収穫祭の魔王 完結編
その魔王がすぐさま目に付くのは、自分だけではなかった。
逃げて行く村人たちに、逆流して行く。
だが、不思議とゆっくりと歩むのだから、村人達の注目を浴びていた。
自分のいる場所からでも、あのモンスターの駆ける音が聞こえて来て、
「セリカさん、危ない!!」
ゲンタのそんな声が聞こえたと思った。
瞬間。
そのモンスターが噛み付こうとしたのだろう。
いや、襲いかかろうとしたのだろうか…。
「そういや、コイツ、セリカんトコのヤツだったな…」
「……」
カイリはつまらなさそうに言う、そのモンスターは、しばらく口をあんぐりと開けたまま、セリカは『じっ』と見たままである。
そしてセリカは不思議のダンジョンの方へとゆっくりと指差す。
「おお~」
そして凶暴なモンスターが素直に帰って行く、神秘的な光景に、村人は歓声を上げる。
「まさに逸話どおりだ…」
セリカを称える歓声が上がる。
「なんだよ、結局セリカの一人勝ちじゃねえか」
カイリは残念そうに言うが、コレは…。
自分にしか…。
いや、不意に影から見守る、ブラドとオークにしか、わからないだろう。
「だから何で、今さっきの数秒を、お前らは『会話』って、感じ取れるんだよ?」
カイリはケラケラと笑いながら、セリカに叫ぶ。
「セリカ、得点稼ぎなんて、汚ねえマネなんてすんな!!」
「あらカイリさん、何の事、私はただシュロ君が迷惑掛けない様にしただけよ?」
「カイリ『さん』と来て、シュロ『君』と来ましたかい…」
『おお~』と村人達が言うが、普段、魔界で見るセリカと、あまりにも印象が違うセリカを見て、カイリは自分は同意的な頷くと。
「気持ちわりぃ、俺、帰るわ」
「何かすいません…」
「気にすんな、俺としても見届け過ぎた」
『じゃなっ』と軽快に言って、カイリは堂々と『不思議のダンジョン』に帰って行くのだから、自分としては眉間にシワが寄る。
しかし、その後、自分はセリカが見ていた事など、気付きもしなかった。
それを知るのは、夜も深まる頃だった。
セリカは今回の祭りの主役に奉られ、このニルバス村にある酒場『白眉亭』は大宴会になっていた。
「はあ」
夜も深まり、未だ宴会騒ぎの続く中、ようやく抜け出せたシュロは、外の空気を吸うがため息をついていた。
「あら、疲れたの?」
気配無く、セリカはやって来るが、シュロは気まずそうにしていた。
「さすがに誘わなかったは、気にしているみたいね」
「まあ、そうですが?」
「でもアレは恥ずかしいわよね」
セリカはクスクスと笑って言う。
「『おのれ、化け物め。
俺たちが、追い返してやる』だったわよね?
魔王でも、あんな口上で倒されたくないわ」
「ずっと見ていたのですか?」
「カイリと一緒に、見ていたのだけど?」
シュロは気まずさより気恥ずかしさが勝ったので、顔が真っ赤だったのを見たセリカは微笑んで。
「ねえ、シュロ」
夜空に翼を広げてシュロに言った。
「その逸話どおり、私も追い返す?」
セリカは『ふわり』と空に浮かぶと突然、周囲が静かになる事に気がついた。
思わず窓から酒場の内部を見ると、^全員眠っていた。
いや、この村の全部が眠りについたのだろう。
セリカがそうしたのに気付くのに時間は掛からなかった。
「まあ、言わなかったのは確かに悪かったですよ」
セリカは魔王と呼ばれる呼称を持つ者だった。
万人にしてみれば、この解答に自分の命が掛かっていると思うだろうが、
「ですが祭りには、誘うべきでしたね…」
不思議と恐怖は無かったので、肩を竦めていた。
「そうね、そこは貴方が悪いわ。
罰として…」
そう言ってセリカは酒場のドアを開けて微笑む。
「食事に付き合いなさい」
大勢の人が眠り扱けている異様な風景だったが、セリカはちょうど真ん中にある机に座って手招くので、しばらく食事に付き合う事になっていた。