収穫祭後の魔王 その3
魔法を唱えたのか自分達を含めて、セリカ、カイリは姿を消して、しばらくすると、この森に静寂が戻った。
けもの達はまず視覚で周囲を確認して匂いを嗅ぐと、ようやく辺りに平穏が戻ったのを確認したのだろう。
ぞろぞろと日常、そこには人間のいない動物達だけの世界が広がろうとするが、
一匹が『それ』に気付いた。
「ふっ、ふっ、ふっ…」
魔王カイリが本懐を成さんと不敵に笑う。
「……」
それに顔色を変えて逃げ出したモンスターを見て、カイリは叫ぶ。
「あっ、こら、待ちやがれ!!」
「駄目よ、カイリ!!
相手は『逃げたら終わり』なのよ」
猛然と追い掛けようとするが、セリカはそれを止める。
それは再度、動物大移動を避ける事となったが、今度はセリカはモンスターに挑む。
「そうよ、相手は逃げたら、終わりなの…」
ゆったりとセリカは、その小動物の群れに迫る。
「……」
それはもう、じりじりと…。
「セリカさん」
だからこそ、言わなければならない。
「シュロ、何?」
「はっきり言って、めちゃくちゃ怖いですよ?」
セリカに睨みつけられるが、その証拠というか、とうとう大移動が始まる。
「ちくしょう…」
「カイリ、次、行くわよ」
諦めず突貫するが、良く言ったモノである。
魔王からは逃げられない。
それは絶大な力を持ってる魔王が、その絶対的な力の差を見せつけ、戦う気をなくした相手を、さらに絶望を与えるための名文句であろう。
だが、この名文句が負ける理由になるとは、誰が思ったのだろう。
「待て、待ってくれ~」
「こうなったら、奥の手よ!!」
イラだったセリカはとうとう相手を魅了する魔法を唱える。
そこで、ようやくセリカの元に数匹のモンスターが寄って来て、頭を撫でるセリカを見て。
カイリは言った。
「セリカ」
「何よ?」
「それは、違うだろ」
「…魔法が切れたら野生に戻るくらい、わかってるわよ」
「お前の気持ちは、わからんでもないがな」
そして、とうとう二人は膝をついていた。
「二人とも、そこまで落ち込まなくても」
「そうですよ。
セリカ様、そもそも魔界とは、力社会が主でしょう。
そんな些細な事…」
「ブラド…」
セリカはブラドの背に手を置いた
「馬鹿野郎!!」
そこにカイリが思い切り、心臓を殴りつけた。
空気の振動がここまで伝わってくるほどの、威力をセリカが一切、逃がさないという純粋威力の一撃だった。
「今、自分の膝元に猫を置く事にどれだけ重要なステータスか、わかってねえようだな?」
「そうよ、あれは魅了されているから膝の上に乗っているわけじゃないのが、今、わかったのよ。
つまり小動物に怖がられない事は、魔王にとって別のステータスとなったのよ?」
「まったく、わかってねえヤツだ。
自分達にないステータスが有るか無いかで、魔王はな自慢できるんだよ」
この騒動が後に他の魔王たちにも及び、魔界を揺るがす事になるとは、自分は知る由もなかったが、
「す、すいません、私としてはですね…。
ま、前に私を主人公にした、続き物があったじゃないですか、どうして私の時は認知されなくて…。
お二人の時は、こう続くのかなと…」
「あ?
んな事知らねえよ」
カイリの一言に、ぐったりと倒れたブラドは虫の息だった。
「というより、良く生きてますね?
で、ですけど、こうも予想以上に嫌われるとは思いもしませんでしたよ」
そんな事を言うと、魔王二人もさすがに睨むが、
「きゅう?」
いつの間にやら、足元に擦り寄ってきたモンスターが毒消し草を咥えて見上げていた。
「くれるの?」
何も答えなかったが、そのまま地面に置いて去っていくのでそうなのだろう。
こうなるとさらに落ち込むのが魔王陣営である。
「シュ、シュロ。
お前、うらやましい、うらやましいぜ」
そして、カイリは自分も続こうとしたのだろう。
だが睨む、いや、見つめるだけで『群れ』が遠ざかるのだから、くるりとこっちを見るカイリに一斉に視線を逸らす、セリカ側、ちなみにブラドも倒れたままであるが首を曲げるほどである。
「カイリ、心境は察するに値するわ」
珍しくセリカが、カイリをなだめていた。
「ですが、こうなると次の手段を講じないといけませんね」