報告書は真実を語る その4
「これはダメージを与えるためのワナというわけじゃないのですよ」
「じゃあ、何が目的なの?」
「魔王をワナにはめるのには、どうすれば良いのかが目的でして…」
それを聞いたカイリは、ピッチングマシンをシュロに向けて言う。
「たまにはシュロも、痛い目に合ってみるか?」
…と、ファウルが説明していると、魔王は笑う。
「やはり、人間だな。
どこぞかでスキを窺おうとしている様が見て取れる。
それでシュロとやらは、カイリの機嫌を損ねたから、命乞いをしたのだろう?」
まるで見てきたかのように、この魔王はファウルに聞く。
だが、
「いや、何も無かったが?」
「なんだと?」
聞き間違えたと思いもしたのか、その魔王『ガタッ』と肘を崩すが、
「だから、何も無いって」
ファウルは、態度を崩す事はない。
「あのカイリだぞ?
逆らって、ただで済むとは思えんぞ?
何か貢いでいるのか?」
「そりゃ、貢物の類はもらってるトコは見た事はある。
だが、お前が思っているほどの、命乞いはした事はない。
あれは何度かセリカに対しても、立ち向かった事もあるからな?」
「馬鹿な…。
相手はセリカだぞ?」
この魔王にしても、ふざけた事を言っているのだろうと、旧知の仲であるファウルに思いもする。
ただファウルにしても、冗談を言っているわけでもなく。
「まあ、戦績は全敗だがな」
ファウルの当然な一言に妙に納得出来た。
「そりゃあ、そうだろう。
魔王に立ち向かおうとするのは、勇者かも知れんが、勇者一人で倒せるのは、竜の王くらいなものだ」
「そういえば、カイリにも同じ抵抗はするが、純粋に力負けしていたな?」
「シュロという人間は何なのだ?」
その魔王は困惑するばかりであった。
「事の始まりは、私が、お二人がワナにはまったトコロを見た事が無いというのが、始まりでした」
「そりゃ、私達は魔王だからな。
いちいち、ワナなんぞに構ってたら、世話ねえよ」
カイリは、セリカと頷きあっていると、シュロは指を差した。
「そこなんですよ。
矢が飛んできたならば、セリカさんは矢を何事も無かったように取り上げて、セットし直していたでしょう。
カイリさんに至っては、トラバサミがカイリさんの足を挟みに掛かっても、トラバサミの方が壊れてしまいますよね?」
「シュロよ、何だ。
オレが行儀が悪いとでも言いたいのか?」
「……」
シュロは顔を引きつらせて黙る。
当然だろう。
カイリは、ピッチングマシンの出力を上げて返答を待っているのだから…。
「なんだよ?」
そして、カイリも、この笑みである。
「カイリ、とりあえずマシンを降ろしなさい。
シュロも、危なくて話が出来ないわ」
「良し、今日からお前はキャノンオークだ」
とりあえずカイリがダロタの転職を仕立て上げたのを、見送って…。
「実際、カイリさんだって、最高速を打ったりしたのは、ブラドさんや私にしても、予想出来ていたのですよ」
「あら、シュロの憶測は外れたというわけ?」
「いえ、そこで連射機能なんです」
「まさか、お前、連射機能を利用して、戦闘不能になるまでやるってんじゃないだろうな…」
「相手が動かなくなるまで、やるの?」
カイリの問いかけに、セリカも怪訝そうな顔をする…。
「貴女達はどうして悪趣味になれるのですか?
大事なのは、どんな速度だろうが連射で来たら…」
ダロタに合図を送ると、『ぶひっ』と連射モードに切り替えて、ブラドに向けて発射させる。
ダメージを与えるための軌道ではなく、スピードもないのでブラドは当然…。
「逃げようとしますよね?」
「あら、私ならシールドを張るわよ?」
「ま、まあ、そこで魔王規格でモノを見ないで下さい。
普通の人間なら、逃げるわけですよ」
「あっ、なるほど、そこで『ワナにはめるには、どうすれば良いか』ってが、重要になるわけだな?」
先に合点がいったカイリに、セリカは不機嫌になるが、
「あえて逃げさせて、注意力を拡散したトコロに、ワナを仕掛けるわけだな?」
「カイリ、誘導というのもあるのじゃないの?」
シュロはもう一度、黙る。
「二人とも、鉄球転がして、そこで落とし穴を作って、ブラドさんを落とさないでください」