報告書は真実を語る 完結編
レッドドラゴンはため息を付いて、様子を窺いに来たファウルに目を合わせて言う。
「ファウルよ…」
「何だ?」
「客が来ない」
「そりゃ、そうだろ。
こんな、いかついオブジェの店番してるのはな」
「ぬう…」
レクターは『むっ』として炎でも吐いてやろうかとファウルを睨みつけるが、シュロとの約束があったのか、それとも今まで客が来ないのが効いたのか、何もやって来なかった。
そんなレクターはファウルが周囲を見回すのを見て。
「何か買うのか、今日のお勧めはだな…」
真面目に接客を始める。
「なんで、今日のお勧めを短時間でわかるのか知らんが、ロープを探してる」
「なんだ、どうした?」
「ブラドが、落とし穴に落ちて、その上に鉄球が落ちた」
「私の見えないトコロで、何が起きた?」
「毎度の事だ」
ファウルはそれだけを言うと、レクターは何かしらを察したらしく、喉を鳴らす。
「まったくあの魔王どもには、部下を思いやると言うのを知らん。
ロープなら上の棚の二段目に束ねて入ってるが、魔王の開けた穴に届くか?」
「だから、何で知ってんだ?」
レクターは『ゴロゴロ』と喉を鳴らすのをみて、ファウルは呆れもしたが、ブラドを助け出す。
「相変わらずの不死身ぶりだな?」
「うるさい」
ブラドのホコリを払う仕草を見ながら、ファウルは言った。
「ところで俺もお前たちに話があって、ここにやって来たんだ」
そうして話は、また、ここになる。
この魔王は、驚きを手だけで表現する。
「えっ、アイツら来週に来るの?」
「話したら、了承してくれたぞ?
それも快く」
「なんで、また?」
「そりゃ、本人からアドバイスをもらった方が良いじゃないか?」
「だからって、お前、あのシュロだぞ?
魔王も赤龍王を恐れない」
「いや、そりゃそうだけど、さっき馬鹿にしていたワリには随分と怖がるじゃないか?」
それを聞いた魔王は、人間を怖がっていると思われたのか、苛立つように話す。
「あのな、ファウル。
私は、そのシュロが来ても構わんよ。
来てアドバイスなんぞ、もらっても、そりゃ、ありがたいと思っている」
「だったら、良い事じゃないか?」
「だが問題は大有りだ。
シュロが、やって来ました。
後は何がやって来ると思う?」
「ブラドとダロタ?」
「違う!!
そんなモン、危険視しとらんわ。
セリカとカイリだろうが。あの二人がやって来るだろう」
「ああ、なるほど、あの二人が好き勝手やってくれるのは、そりゃ、勘弁願いたいよな」
「護衛かどうか知らんが、こちらがどうやっても、二人はやって来るぞ?
そして、レッドドラゴンが城壁に『ドカン』となって見ろ。
一国を滅ぼす兵器が三つ集まってるじゃないか?」
「レクターはとにかくとして、アイツらでも、分別はあるだろ?」
すると暗黒の中でため息を付きながら、この魔王は言う。
「お前な、俺は魔王だ。
でもな…」
そして、何やらに目線を向けながら言う。
「俺は、未だに影しか表現されて無いんだぞ…。
そんな魔王なんて、作者のさじ加減だろうが…」
「あのな…。
そんな落ち込み方をすると、俺が一番困る。
気持ちはわからんでもないが。
だったら、シュロに注意させれば良いじゃないか」
「それで魔王が恐れる魔王が止まるとでも言うのか?」
「まあ、止まらんだろうな」
「ほら見ろ」
「だが、破壊はしなくなる」
「何だって?」
「アイツが『暴れるな』と言えば、それなりに約束は守る」
「なんなんだ、シュロという人間は?」
その時、ファウルには感じ取れた。
この報告は何度も何人の魔王の手下が、やっているのだろうと。
そして、各国の魔王は、この魔王の様に『気味悪がり』。
他の魔王の手から、何度も難を逃れているのだと思えば、ファウルは思わず笑みを浮かべるしかなかった。