報告書は真実を語る その1
ここは魔王の城…。
セリカとは違い、カイリとは違う、魔王の城である。
魔界にはそれだけ広く、それだけの王が存在するのだが。
そして、苛立ちを隠さないのは、どこの魔王も共通なのか、
「この報告書は、ホントなのか?」
殺意混じりに部下を睨み付け、緊張させながら返答を待っていた。
「はい、間違いありません…」
「なら、どうして!!」
「ひぃ!」
「このような結果になる?」
大気を震わせながらその部下に見せる。その報告書は浴に言う収支報告書である。
明らかに低い数字なので、この魔王の怒りもごもっともだろう。
「赤字だな?」
平伏するしかなくなった部下に、興ざめした魔王は肩を竦め要因を説明する。
「良いか、あの商売の形成上、確かに赤字は仕方が無い仕様であったのは、我の知るところでもある。
だからこそ、我々は真似たのだろう?」
「はい、この魔界で人間が営んでいるという、あのワナ屋を…。
確かに真似ましたのですが…」
「そうだ、品質を下げ、価格まで一般価格まで下げて…。
それが…この結果とは、どういう事だ!?」
「ひぃぃ」
しばらくの静寂が、もうこの部下には答えが無い事を示しており。
「もう少し、調査の必要があるというか?」
この魔王はため息一つ。
「では、ファウルよ。
行って来てくれないか?」
その魔王が視線を右に逸らすと、ファウルは噴出していた。
「突然の依頼に、魔剣士のおじさんびっくりだ」
「何を、そう驚く?
お前と我は旧知の仲だし、さらにその人間とも顔見知りと聞く。
これほど打ってつけの人材はいないだろう?」
「確かにそうだが、オレはお前の部下でもないからな」
当然の渋りだったのを、予想していたのか、この魔王。
「でもな、俺らの部下が行ったら、絶対、疑われるだろう?
まあ、出すものだすから行ってくれよ?」
「……」
ファウルは呆れもほどほどに、ようやくシュロの経営する店を発見した。
「これはファウルさん」
「おう、シュロ、久しぶりだな?」
「開店前に来るなんて珍しいですね?」
「まあな…」
シュロの悪気ない一言に、少し苦い顔をしながら、ファウルは店内に招かれてしまう。
「まあ、少し旅の途中でな。
偶然、お前の店が見えたものだから様子を見に来たのだが、元気そうだな?」
そして、彼の頭上から突然、
「まあ、相変わらずだろう」
声が響くのだから、驚いてシュロに聞く。
「シュロ、このしゃべる剥製は何だ?」
「ファウル君、剥製は失礼だな。
私は生きている」
「赤龍王!?
こんなトコロで何やってる?」
「何も聞かないでくれ…」
「事情を説明しますとですね。
ほんの数分前、レクターさんがこの店に突っ込んできたのですよ?」
「シュロ、その件に関しては悪いと思っている」
「駄目ですよ。
今回が初めてじゃないのでしょう?」
「だから、私たちみたいな超重量級は急に止まれないと言っているではないか?」
「だからって、何回も大黒柱に突撃して、店舗を倒壊させて良いというわけじゃないでしょう?
首、抜いたら駄目ですからね」
『倒壊しますから』と注意しているシュロを、見ているとダロタが飲み物を運んできた。
「確かにこんな立派なオブジェが、あるような店は他にはないわな…」
その龍は、ダロタをじっと見つめていたという。