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魔王にも知らない事もある 完結編

 「セ、セリカさま、大変です!!」


 すると突然、セリカは何かを振り払うような咳払いをした。


 「どうしたのですか、セリカさん?」


 「何でもないわ…」


 「その割りには深刻な顔じゃねえか、まさか…?」


 カイリの問いに沈黙で答えたのだろう。


 「それって、不味いのでは?」


 「心配ないわ、ブラドも私に助けを求める程度なら、まだ大丈夫って事よ」


 「アイツの手に負えない事が起きてるから、お前に助けを求めたと思うんだがな?」


 思わずカイリはシュロに、耳打ちをするのだが聞こえていたらしい。


 「うるさいわね、そもそも元を断てば、全て終わりでしょう?」


 「私の妹は、悪の権化ですか。


 大体ですね、お二人とも仮にも魔王なんですよ。


 なんか、こう、魔法とか何とかならないのですか?


 私の記憶を辿って、人物像を描き知ったりとか、あるのでは?」


 すると今度は、魔王が顔を合わせて、シュロを残念そうに見る。


 「ああ、あるにはあるけど…。


 シュロよ、あんまりそういう事を気軽に言うモンじゃねえよ」


 「そうね、そういうのは少し道具を使って行う呪術の部類で、ある材料が必要なのよ…」


 「ある材料、それは何ですか?」


 「その対象を見た『目ん玉』」


 あっさりとしたカイリの返答に、シュロは思わず噴出してしまい。


 「それは駄目ですね…」


 「だろう?」


 それを見たカイリはケラケラと笑い、先頭を歩いて振り向く。


 「それに、シュロの妹だ。


 礼儀とか、そんなんじゃねえけど、実際の目で見てみたいじゃねえか?」


 その明るく元気なその表情に、思わず彼女が魔王である事を忘れてしまいそうになるが、


 「シュロ、この人は、人の家のタンスを開け、人様の下着をのぞき見る変態だという事を忘れないでね?」


 セリカは茶を濁す。


 「うるせえな、でも、シュロよ。


 大方、見回って、妹が見つからないって、結構、不味いんじゃないのか?」


 「こうなるとさすがに心配ですね…」


 「もしかして、村の外に出た?」


 「いや、それは無いですよ。


 門番が気付くはずですし…」


 すると三人が見つめる先は、自然と不思議のダンジョンへと続く道があった。


 「いや、まさかな…」


 「そうですね、それこそ、門番が気付きますよ」


 しかし、もう探す場所がないので自然と近付く、幸い門番はリリの姿を見てないと言ってくれたので、ここら周辺を探す事になった。


 「そういえば、普段、近付くのも禁止なんで、周辺を見るのは初めてですね…」


 「そうね、私もよ…」


 地下に続く洞窟とはいえ、不思議のダンジョン周辺は意外と広く。


 「ところでセリカさん、つかぬ事を聞いて良いですか?


 ダンジョンの入り口って、さっきの場所だけですよね?」


 「まあ、そう聞いているわね?」


 「セリカさん、これは一体?」


 そこには大きめな茂みがあり、シュロは茂みを開いて見せると、そこには大きな空洞が開いていた。


 「これ、間違いなく、ダンジョンの入り口ですよね?」


 「おいおい、まさかリリがここに入ったとか無いだろうな?」


 「まさか…」


 さすがにシュロは兄として、妹の心配をしていると、その入り口から何やら人影が現れた。


 「あ…」


 一瞬、妹かと思いもしたが…。


 「いやあ、セリカさん、大変ですよ」


 そこから現れたのはブラドである。


 「てめえ、期待させてくれんなあ」


 カイリの笑顔で放つ拳が、ブラドの顔面にめり込んだ。


 「カイリ様、そもそも理由を聞いてから、お殴りください…」


 「どうせ、ロクでもない理由だろうが?」


 「いいえ、皆様、私がダンジョン内でワナ設置のアルバイトをしている事を知ってますね。


 そこでいつも邪魔をする。


 人間の子供に困っているのですよ?」


 「人間の子供?」


 思わずブラドを除いた、三人が顔を見合わせる。


 「ど、どうした、シュロ、お前までびっくりして?」


 「もしかして、その子、背丈はこれくらいで、名前はリリと言いませんでした?」


 「おお、そうだ。よく知ってるな?」


 「それ、私の妹なんですが?」


 「なんだと、あれが?」


 「ブラド、まさか貴方、リリを放っておいたのじゃないでしょうね?」


 「いえいえ、とんでもない。


 邪魔なのは確かなのですが、子供を危険な目に合わせるわけには行かないから、普段はダロタが相手をしているのですよ。


 追いかけさせて、地上に誘導してるんですから。


 ですが、どういうワケか、あのリリって子は、やって来るのですよ?」


 「確かに正門には、門番がいますからね」


 「そこでダロタに聞いてみたところ、いつもこの入り口が彼女の入る道らしく、色んな階層に繋がっているから…。


 先ほどセリカ様に報告したのですが?」


 思い当たる節のあったセリカは呆れながら、入り口を見て言った。


 「あら、この入り口、時空が歪んでいるのね」


 「おいおい、しっかりしてくれよ」


 「あのリリが心配なんで、閉じておいてくれませんか?」


 「そうね、リリには可愛そうだけど、あまりお兄様を困らせるのわね」


 「ブラド、リリは大丈夫なのか?」


 「さっきダロタが地上まで送り届けたそうです」


 ブラドはそういうのを言ったのを確認したのか、セリカは手を叩いた。


 だが、その入り口はまだ、開いたままだった。


 「ここは、ただの空洞にしておくわ、何も遊び場まで奪う必要はないでしょう?」


 「あ、ありがとうございます」


 セリカはクスクスと笑みを浮かべながら、シュロの様子を見ているとカイリは言う。


 「じゃあ、さっさとシュロの家に行こうぜ?」


 だが、カイリの動きがピタリと止まった。


 「どうしたのですか、カイリさん」


 「ああ…、駄目だ。


 タイムアップだ」


 「タイムアップ?」


 「セリカ、魔界に戻るぞ?」


 「どうしたのよ、突然?」


 「どこかの魔王(ばか)が、隕石を叩き割って、その破片が振って来そうなんだと?」


 「カイリ、ちょっと待ちなさい、もう少しでリリに会えるのよ?


 隕石の欠片くらい、部下達だけで何とか耐えさせなさいよ?」


 「それが出来れば、お前にそんな事言わねえよ。


 叩き割った隕石の数が半端ねえから、降り注ぐ量も魔界壊滅レベルなんだよ。


 他の魔王のヤツらに、ソイツ、ボコられたけど、他の魔王からも協力してくれと要請が来てるんだ」


 「まさか、この原因って…」


 カイリは未だ見ぬ、シュロの妹を思いながらもこう言うだけである。


 「こっちだって、まさか壊滅レベルの最悪が降り注ぐとは思いもしなかったよ」


 そして、セリカは急げば間に合うと言わんばかりで、


 「どうするのよ、このままじゃ、また見る事が出来ないじゃない?」


 「いや、こうなれば最後の手段だ」


 するとカイリはブラドを呼んだ。


 「なんですか、カイリ様」


 「ブラド、知ってるか?


 世の中にはな、生物の目ん玉を使って、映像を浮かび上がらせる呪術があるそうだ?」


 「い、いきなり、何を物騒な事を?」


 事情を知らないブラドは、血相を変えて、思わず後ろに引いた。


 「よし、お前の目ん玉を寄越せ…」


 笑顔のカイリはとんでもなく怖かった。


 「セ、セリカさま!?」


 たまらずセリカに助けを求めるブラドだが…。


 「そうね、その手があったわ」


 ブラドを見えない力で、拘束して、先ほどの洞窟の中に消えて行った。


 一人、取り残された中、しばらくしていると膝を叩くオークの姿があった。


 「おや、ダロタですか、妹のリリは?」


 先の女の子が、シュロの妹だとは知らなかったらしく、驚いていたダロタの頭を撫でて言った。


 「すいませんが、たまには、妹の相手をしてくださいね」


 そう言って、事情を説明して別れた、その日の夜。


 「そういえば、宿題を片付けないと…」


 シュロは、リリのあどけない寝顔を確認して、宿題に取り掛かっていた。


 その一休み、窓から夜空を眺めていると、


 「た、助けて、シュロ…」


 「おわっ!!」


 キズだらけのブラドが、窓に手を掛けていた。


 「かくまってくれ、殺される、間違いなく、死ぬ」


 さすがに驚く、シュロであったが…。


 「すいませんブラドさん、私の妹に魔王は、とても相性が悪いみたいなんです…」


 とりあえず、乗り込もうとしたブラドを外へと押し込んだ。


 「や、やめろ、シュロ…」


 すると声が聞こえた。


 「な、シュロ、オレの予言は正しかっただろ?


 次の話辺りで、大変な目に合うって…」


 何もない空間から穴が開き、見慣れた手が伸びた。


 おそらくカイリの手だろう、ブラドの足を捕まえていた。


 「ひ、ひぃ!!」


 自分の命が関わっているのだから、ブラドも懸命にもう片方の足で蹴って退かせようとする。


 「ブラド、迷惑掛けないの…」


 すると声が聞こえ、またもや見慣れた手が現れ、さらに足を掴まれ、穴へといざなわれていた。


 「助けて、シュロ、助けてぇ」


 そう言って、引きずり込まれたブラドを見送って、シュロはゆっくり窓を閉めたという。


 「そういえば、ブラドさんとは、初めて出会った魔界の人でしたよね?」


 不可抗力とはいえ、不思議のダンジョンに迷い込んだ妹を、守ってくれた礼を込めて。


 「そんな礼を言う暇があったら、助けろよ!?」


 そんな叫びが、虚空に木魂したという。

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