お怒りの魔王
「へっ、ブラドどこからでも来てみ?」
カイリは柔らかくブラドに手招きして、彼の剣に握られた手の力を強めさせる。
「それでは、遠慮なく!!」
それは決闘のように見えるが…。
実際は腕試しである。
カイリは自分より大きい体格の剣撃を、簡単に避けて見せる。
「へへ、まだ甘いなブラド?」
そんな笑顔のカイリだったが、安全な場所からその様子を見ていたシュロにしてみれば、風圧が頬に当たるほどの攻撃を『甘い』というのはカイリだからだろう。
「くっ!!」
自分の攻撃をスレスレで避けられ始めたブラドは、身の危険を感じたのか一旦、間合いをとって一呼吸する。
カイリは平然と近付き、ブラドは息を切らせて相手の出方を待つ。
今度はブラドが、防御に徹する形に見えるが。
「とりゃ」
パチン
ローキック一発、ブラドの太ももの内側に軽快に音を立てて命中。
「……」
一瞬の間に、シュロが感じたモノは言うまでもない。
敗北。
「あ~」
「だ、大丈夫ですか、ブラドさん」
我慢することなく、崩れ落ちたブラドを心配そうに近寄ると。
「今の俺なら、ローキック一発で倒された格闘家の気持ちが分かるかもしれない」
どうやら無事らしく、ダロタの持ってきた氷のうで患部を冷やしているとセリカが降りてきた。
「あの程度で、倒れたりするなんて、ブラド、貴方もまだまだね」
「相変わらず、厳しいですね。
相手はカイリさんなんですよ?」
「あら、これでも評価はしてるわよ。
魔王を鍛練の相手にしているのですもの」
セリカはクスクスと微笑み、カイリに聞いた。
「カイリ、面倒くさがりの貴女が、どういう風の吹き回しかしら?」
皮肉も忘れる事もないが、反面、カイリは嬉々としていた。
「別に風なんて吹いてねえよ。
こっちとしても俺んトコの部下は基本、図体のデカイのばっかだからな。
こっちも何か新鮮な気持ちで、鍛練に身が入るってモンだ」
逆に感謝されたのでセリカは、調子が狂うのだが、
「よし、次はシュロの番だな?」
「あ、はい、ちょっと待って下さい」
この一言は聞き逃さなかった。
「ちょっと待ちなさい」
「何だよ?」
「何でシュロまで参加してるのよ?」
「そりゃ、そもそも、シュロも参加する予定だったしな」
カイリが言うように、シュロは木刀を手にしており参加するつもりなのがわかったのか、セリカは言う
「危ないじゃない」
「大丈夫だって。
この鍛錬だって、シュロが願い出た事でもあるんだぜ?」
「……」
カイリは自分に対する信用の無さを感じ、不機嫌に頭を掻いたが、シュロに手招きして、戸惑うシュロに進行を促す。
「い、行きます」
ブラドほどじゃないが、勢いあるシュロの攻撃をカイリは避けるのは、ブラドと一緒だが、
「前よりか、マシにはなったけど」
軽々とシュロの木刀を霞め取ってしまうのだから、先の鍛練とは雲泥の差があるのは、言うまでもない。
「だから言っただろ。
大振りに武器を振る時は、気持ちだけでも相手の動きを予想しろって」
カイリは怒る事はなく。
「言っている意味はわからないワケじゃないのですがね」
カイリの言葉を理解しようとしているシュロに、カイリは笑顔で木刀を返していた。
「まあ、何事も経験だ。
もう、一丁やるか?」
「はい、お願いします」
明るい二人の雰囲気。
そんな雰囲気に、不快になるのは言うまでもなく
「何だよ、セリカ」
もう一人の魔王である。