魔王にも知らない事もある その2
「いいや、見たことねえな」
カイリがそう答えると、まもなくこうなるのはおのずと目に見えて来る。
「てなわけで、シュロ、妹を紹介しろよ?」
昼下がりに窓から覗き込む、魔王が二人。
「最近、時間を選ばなくなりましたね?
どこの生首ですか?」
答えながら、窓を閉める。
すると、再び窓が開いた。
「今回は仕方ないでしょう。
だって、いつもシュロのお母様には会えるのだけど、妹のリリに会えないのよ?」
「だから、こっちはお前の学校の無い日を狙って、昼下がりにやって来たってわけだ」
「ちなみに今日は、魔界に来ないで良いわよ」
「リリに会いたいが故に、店を休ませますか…」
相変わらずの横暴さにシュロは、ため息をつく。
「すいませんが、今、母さんと買い物に行っているのですよ」
だが、魔王二人は顔を見合わせていた。
「やっぱりな…」
「さすがシュロの妹ね…」
その意味がわからなかったが、セリカは『じゃあ、会いに行きましょう』と促したが。
とりあえず、窓を閉める。
そして、窓が開く。
「何で、閉めようとするのよ?」
「こっちは宿題があるのですよ」
「それが、どうしたのよ?」
「これでも学生の身分なんですから、宿題はちゃんとやらないと…」
「そんなモン、ちゃちゃと終わらせろよ~」
「カイリさん、子供にとって習いたての計算式ほど難しいものはないのですよ?
大体、待てば良いじゃないですか?」
すると、セリカは、
「カイリ、これがシュロの妹の運命よ」
「何を不吉な事を言うのですか?」
「うん、まあ、お前に悪気は無いから言うけどよ。
俺ら、お前の妹のリリを見た事がないんだよ」
「それは、紹介もしてませんからね」
「いや、そういう問題じゃねえんだ。
今、お前が『お母さんと買い物に行った』って、言っただろう?
『待てば良い』ともな」
「はい、言いましたけど?」
「つまりだ、俺たちはこのまま待っていれば、リリに会えるわけだからな?」
その真剣な表情にシュロも思わず慎重に頷くと、何を思いついたのかカイリはニヤニヤと笑顔になる。
「何か怖いですよ?」
「シュロ、もし居なかったら、ちょっと手伝えよ?」
確信にも似たカイリだったが、
それにシュロが頷いて、
窓を閉める。
「おいこら…」
すると玄関口から『ただいま』という声が聞こえた。
「あ、お帰り」
部屋を出ようとする際に、もう一度、周囲を伺いながら出迎えると…。
「あれ?」
シュロは、何かに気付いた。
それは妹の姿が見えなかった事だったのか、彼女達の思惑だったのか、どっちなのだろう。
「あれ、リリは?」
「うん、遊びに行ったわよ~」
にこやかな母の笑顔を後ろに、自分の部屋に戻ると、窓が開いた。
「じゃあ、行こうかシュロ?」