いつか来る、対策をする者達 その5
「なあ、シュロ・・・」
昼食中、コトーが遠慮がちに耳打ちをしてきた。
「い、いやな、あんな綺麗なお嬢様たちの昼飯に、パンとスープだなんてな…」
「出しておいて、今更、何を言ってるのですか?」
シュロは口の中にあるパンを味わいながら、思わず呟いていたが、魔王二人には聞こえており。
セリカは丁寧な食事作法で答えた。
「おかまいなく、これは十分な賄いですわ」
そして、カイリも軽快に食事を進めて答えた。
「いや、十分、十分。
まあ、サコンや部下達の食事に比べたら少ないけどさ」
またも知らない名前が出たり、『部下』という単語も出るので、シュロも心配するが意味を理解していない様子だったらしく。
コトーは耳打ちを再開する。
「とりあえず、オレ、シュロのおふくろさんに昼飯、出して来るな?」
そう言って、親指を不自然に動かして、母親の位置を知らせ出て行った。
よく見ると、その壁の位置にのぞき穴のような穴が開いていた。
そこに自分の母がいるのだと思うと、自然と緊張する中。
「なあ、シュロよ」
カイリはシュロの食事の様子を見て答えた。
「なんでしょう?」
「いつも思うけどよ。
お前、食べるの遅いよな?」
「そ、そうでしょうか?」
彼女の意外な指摘に、シュロは思わず自分の食事内容を見て答えた。
「気にした事はなかったのですが…」
「ああ、いや、何も悪いというワケじゃ無いが…。
早飯は大事なんだぞ?」
「そうなんですか?」
「昔からお前らの言葉でもあっただろ。
早寝、早起き、早飯、早グ…」
「カイリさん、それ以上は言ったらいけない」
思わず、カイリの口を遮ろうとするのは、マナーである。
「ソ…。
何だよ?
でも、まあ、何とかは三文の得だ、兵は神速を貴ぶってか。
ゴーレムどもに、兵法書ってのを音読させてるんだけどさ」
「何を学ばせてるのですか?」
「まあ、気にすんな。
でも、何事も早いのに越した事はないってのは、有名な話だろ?」
するとそれを聞いた、セリカは口を挟む。
「でも、早く食べれば食べるほど、消化が悪くて太るとは聞くわよ?
カイリ、貴女は太ったシュロを見たいの?」
セリカは壁越しの自分の母を見た上での嫌味である、
だが…。
「正直、見たい」
カイリの予想に反した答えが返ってきたので、珍しくセリカは驚く。
「いやな、シュロに必要なのはだな。
筋肉だと思うんだ。
何か、こう…」
カイリは身振り手振りと、セリカに見せる。
外見から見れば、何とも伝わりづらいが魔力を擁しているのだろう。
「それなら、私は太さじゃなくて…。
こうスマートなシュロが…」
セリカも想像図上の、自分のステータスを上げたり下げたりしていた。
「あのお二方、想像で私をいじらないでください。
というより、私の食事の遅さは、実は自覚が薄々とはあるのですよ」
「何だよ、それを直そうと思わなかったのか?」
「いえ、何といえば良いのでしょうかね。
逆にもっと遅くなろうとすれば、遅くなれますよ」
「何だ、その改悪!?」
それを聞いたカイリはウケていたが、セリカは少し真剣な様子だった。
「もしかして…」
その理由は軽く指をさした先、シュロの付けた指輪にある。
シュロは首を振る。
「いいえ、そういうワケじゃないんです。
どうも自分は、自分の食事の速度を合わせてしまうみたいなんですよ」
「だったら、食事は終わってないと、おかしいじゃねえか?」
そう言って、カイリは疑問を投げかけるが、シュロは視線を送る。
「あら?」
カイリは食事を終えているが、セリカは終わっておらず、彼の食事量は彼女に合わせたと言って良いほどだった。
「なんだよ…。
セリカを待ってるってのかよ?」
カイリは機嫌悪くなるが、セリカはまんざらでも無く。
「シュロ、カイリの食事のスピードなんて合わせない方が良いわよ?」
軽く嫌味が混ざる。
カイリにとって癪に障ったのかどうかと、シュロは一瞬悪い予感がした。