第八話 その4
「どうしてですか?」
「コレだよ、コレ…。」
カイリはそう言って、一枚の紙切れを差し出した。
それを手にして見ると、それはこのカジノでの景品の全ての品目が書かれていた。
だが、これが何故『必要ない』という理由になるのかわからなったので、つい、どうしてなのか聞いてみるとカイリは相変わらず、軽い調子でこう言った。
「簡単に言えばさ、景品なんか設定するとアタシの国にいるモンスターはその景品目当てで働かなくなるだろうな。
そうなった時に、敵対している国々から攻め込まれて見ろ、あっという間だぞ?」
意外としっかりとした考えで自分の国の事を思っているカイリに驚いてしまうが。
「…何か、お前、失礼な事を考えてないか?」
「いえ、全然。」
最近、表情を変えずに否定する自分を自分で褒めてあげたいと思います。
「そうか、だったらいいや。
大体、景品って言ってもモンスター相手に好みはそれこそ様々だろ、そうなると面倒くさいからな。
まあ、そういう事で、今回誘っておいて何だけど、あまり参考にならなかったな。」
『悪いね』と軽く、そして、気遣い謝っているカイリを、周りから見たら魔王とは誰もが思わないだろう。
つい笑みをこぼしながら、忘れない内にカイリに小さな小箱を差し出した。
「何だ。コレ?」
「今日のカジノでの景品です。」
それは決して高いモノとはいえないが、小さなモンスターがぶら下がっているピアスだった。
「すいません、今日の稼ぎでこれくらいしか、交換出来ませんでした。」
「ホ、ホントに、いいのか!?」
こっちを向くカイリの目は輝いていたので、気に入ったのがわかったので安心しながらこう言った。
「はい、これが『カイリの分』ですから。」
そして何故か、彼女はまるで空気の抜けるようにテンションの下がる。
「あれ、もしかして、気に入りませんでした?」
「いや、何でもない。お前は悪くないんだ。
ま、まあ、ありがとな。
でもよ、もう一つはセリカのモノだとしても、他の包みは何だ?」
「これはブラドとダロタの分です。
一番安い景品ですけど、魔力の回復する『魔法の聖水』2つをおみやげにするつもりです。」
「ダロタって、あのオークか?」
「はい、彼は魔法は使えませんけど、換金するなり、鑑賞用にさせるなり扱いは彼らに任せるつもりです。」
『ふーん』と、ほかに何か気になる事があるのか、こっちを見つめながらカイリはこう言った。
「…やっぱお前変わってるな。」
「どうしてですか?」
「前から思ってた事だけどさ。
普通、魔界のモンスターってのは、種族間の上下関係みたいなものが厳しいモノなんだよ。
なのにお前の店で働くあいつ等とお前と来たら、そんな垣根見たいなモノがないだろう?」
「そういうモノですかね?」
「そんなモンだ。その証拠に今日一緒に仲良く追いはぎしていただろう?」
「ああ、あれですか…。
それはただ自分が店長としての威厳みたいなモノがないからじゃないのですか?」
「そうかしら、ブラドは貴方の事を結構評価してたから、そんな事はないと思うわよ。」
「あっ。」
いつの間にか自分のもう一つ隣にセリカは座っていたので、セリカにも景品を上げる事にした。
「はい、コレ。
カイリさんと同じモノですけど、どうぞ。」
セリカは景品であるピアスをじっと見て、受け取りながらカイリと対照的な態度で素っ気無く言った。
「まあ、気に入らないのはカイリと同じモノというだけで、貴方のプレゼントならもらっておくわ。」
「おいおい、こういうプレゼントはな。
素直に『ありがとう』と言って、受け取るのが礼儀だというのがわからないのか?」
半ば呆れた表情で、カイリはセリカに注意していると、それが…
「あら、カイリ…いたの。」
『垣根』のある魔王達の戦いのゴングを鳴らした。
「あん、てめえ、何つった?」
「言葉の通りよ?」
世紀の一戦が今、正に始まろうとしていた。
当然、この事態を黙って見過ごす自分では無い。
「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ。」
二人に間に割って入ろうとする。
しかし…。
「ショロは、下がってなさい。
こういう輩は、一回痛い目見ないとわからないのよ。」
片手で軽々と自分の身体を持ち上げて払われてしまう。
その事で測らずして後ろから笑いが起こったので、周囲を見ると人が集まっていた。
おそらく、これから起こる事態を理解していないのだろう。
しかし、セリカもカイリも周囲が気にならないのか、カイリに至ってはこう言った。
「はっ、この前、お菓子を盗み喰われたくらいで、腹を立てるお前にオレが倒せると思っているのか?」
おそらく、『セリカ・カイリ事件』の事だろう。
しかし…。
お菓子とられた程度で、島が消滅した…。
では、今回はどうなるのだろう…。
…いかん、とても良い方向のイメージが沸かない。
何が何でも止めなければ、世界が滅ぶ。
ゴゴゴ…。
明らかに二人を震源にして地震が起きた。
だが、ここまでだった。
自分の身体が崩れ落ちる様に倒れたからだ。
『シュロ!!』と先に気付いたカイリが駆け寄るが返事が出来なくなっていると、頭に声が響いた。
『すまないな、これ以上、騒ぎになると収拾がつかなくなるので、手っ取り早い手段をとらせてもらったよ。』
この声は数分前に聞いた事のある声だった。
『もしかして、ここのバーテンダーさんですか、でも、どうして?』
『それは、私も魔界出身だからだ。』
驚きながら、話を聞いていると、昔からカジノのある町には魔界と何かしらの繋がりがあるらしく。
そのため、闘技場のモンスターはその契約の中で、出て来る事が出来るらしい。
そういえば、ダロタもブラドもこの闘技場に出ていた事を思い出していると、バーテンは話を切り出した。
『本題に戻すぞ。今日のトコロは帰るんだな。』
『ですけど…。』
『お前がどんな勇者か知らんが、魔王を二人同時に戦って勝てるのか?』
そんな話は聞いた事もない、それ以前に勇者でもないので、この魔界出身らしいバーテンの言う事を聞く事にして帰ろうとして動こうと身体を動かすがそれが出来ない。
目は開いている、息も出来る、ただ出来ないのは身動きが取れないだけ、こんな状態でどう帰れというのだろう。
『それなら、こっちに任せておけ。』
…何かとても嫌な予感がした。
そうして、今、自分はどうなっているのかというと…。
「カイリそろそろ、シュロを背負うの交代の時間よ。」
「もう、そんな時間か、少し早くないか?」
ホントに世紀の大惨事を未然に防ぐ事に、何とか成功したのだが、今、自分は村に着くまでしばらくの間、二人に交代で背負われている状態が続いていた。
意識がある為、物凄く恥ずかしいが、身動きが取れない。
『今なら、このシュロだったか。
コイツを好きにする事が出来るぞ?』
このバーテンダーの一言で全て丸く収まったのだ。
急に喧嘩をやめて、お互い頷き合い、自分を背負ってカジノを出て数分。
まるで贄になった気分で、運ばれているとカイリが口を開いた。
「おい、セリカ、あれがショロの住んでいる村だろう?」
「そうね。」
「じゃあ、始めるか?」
『そうね。』と明らかに笑みをこぼした瞬間、何か自分の貞操に危機を感じたので、セリカ達に聞こうと何かしら足掻く。
だが…。
この流れの経験上、セリカがやったのだろう。
今度こそ意識が飛んだ。
「はっ。」
次に目覚めた時は、見覚えのある自分の村にある宿屋の天井だった。
「!!」
慌てて自分の被っていたシーツを捲る。
…よかった。
まだ貞操は守られていたみたいだ。
だが…。
「おい、あいつだろう?」
「ああ、あの美人二人と同時に付き合っているヤツだよ。」
…村中が、とんでもない噂が立っていた。
「えええ〜っ!?」
ようやくシュロの性格が決まりましたので、次回は若干読みやすくなると思います。