収穫祭後の魔王 その4
「それで一週間待ったけど、どうするんだよ?」
「すいません、少し時間が掛かる作業でしたので時間を取らせてもらいました」
二人の魔王は構わない態度を示すと、まるでタイミングを見計らったかのようにドアが開く。
「お待たせしました」
「あら、イインチョじゃない。何か用?」
「セリカさん、私が呼んだのですよ。
どうも、すいませんイインチョさん」
「いえお構いなく我々としてもとても興味深いモノですからとりあえずシュロ様コレをお受け取りください」
「あっ、わざわざ地上の文字で、どうもすいません」
シュロはイインチョから数枚を報告書らしきモノを受け取ると、さすがに気になるのかカイリは覗き込んできた。
「何だ、それ?」
「これは現在、魔界で登録されているモンスターの名簿なんですよ」
「それがどうしたんだ?」
「先のモンスターが…この辺ですから、ここからレベルを上げて行って、お二人を怖がらないモンスターを探そうかと思ったのですよ?」
「全部って、シュロ、この辺から上は可愛いとは思えないわよ」
セリカは、シュロの資料に指を差して言う。
「ヴァンパイアも含まれてますね。
では、そこをデッドラインと言いましょう」
「デッドライン?」
「シュロ様があまり言い難そうですので言いましょう」
すると少しシュロは、遠慮がちになるので代わりにイインチョが答えた。
「つまりこの線を越えたら無理だ諦めろという事です」
「なっ!?」
「普通はこういう線は下位部分に設定されているのですが上位部分に設定されているのはさすがは魔王ですね」
イインチョはメガネからデコを光らせて、下線を引く。
「さらにこうすればデッドラインは落とし穴」
おそらく可愛くないモンスターなのだろう。
だが、気が気ではない魔王達は緊張しながら聞いて来た。
「い、一応さ、下位も試していいんだよな?」
「そ、それは構わないですよ」
そして、魔界中を魔王の魔力で旅をする羽目になった。
「シュロ、やってみなさい?」
そう言って、シュロは片手に干し肉を差し出し、指定のモンスターに前の対応を見せる。
「こう『もっと寄越せ』と要求したトコロで、かわりに頭を撫でさせろと手を差し出すと大抵は上手くは行くのですが…」
「ですが魔王がやりますと」
砂漠独特の太陽の光を、イインチョのデコが反射した。
「もう、アンタが光を放つから逃げられたじゃない!?」
「セリカ様言い訳はよく無いありませんよ」
とうとう下位から上位へとリバウンドをしてしまうので、セリカの苛立ちは仕方がないのだろう。
そして、上位に上がると、前のモンスターも成長を見せ、自分ほどの体格になる。
「正直、この辺になると怖いので、遠慮願いたいのですが…」
「まあまだ可愛い方ですよ」
そう言ってイインチョは頭を撫でていたが、少し虫の居所が悪かったのか軽く引っかかれてしまう。
怪我というワケではないが、さすがに人間であるシュロはやらないようになる。
そして、魔王が現れると…。
「あのイインチョさん、一つ、勉強になったのですが」
「はい何でしょうか?」
「レベル差のついたモンスターとは、逃げるように出来ている事を学びました」
この繰り返しが、とうとうデッドラインに5、4、3、2、1と近付く。
「カイリさん、コレが最後ですよ」
「お、おう…」
デットラインが上に近づくとレベルも違って来たのか、逃げられる事は少なくなっていた。
防衛で襲い掛かりはするが…。
その場合、カイリなり、セリカなりに有り余る攻撃力任せに『叩いて黙らせる』という手段が取り、その場を凌ぐのであるが。
その後、本気で泣き出すので、『逃げ率』より『泣き率』が高まっているのが現状だった。
「逃げられなくなった分、マシになったと思ってくれよ…」
そんな中、カイリは悪態をつきながら恐る恐る、相手の頭に手を伸ばし。
「カイリ、やったわ」
とうとう頭を撫でる事に成功したのである。