ。
てか、お前、昼飯食べてないから力が出ないって、サボるつもりだろ…』
『やっぱり…』
『ほ、ほら、あ~ん』
『う、うまいか?
そ、そうか…。
えへ…』
『えっ、もう一回?
ちょ、調子に乗るな…。
も、もう…。
て、いうかさ…。
も、もう一回、やって良いか?』
『ずるい、シュロ、私も…』
「…って、まあ、こんな妄想くらいには、操作してやるよ」
カイリは陽気にそんな事を言い、やめる事はなかった。
「なら、私も参加するしかないわね」
「知ってるのなら、やめて…」
シュロがそう言った途端である。
ガンッ
壁を蹴る音がした。
その瞬間、場が静かになった。
というより、シュロが…。
「……」
完全に冷や汗が滝のように流れ出ていた。
言うまでもなく、母親のやった事だった…。
「よし、食えっ」
「何で、ですか!!」
魔王カイリは、構わず、食事を運ぼうとするが、シュロは気が気でない。
必死にカイリに今回の意図を、思い出させようと足掻く。
真面目な話だが、母親はこういう時、一番、怖いのをシュロは知っている。
おかげで魔王の純粋な腕力255(実際は、それ以上)は。
カイリはシュロの腕力99(そこらへん)の少しの抵抗をようやく感じたのだろう。
「なんだよ?」
聞いてきたので、ハヤタは小声で言った
「今日、何のつもりでこんな事をしているのか、思い出してくださいよ」
しかし、カイリは面倒くさそうにだが、はっきりとささやく。
「ん、そんなもん知ってるよ。
お前の母ちゃんに、お前がどんなバイト態度なのか見せるンだろ?
だがな、シュロ、どうしてこんな事をするのかわかるか?」
明らかに『おもしろ』でやってるので、シュロは不快な顔をしていたが、カイリはじっと壁を見て言った。
それは的確に、シュロの母親の目を合わせ。
「それはお前が良いヤツだからだ」
『魔王』らしい眼光が、母親の確実に動きを止めたのを見たのだろうか、わざとらしさすらすらあったが、聞こえるように話し始めた。
「どこの馬の骨が、お前を悪く言ったのか知らないがな。
もしも、お前に何かしら疑いがあったのなら、どんなヤツ何だろうな?」
「で、ですから…」
シュロの言葉を気にする事無く、セリカに顔を向ける。
「よほど信用してないヤツだろうな?」
「そうね、村で評判もあるのに、その人、信用してないなんておかしい話よね?」
カイリは珍しく意見があったのが、気に入らなかったが、とりあえず目的の相手は見失う事はなかった。
「もう少し、信頼してやれよ
コイツは良いヤツだ。
だから、私たちは三人でつるんだ。
その結果、『三人で付き合ってる』なんて噂が流れたんだ」
話す相手を、はっきり捉えた口調で、
「噂に惑わされるなよ?」
カイリは壁越しのシュロの母親の直視する。
「生活費だって、毎週だったか?
しっかり送ってる。
そして、コイツがどんなヤツなのか、思い出して見るんだな。
その態度が、コイツにとっての全てだ」
シュロが少し照れくさく頭を掻き、母も目を伏せるのを、カイリは見たのか事の終わりを見たのだろう。
「まあ、後は自分で考えるんだな」
そうしてシュロは後から知った事だが、午後からの作業は、監視が付くことはなかったらしい。
それを知ったのは、帰る頃にセリカ達に教わったからだった。
「いや~、終わった、終わった」
「これで、シュロは疑われる事はないわね」
「そ、そうですけど…」
しかし、シュロの表情は晴れる事は無かった。
「浮かない顔ね、シュロ?」
「まあ、結局、騙してる事は代わりませんから…」
セリカは『なるほど』と頷くが、カイリは対照的だった。
「別にいいんじゃねえの。
お前だって、これが最善だったと思ってるだろ?」
「そ、それはそうですけど…」
シュロにしても、これ以上、誤魔化す事が出来ない事はわかっているので、どうしても口ごもってしまう。
「後は時間が解決する問題なんだよ。
騙してると思っているんなら、それは『こっから先』の問題だ」
「そ、そうですね…」
元気付けるように言うカイリに、シュロは礼を言って、二つの包みをセリカとカイリに出した。
「何だ、これ…?」
二人とも、不審そうに眺めていた。
「お給料ですよ。
二人とも、良く働いたので、コトーさん曰く、割増しになってるみたいですよ」
「そうなのか?」
「そういえば、二人とも、これが初任給ですよね」
二人ともまじまじとその袋の金額を確認していた。
二人とも魔王ではあるが、こういう給料は初めてだった。
「是非、また来てほしいそうですよ」
「そ、そうか…」
特にカイリは目を輝かせていたが、セリカはいつもの調子だったが…。
「…まあ、もらっておくわ」
見る限り、嬉しそうだった。
そして、シュロにしても、いつも通り、いや、最初の気まずさのある日常から、徐々にいつもどおりにの日常に戻っていたが…。
このコトーがある事に、気がついた。
「あれ、シュロって、さっき自分だけの給料じゃなくて、二人の給料も持って行ったよな」
そして、その給料を渡す光景をみた村人たちは言う。
「さっきシュロが、二人の給料って渡していたよな…」
そして、なぜか、不思議と意見があったのだろうか…
「えっ、あの三人の給料って、共同?
共同財産なの?」
共有財産
文字通り、三人が共有する財産であり…。
冒険者なら、それは簡単に使われる単語なのであるのだが…。
言うまでもなく、シュロは村人である。
そんな、三人が金銭を共有してるという話なのだから、
…はたして、シュロの時間が解決する時はいつ来るのだろうか?
何の解決にはなってなかった。