シュロ、担任を... その2
セリカは、シュロを制して触って見てみた。
「ただの帯…?
立ち入り禁止?」
「そう書かれているのですか?」
セリカにしても、その帯に書かれた文字を素直に読み上げただけなので理解はしていないが、シュロは思い当たる節があったらしい。
「あれ、コレ…。
確か撤去はずなんですが」
「撤去したって、シュロ、貴方が原因なの?」
「まあ、そうなりますか?
ブラドさんと、ダロタで試作のワナを試すのに、この帯を使ったりするのですよ」
「そういえば、見た事があるわね。
でも、どうしてそれがこんな場所にあるのよ?」
不思議そうにしているのは、二人だけじゃなく、ジラルもそうである。
いや、不振そうにしていたが、彼は魔界の文字が読めないので、武器で切り裂いて奥へと入り込んでいった。
「何でしょう、凄く嫌な予感がするのですが…」
「奇遇ね、私もよ」
お互いの意思疎通も、虚しく。
「だー!!」
担任の声の裏返った悲鳴が上がった。
見た時には、スネを思い切り強打するワナに引っかかって悶絶する姿だった。
そして、数歩、身悶えて歩いたのが災いして、タライが落ちるワナに引っかかり。
落ちるタライは何かしらのワナを起動させる。
「なんですか、このトラップルーム?」
「どうやら、モンスター達が貴方達が試していたワナを真似して、配置したみたいね。
それで、こういう置き方をする時は、あのテープが必要だと勝手に勘違いしたのでしょう」
最後なのだろうか、最後にジラルを爆破した辺りで、何やら珍妙な音楽が流れた。
「驚くべきほどの不幸ね。
あの人、ブラドと同じ匂いを感じるわ」
「私としては担任を爆破しているのですから、心境は複雑ですよ。
というより、普通、死んでますよね?」
そんなジラルは『ぼふっ』と煙を吐き、
「ああ、死ぬかと思った…」
その一言で済ませ、薬草を頬張っていた。
「あの時、薬草をあげたのは悔やまれますね」
「投げ込む気?
そんな事をしたらバレるわよ。
でも、これでもっと怪しくなったわね。
あの先生」
「えっ?」
疑問に思っていると、セリカは肩を竦ませて言った。
「貴方まで、ブラドを見ている感覚で見ないでほしいわ。
最初にスネを強打して、その拍子でワナ踏んで、最後に爆破されてのよ。
しかも、その間にも矢とか飛んでいたというに。
そんな目にあえば、普通…」
「普通?」
「帰るでしょう?」
「ああ、なるほど」
と頷くのは、さらにセリカの肩を竦ませる。
「最深部を見て見たい冒険者の武装でも無いのに、あの人、それでも深みを目指そうとしているのは、おかしいでしょう?」
セリカの指摘通りに、ジラルの足元には武器が落ちている。
それはジラルの持っている武器より、何かしらの加護がありそうな武器だったのだが、ジラルは手にして一振り二振りした程度で、それをスルーしていき。
「良い武器を手に入れようとしているワケでも、ないのですね…」
ますます疑惑が深まり、この階層のモンスターを簡単に震え上がらせる魔王と、普通の一般人は、一般人の背後を『じっ』と様子を伺う。
おかげでここのモンスター達は、『なんだ、なんだ?』と遠巻きながら集まり出すので、
「あの大した事ないですから…」
追い返すのは、シュロの役目である。
「あら、大変ね?」
セリカは笑みを浮かべていると、そのモンスターの群れは道を開けていた。
すると、そこからブラドとダロタがやって来た。
「セリカ様、一体、どうしたのですか?
一方的に、今日は店は休みなんて言われてもですね…って、なんだ?」
幸い、背後からやって来たので、シュロたちの態度に気付いた。
「ブラド、良いトコロに来たわね。
ねえ、ブラド、あの人、見た事ある?」
「見たところ、シュロの村の住人っぽいですが?」
ブラドに至っては知り合いですら無いらしい、そんな態度を見せる。
『ぶひっ』っとダロタも、そんな反応を見せるので、セリカは言う。
「じゃあ、ブラド、今からあの人を襲いなさい」
「セリカ様、いきなり何です、その物騒な命令は?」
ブラドが説明を求められるのも無理もない。
彼とて、ある程度、腕に覚えがあるが、いきなり『襲え』なんて言われて、納得出来るワケがないのだ。
説明を受けた後も、ブラドは未だに不振そうにしていた。
「ブラドさん、加減はしてくださいよ?」
「それはお前の知り合いだからな。
加減はするけど…」
とりあえずダロタを伴ったブラドは、ジラルの前に立つ。
「って、あれ、二人係りで襲うのですか!?」
手加減という言葉に、とても不安を覚えた。