収穫祭後の魔王 その1
その深夜、カイリはイライラしていた。
自身の城にて、気分一新とばかりに寝しようとしたのだが、やはり、寝付けず。
閉じたまぶたから、昨日となった事を嫌でも思い出す羽目になる。
収穫祭の事、モンスターが何故か暴れだし、吊るされるシュロ、そんな中、登場するセリカ、その後…。
「うん、やっぱりそうか…」
眠れぬ理由に気が付き、
「シュロいるか?」
カイリはシュロの仕事日に真っ直ぐ店へ、立ち寄っていた。
「カイリさん、今、営業中ですよ」
「……」
魔王の真剣な眼差しが周囲を圧倒した。
シュロも言うまでも無く、
「な、なんでしょうか?」
「時間、あるか?」
簡単に引っ張られて、少し離れた場所でようやく開放された。
「あ、あのさ、シュロ、真剣な話なんだ」
「どうしたのですか?」
「ま、まあ、良いから聞いてくれよ。
収穫祭の時さ、俺、ちょっと出過ぎたマネをしたと思ったんだ。
で、でも、その出過ぎたマネってのは、何て言うかさ…。
気に入られようと思いたいというか、なんて言うか…」
カイリは顔を真っ赤にして、シュロに言った。
「お願いだ、シュロ、俺を…」
ここまでくれば、何となくわかるだろう…。
「可愛いモンスターに嫌われないようにしてくれ!!」
彼女の切実さが…。
「あのカイリさん、もう少し詳しく話を聞きたいのですが?」
店に戻り、何となく落ち着きを取り戻したカイリは、机に肘を突きながら言った。
「だからさ、聞いてのとおりだよ。
オレだってな、シュロ、お前のようにだ。
可愛いモンスターを、なでりんと、こでりんとしたいんだよ。
こうお腹の辺りを、なでなでなで…と…」
わきゃわきゃと指を動かして、赤面するカイリは少し不気味である。
「カイリさんにそういう趣味があったなんて、知りませんでしたよ」
「あれ、知らなかったのか、ダロタとか良くちょっかい出してただろ?」
「わかりませんって、大体、あれダロタを痛ぶっていた…」
「……」
「あ…」
「そうなのか、そう見えるのかシュロ?」
「いや、何かすいません…」
「私もやりたい!!」
こうなるとブラドとダロタの二人に視線を合わせて、協力するしかないのだろう。
「遅いぞ、ブラド!」
「カイリ様、私たちは移動系の魔法を使えないのですよ。
だからこうして、ダロタを背中に乗せてやって来るしかないですよ。
今度からは、私たちも移動系の魔法で連れて行って…」
「うるさいな、で、シュロ、ここでどうするんだ?」
魔界でも、先の祭りの時にいた、モンスターの生息する地域だった。
当然、ちっこい方である。
「早い話、実践で試してみると言うのが、一番だと思ったのですよ。
ではカイリさん、早速、仲良くなってもらいましょうか?」
「おいおい、いきなり何を無理難題言ってんだよ。
それが出来ないから言ってんじゃないか、お前も見たことがあるから言うけど、撫でるまではうまく行くんだけどさ。
何て言うか、お前とは違うような気がするんだよな」
カイリは首を傾げて、そんな事を言っていた。
まあ、確かにそうだろうと思えたのは自分だけだろう、今まで撫でてきたモンスターは『硬直』してたのだろう。
想像してもらえないだろうか、
『私は貴方を指先一つで殺せますよ?』
という人が単純にカイリである。
そして、実行出来る行動力を持った上で、人間レベルで換算してもらおう。
『貴方の頭を撫でさせてください』
と言えば、抵抗すれば殺される可能性が生まれるワケである。
そして、そんな力が犬や猫に向けられたら…。
動物は本能で受け止めるのは、当たり前である。
「つまりカイリ様、愛られる様を味わいたいというワケですな」
「なんだよ、ブラド、偉そうにお前に出来るってのかよ?」
「自慢ではありませんが…」
「なにぃ?」
殺気混じりに睨みつけられ、ブラドは身を強張らせるが、ちょうど茂みから顔を出した『色違いではあるが』そのモンスターがじっと自分達を見ていた。
「と、とりあえず、シュロよ。
オレが見本を見せて良いか?」
「じゃ、じゃあ、任せて良いですか?」
自分達は後ろに下がると、ブラドは懐からなにやらを取り出した。
『う~、びゃう!!』と敵意混じりに、最初は吠えられていたが、ブラドは臆する事は無い。
「ほら、肉だぞ~?」
その様は人間は動物にエサをやる様子によく似ている。
そして…。
「おおお~」
ブラドのモンスターを撫でる様を見て、カイリは感嘆としていたのを見て、シュロは言った。
「とりあえず、エサで釣るというのは基本ですよ。
こうやって仲良くしてみたらどうでしょうか?」
「や、やってみるけど…」
「大丈夫ですよ、ブラドさんのようにやれば問題ないと思いますよ」
「でもよ、アイツ、毒に犯されてるぞ?」
『色違い』モンスターの特性だった。