収穫祭の魔王 その3
顔見知りでなく、言葉も話せないとわかれば、
「びゃう…?」
モンスターであれど可愛く見えるもので、
「かわええのう、かわええのう」
頭を撫でくり回す。
「よし、みんな集まれ!!」
するとジラル先生が集合をかけて、これからの進行を説明し始める。
とはいえ、何度も経験しているため、こちらとしては必要ないので、余所見をしてしまう。
すると、やはり普段見慣れない店が目に付く。
祭り独特の食べ物を売る店に、小物を売る行商。
中にはやはり目を引くのは、旅芸人による大道芸だろう。
そして、何やら怪しいモノを売っているヴァンパイヤと、被り物をしているが、明らかにオーク。
「うん」
知り合いって、凄く発見しやすいですよね?
「しかも、発見されるなり、逃げますか?」
逃げてもただ場所を変えて商売を再開するしぶとさを感じ取りながら、こうなるとシュロはさらに周囲を伺いざるおえない。
先ほど食べ物を売る店を見ると、カイリが『もしゃもしゃ』と頬張りこっちを見ていたのを発見する。
先ほどの小物を売る行商を見る、
「これは罰ゲームトランプだ」
魔剣士、ファウルが作者のリアル私物を売りさばいており、良く見ると旅芸人を統括していたのはイインチョである。
目の前に、魔界が広がっていた。
だが、セリカの姿はそこにはない。
「おい、シュロ、聞いてるのか?」
ジラル先生に注意されてしまう。
「お前な、そりゃ、何回もやってりゃ、わかるけどな。
モンスターを相手にするんだから、一応、注意くらいは聞いとけよ?」
そういって自分の事情を知っているジラルは気軽に注意して笑いを誘う、そうして説明は終わると、また、自由な時間が生まれる。
はっきり言おう…。
この時、自分にとって嫌な予感はしていた。
「シュロ~」
カイリはタイミングを見計らったのだろうか、手を軽快に振ってやって来たのだ。
最初、まだ用事がある振りをして、逃げる作戦を企てていた。
「あれ、シュロの知り合い?」
のだが、カイリの事を知らない、ゲンタは見逃さないでくれる。
おかげで、この登場のタイミングは絶妙なモノとなるのは、さすがに魔王である。
「なるほど、こうやって祭りを開けば、地域別に盛り上がるを見せるワケだ」
『こりゃいいわ』と笑顔を振りまく頃には、注目を一身に浴びる。
自分からしてみれば、行儀悪く食べ歩いている女性であろうが、その周囲には健康的な女性に見えるのだから、少しずるい。
「内緒にしていたのですが、こういう情報はどこから漏れるのでしょうかね?」
「というより!!」
するとカイリは、すかさずシュロをヘッドロックで締める。
「こんなイベントを話さないのは、ちょっと失礼じゃないか?」
加減しているのだろう、振り回すだけなので痛みはない。
だが、ヘッドロックという体勢は身体を密着させる体勢なので、周囲はざわつく。
「は、離れて…」
慌てて振り解こうとするが、びくともしないのを、何度、経験した事だろう。
逆に引き抜こうとして、痛みを感じる。
「ところで、セリカさんの姿が見えないのですが?」
そして、周囲の視線を気にしたが故に、
「おい、こんな時でも、セリカが気になんのか?」
うっかりと口を滑らせてしまった。
「……」
空気が凍りつくのを感じた。
『力を持つ者は、力を示さない限り、口だけの証明である』
誰の格言だったかは忘れたが、よく言ったモノである。
「お前、二股掛けてるって、本当のホントだったか?」
そうゲンタは言って、クライトだけでない。
学校の生徒、この担任の独身先生まで、一歩引き下がっていた。