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収穫祭後の魔王 完結編

 「やった…」


 セリカの歓喜を浴びながら、カイリも素直に嬉しそうなのだが…。


 「やったんだよな…」


 カイリは、頭を撫でながらモンスターの顔を凝視する。


 「……」


 そのモンスターはじっと頭を撫でられて、


 にっこり…。


 逃げようとせず、気持ちよさそうにしていたが。


 カイリはこちらを見て一言。


 「可愛くない…」


 「そろそろ上位になりますので好き嫌いが分かれる頃だと思ったのですが」


 「よりによって、最後の最後で引き当てちゃいましたか?」


 カイリに続いたセリカも、撫でる事を成功する。


 「あら、私は可愛いと思うけど?」


 そう言って、セリカは引き寄せたモンスター。


 それは簡単に言えば、彼女の三倍ほど身の丈のある。


 大猿であった。


 「シュロも試して見る?」


 「上機嫌なトコロ悪いですが、もし撫でようモノなら、問答無用で攻撃されそうなので良いです」


 首を振るシュロを見て、カイリは別の方からやって来た大猿を見て、


 「まあ、もう可愛いと思えるのはいねえからな」


 カイリなりに我慢しているのだろうか仕方なさそうに、その辺に木になっている、身長ほどある実を難なくむしり取り、シュロに言われた通りの事をやってのける。


 すると素直に撫でようとする仕草を見せ、カイリは、


 「……」


 再度、頭を撫でる。


 しかし、歴然とした体格差、たとえ仕草が小動物ぽくても。


 「ウホッ」


 「可愛くねえ!!」


 カイリは振り上げた拳で烈風を巻き上げて、大猿を空に舞い上げていた。


 「殴り飛ばさないのはカイリ様の慈悲でしょうか」


 イインチョはデコを光らせていると、自らの部下らしき人物がどこからともなくやって来て彼女に耳打ちをする。


 「シュロ様今までの騒ぎのおかげで一部のモンスターが大移動を開始したそうです」


 「大移動ですか?」


 「つまり、このままでは生態系が狂ってしまうから、この検証は、ここまでにしろという事?」


 セリカの宣告を受けたカイリは、がっかりした。


 その時、


 「この役目は私に、任せてもらおう」


 「ブラド」


 振り向いたセリカは思わず、その姿を見て顔をしかめる。


 「何、その格好?」


 「こうなれば普段関わりあいのあるモノ達が、可愛い格好をすれば万事解決でありましょう」


 「つまり、なんでそんな格好をする必要があるのよ?」


 「男でも可愛い格好をすれば、それだけ愛でられるモノと古来より言われております。


 ごらんください!!


 この猫耳、尻尾、メイド服。


 コレだけ揃えば、カイリ様の部下でも好まれる…。


 あ、あれ、セリカさま、どうして結界を張っているのですか、しかも何重に?」


 「ブラド、貴方には掛けてやれる言葉はないわ」


 セリカはカイリの方を警戒しながら、視線を送る。


 「えっ、えっ?」


 『助けて』とブラドは、セリカに言おうとしたのだろう。


 カイリはブラドの顔の、ど真ん中を一発、殴る。


 『殴ろうとする~殴る』が、まったく見えなかった。


 ただ、それが命中した瞬間を目撃しただけ。


 そして、自分達は視界を遮られる事になるのは、結界が何枚か破られた音と空気の振動のためで。


 ふたたび、目を開ける事を許された時には、何もなかった。


 地面が抉れたとか、


 周辺の木々がへし折れたとか、


 そんな事は無く、


 何の変哲も無い森に魔王が一人、そこに立っていた。

 

 「ただそこには勇者の姿はなかった」


 「イインチョさん、不吉な事を言わないで下さい」


 「どうせ次の日には、ピンピンしてるから大丈夫よ」


 セリカの人事かのような一言に、カイリは苛立ちを隠さず言う。


 「おら、そこ、ちったあ真面目に考えてくれよ」


 「カイリ、考えろって言っても、もう貴女が好みそうなモンスターなんていないのよ?」


 「シュロ、もう何か無いのか?」


 「ご安心くださいカイリ様シュロ様はこういう事も想定しております」


 イインチョの一言に、一同はシュロを向く。


 「このまま行きますと、不味い事になりそうですからね。


 一旦、店に戻りましょう」


 そう言うと、セリカは一同を、シュロの店に移動する魔法を唱え戻って来た。


 「そういえば今まで魔界中を、回っていたのですよね?」


 「移動手段を手に入れますと世界は小さく見えるのは世の常ですよ」


 「んな事より、ここでどうしろって?」


 「ちょっと待って下さいよ」


 そう言って、シュロは店内に入ってしばらくすると…。


 「わっ」


 シュロの持ってきたモノに、カイリの目が輝いていた。


 「ぬいぐるみですが、どうぞ…」


 「い、良いのか?」


 「日頃の感謝の意味も込めまして、あげますよ」


 輝くカイリを見て、セリカは聞いて来た。


 「シュロ、私には?」


 「当然、ありますよ」


 そう言って、セリカにもぬいぐるみを渡すとイインチョは言う。


 「気に入ってくれたようですね私も選んだ甲斐がありました」


 「あら、貴女が選んだの?」


 「正直に言いますと、女性の好む物がわりませんでしたからね。


 事情を話して、イインチョさんにも手伝ってもらったのですよ」


 『ふ~ん』とセリカは、そっけない態度をとっていたが、ぬいぐるみに結界を張っていた。


 「ところで、『不味い事になりそうなんで』って言っていたけど何の事?」


 そして、明らかにシュロの動きが止まる。


 「さ、さあ、何の事でしょうか?」


 セリカはシュロの店の開いたドアの先に『あるモノ』が見えた。


 その夜。


 「ねえ、シュロ?」


 眠っていたシュロは『びくり』として、飛び起きた。


 「この猫耳と、尻尾つけてみない?」


 その魔王の影は妙に、大きかったという。


 「や、やっぱりそれに気付きましたか?」


 「用途に気付いたのは、今さっきよ」


 じりじりと迫るセリカ、逃げられそうも無いがシュロも一応は反抗する。


 「嫌ですからね、絶対」


 「まあまあ、いいじゃねえか…」


 するとさらに影が強くなる。


 「カイリさん」


 その魔王の登場に一瞬、助かったと安堵していたが…。


 「シュロ、このメイド服、着てみてくれよ?」


 その時、シュロはあの小動物のようなモンスター達の気持ちがわかったとか、わからなかったとか…。



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