魔界、不気味なルール 完結編
「まあ、破産はしなかったですよね」
一週間後、シュロはそう答えた。
「シュロよ、お前にしても、不安はあったようだがな…」
一週間後、ブラドはシュロを見て、ため息を付く。
「ぶーひっ」
一週間後、シュロ、ブラド、ダロタは整列して正座していた。
「シュロ、私が入ってくる前から、正座なんて良い心がけね」
「まさか、あんな事になるとは思いもしませんでしたからね」
『本日、休業』と書かれた看板を一瞥して、セリカは肩を竦ませる。
「まあ、わからないでもないわ…」
いつもなら感情のままに行動するセリカも、今回は少し同情的である。
「まさか、あのカイリさんが胃潰瘍ですよ」
シュロは少し心配そうだが、それは『少し』である。
「ですが、確かカイリさんって、深呼吸するだけで体力は全回復すると聞きましたよ。
確かに人間にとっては、胃潰瘍って、問題ある病かもしれませんが、治るのでは?」
シュロは率直にセリカに、自分の疑問を聞いてみた。
するとセリカは、シュロの問いかけに頷いて言う。
「そうなんだけど…。
それは動けるのよ、確かに貴方の言うとおり。
その日一日、普通に動いても、問題ないくらい。
それで、回復はするのよ…」
「はい、回復しますね?」
「それで元気になるでしょう?」
「はい、元気になりました?」
ここまで聞いても、シュロはわかってないらしく。
セリカは、さらに肩を竦めて答えた。
「もう一度、試そうとするのよ」
この辺りでようやく、シュロも合点が付いた。
「懲りずに?」
「そう、それで『また』胃腫瘍が出来るのよ…」
「ある意味、凄い身体してますね?」
「病気が治り掛けて、身体を悪くしたら、その病気が再発するって、良く言うでしょう。
あれを一週間、繰り返しているのよ。
さすがに魔王としても、そんな事を繰り返すのは、どうかと思うでしょう?」
カイリのいる城に対し、肩を竦めていたセリカはシュロに言う。
「というワケで、カイリを見舞いなさい」
「えっ、私がですか?」
「そうよ、私に『そんな事、やめなさい』と言わせるつもり?
そんな事を言って見なさい。
カイリが逆上するに決まっているでしょう?」
「それはそうですが…」
そう言って、シュロはカイリの城についた。
「おや、これはシュロ様」
出迎えたのは、サイクロプスのサコンである。
身長がシュロの数倍あるというのに、礼儀正しく礼をするので、逆にシュロが困惑するのは、よくある光景であるが、さらに困惑させるのは。
「あれ、シュロ、どうした?」
思いのほか、元気な様子のカイリの姿である。
「元気そうですね?」
普段どおり『ケラケラ』と明るくカイリは笑うが、
「いや、良くねえ。
今や、考えるだけでも潰瘍が出来る」
「さ、更に悪化しているのですね?」
やはり体調の悪いらしい。
『もしかして、さっきので出来たのか?』と聞くと、『うるせえ』と怒られてしまった。
「だがよ、お前がやって来たという事は…」
「はい、大変申し上げにくいのですが…」
セリカの思惑通りに、カイリは渋々、納得を見せる。
「でもよ、俺は実際、感謝を込めてたんだぞ?」
「わからないでもないですがね。
みなさんは満足しているから、貴女に待遇に感謝しているのからですよ」
「どういう意味だよ?」
「そのままの意味ですよ。
自分の待遇に満足しているからこそ、カイリさんには、らしくない事をしてほしくない。
例えば、私がこれを贈ったところで、カイリさんは嬉しいと思いますか?」
そう言って、シュロはカイリに手土産の包みを手渡す。
「なんだ、貢物にしては小さい…瓶か?」
「ちなみに、セリカさんからの贈り物です」
名前を怪訝になるが、
『胃薬』
予感は的中。
「いらねえよ、そんなもん!!」
カイリは感情のまま、胃薬を投げ飛ばそうとするが…。
「ん、待てよ…」
途中でやめたカイリは、しみじみと胃薬を眺め、何やらを思いついた。
「なあ、シュロよ。
せっかく来たのだから、セリカにこれを贈ってやれよ」
そして、シュロはセリカの元に帰って来た。
「セリカさん、行って来ました」
「ご苦労様、シュロ。
ところで、その小包は何かしら?」
「カイリさんからの贈り物です。
セリカさんに…。
と、手渡されて…」
「そんなモノ、捨ててしまいなさい」
すると、意外にもシュロは反論した。
「それは駄目ですよ。
わざわざ見舞いに寄越して来た礼だとの事なんですから」
確かに手渡したとシュロは、そのまま帰る時間になったので、ブラドと一緒に出て行ったが…。
「カイリが、私に…」
セリカの心境はいかがなモノか…。
「気味が悪いわね…」
ゆっくりと箱の中身を見ようとするが。
パタン…。
自身の警戒心が、そうはさせなかった。
ちなみにカイリは言っては無かったが、
「ああ、もう…」
サコンが胸を擦るように、カイリの国では『なぜか』胃潰瘍が流行り病になっていた。
そんな、その一週間が過ぎ…。
「よう、シュロ」
「あれ、どうしたのですかカイリさん?」
いつもの待ち合わせ場所には、カイリが立っていた。
「いや、何かな。
セリカのヤツが、胃潰瘍になったんだってよ」