原っぱに集まる者共 完結編
「しかしだね、それではまるで木の上に鳥箱を設置したら、そこで巣を作るような原理のように思えてだ。
同種のドラゴンとしては、納得も出来ないのだよ」
ようやくレクターが納得する様子を見せるが、むしろ、シュロは嫌な予感しかしなかった。
「ところでシュロ君、私は黒曜石の上で寝転ぶのが大好きなのだが…」
「絶対、駄目です。
絶対、来ないでくださいね」
シュロの訴えに、ドラゴンは喉を鳴らして答えた。
「…なぜ、読まれたのかはわからんが。
私が誰かれ見境い無く、人を襲うように見えるかね?」
その問いに二人の魔王は黙り、後ろで手を広げて見せた。
当然、シュロには言う事が出来ず。
「移り住むだけでも、村が滅ぶのがわからねえ時点で、もうやめておけよ」
カイリが割って静止してくれていた。
「でも、そうなれば、シュロが村長になるのね?」
セリカは、そんな事を言っていると、黒ずくめの集団がやって来た。
「何だ、お前ら?
ああ、コレの買い取りにか?」
カイリがシュロを呼び対応に向かわせたが、
「なるほどね…」
カイリの嫌な笑みを、対応しているシュロには見えるわけがない。
そうして、その日の夜。
カイリは夜空を見上げていた。
夜目の良いわけではないが、夜空は星に月、その天気の良さに身体を伸ばす。
側近のゴーレムが、カイリに設計図を渡し、ランプを掲げる。
「うん、良いじゃねえか?」
珍しくカイリが褒めるので、もったいない言葉と頭を下げるが、その表情は固い。
「ですが、一つ問題点がありまして…」
「なんだよ?」
「家屋の強度、つまり壁が完全に固まっていないのでございます。
突貫で骨組みまでは、我々は間に合わせる自信はありました。
ですが、壁が乾き固まるのは、とても一週間では間に合わないのが現状でございます」
一瞬、ゴーレムとカイリの視線が合う。
それだけで数倍もある身体が萎縮する。
側近達は彼女が魔王である事を理解している証拠だった。
「まあ、その辺は仕方ねえわな。
俺がやるよ」
だが、カイリは意に介さない様子で、皆を退ける。
「みんな離れたか?」
確認しながらカイリは、先ほどに示された小屋に手をかざす。
あいにくと夜でわかり難い、だが壁があっという間に乾いていく。
それを感じたのか、カイリは上機嫌になっていると。
「巣穴を作る概念ね。
シュロの店となる家を作って、貴女の国に呼び込もうとしたのね?」
何も無い景色から、セリカが突然現れた。
巨人たちは騒然となるが、カイリはうすうす感じていたらしく、
「何だよ、さっきからじっと見てやがってたくせに?」
不機嫌になる。
「甘いわね」
「馬鹿にしてんのか?」
カイリは舌打ちして、睨みを利かせるので、周囲のゴーレムどもに緊張が走る。
そして、いつもなら、喧嘩になるのだが…。
それを制したのは、珍しくセリカだった。
「珍しく?」
いえ、すいません。
「まあいいわ。
カイリ、この小屋、買い取れないかしら?」
「なんだよ、セリカ、邪魔しようってのか?」
「そうじゃないわよ。
私にしても、今回、随分と面白い事を考えたわねと思いもしたわ。
でも、その方法があまりにも回りくどいから、協力をしてあげようと思ったのよ?」
カイリは嫌味と感じ、不機嫌そうにセリカをみるが構う事無く、セリカは答えた。
「快適な環境があるからこそ、ドラゴンが巣を作りにやってくるのなら、
人もそれも道理だと言う事よ」
その日、魔界の夜は、物凄く静かに過ぎて行った。
次の日。
「行ってきます」
シュロは家を出て、学校に向かっていた。
…のだが、だんだんと足が止まっていった。
「おいおい、美人さんが引っ越して来たの、知ってたか?」
「いやー、知らなかったよ。
あれ、というより、あんな場所に家とか建ってたか?」
「知らねえよ。
でも、美人だったよな?」
頷きあう冒険者達に、この時のシュロにはもう嫌な予感しかしなかった。
人間は住む場所が快適であればあるほど、その場所に住み着く。
先週の出来事が、この言葉を思い浮かばせたのだ。
嫌な予感とは、タイミングですら、神掛ける。
ちょうどセリカとカイリの二人が、揃っている時、しかも先に見つけたのは魔王達の方だった。
「よう、シュロ。
俺ら、ここに引っ越してきたからな」
「よろしくね、シュロ君」
魔王が地上に出てきたのである。