魔界、不気味なルール その4
「利口な判断ね。シュロ」
セリカがクスクスとしていると、カイリはその様子で自分がおう思われているのか、理解したのか。
むっとしながら答えた。
「だからだろう。
サコンには、いつも細かい仕事ばかりさせてんだ。
だから、俺なりに考えてさ。
労いの意味も込めて、高価なモンをやったんじゃないか」
「高価とはカイリ様その刀はおいくらだったのですか?」
「売り飛ばそうとしたら値は付けられないって、断わられた程の代物だ。
まあ、ぶんどって来たモンだけどな」
「ぶんどって来た、と言ってくれなかったら、結構な美談なのですが…。
そもそも、そんなモノをもらっても、基本的にサコンさんは喜ばないと思いますよ」
「なんでだよ」
「あの巨体で、小さな武器を使いこなせると思えますか?」
シュロの意見に、イインチョは頷く。
「確かにカイリ様のお国柄武器はもらったら使いたいモノですからね」
「使えない武器をもらっても、喜ばないでしょう?
ああ言うのは、役立ってこそですから」
「あら、シュロ、私のはブラドの体格に合ったモノじゃないの?」
「だからセリカさんは、それ以前にお店の資材じゃないですか」
セリカもカイリも、むっとした顔で不機嫌になるが、ここでシュロが、気になったのは。
「ところでイインチョさんも、カイリさんと同じ様に何か贈ったのですよね?」
イインチョがどんな相手に、何を贈ったのかである。
「聞きたいですか?」
「ええ、まあ…」
平然とした態度の、イインチョに、シュロは、
「聞きたいですか?」
一瞬、恐怖を感じ。
「聞きたいのですか?」
「い、いえ、言わなくていいですよ」
魔界の住人は、沈黙が一番怖い事を知る。
「で、ですが普段、そんな事をしない人が突然、そんな事をするからみんなが気味悪がるのですよ」
「じゃあ、どうすりゃ良いんだ?」
カイリはじっとシュロを見る。
だが、シュロは正直言って困った。
この問い掛けには、実は答えがあるのだ。
『諦めてください』
しかし、これはためらう。
理由は相手が魔王だからではない。
それはカイリだからだ。
カイリは思った事を口に出す。
それ故に彼女の言葉から、感じられる感情は彼女の心境を表していると言っても過言じゃなく。
彼女は、ホントに困っているのである。
「あら、苦労するわね」
「人の回想ログを、除き見ないでください。
だから、何とかしてあげようと思っていたのですよ」
「対策あるの?」
「とにかく、普段からしてみてはいかがでしょうか?」
「普段から?」
「モノを上げるのに、気味悪がられるのは、そういう事を普段からしていないからですよ」
「なるほどだったら普段からそういう事をするような人だと思わせれば簡単だと?」
しかし、カイリは怪訝そうに答えた。
「そんなに簡単に行くものか?」
「はい、『こんなモン、あっても邪魔だから…』と言って相手にモノをあげれば良いのですよ」
「なるほど…」
「さすがに毎日あげたら、気味悪がられますからね。
週一、週二程度で、やってくださいよ」
「週一、週二、こんなモン、あっても邪魔だから…ってか…」
カイリはシュロの提案を納得したらしい。
「わかった、やってみる」
そう言って、出て行くとブラドは聞いて来た。
「なあ、シュロよ」
「何でしょうか?」
「また、これで一週間過ぎるのか?」
「まあ、そうなるでしょうね…」
「本日の営業も終わった事だし?」
「はい、それが何か?」
ブラドは考え込む仕草を見せながら言う。
「何だろうな、凄く嫌な予感しかせんのだ」
「破産するとでも、さすがにカイリさんでも、自分でそんな事はしないでしょう?」
「そりゃそうだがな…」
ブラドの不安はそれでも拭える事はなかったという。