第八話 その1
「なあ、シュロ。お前カジノって、知ってるか?」
本日の営業を終えて、まったりとした魔界の時間を過ごしていると、前回、自分の国の政治に力を入れようとするために地上の意見を聞こうと、自分の働いている、この店に来たという『女』の魔王、カイリは唐突にそんな事を聞いてきた。
「あの賭け事をするトコロの事ですか?」
「そうそれ、前に言っていた様にオレの方でもやってみようかと思ってさ。
店の方も一段落したみたいだし、約束通り何か知っている事を教えてほしいんだよ。」
しかし困った事がある。
カイリにもそれが伝わったのか、『どうした』と聞いてきたのでこう答えた。
「すいません知ってはいますけど、行った事ないですよ。」
そのカジノのある街は遠いところにあるのもさる事ながら、年齢制限もあるらしいので行った事がないのが現状だった。
「それじゃ、オレと行ってみないか?」
そして、カイリの唐突なそんな提案にこれまた自分の国の政治はどうしたのか、ここにいるもう一人の魔王セリカは自分に忠告してきた。
「シュロ、この前店を吹っ飛ばしたそんな輩と付き合っていたら、命なんていくつあっても足らないわよ?」
まあ彼女の『半分』は彼女の言うとおりであろう。
「……。」
思わず目を細めてしまう。
それは目蓋を閉じればすぐに映像が浮かぶくらい鮮明な記憶…。
店、吹っ飛ぶ、自分吹っ飛ぶ。
ゴロゴロとようやく止まった頃に前を身体を起こすと、目の前に立っているカイリ。
死を直感…
しかし『冗談だよ。初めてじゃねえから、今度からは気をつけてな』と頬を撫でられる。
少し安心、だが依然と拭えぬ悪寒。
何故かイラつきなさってるセリカ。
すーっと、空へ舞い上がる。
翼を広げ、自分の頭上に広がるの光の球体。
そして…手は振り下ろされた。
さて、問題だ。
『誰に付き合うと、命がいくつあっても足りないでしょう?』
「あら、そんなに見つめてどうしたの?」
「…なんでもありません。」
ダロタもブラドもじっとりとした視線をセリカに向けていた。
まあ、そんな事も構わずカイリは聞いてきた。
「別にいいじゃねえか、シュロ行った事がないなら行って見ないか?」
「だけど、年齢制限とかでバレると思いますよ?」
「そんなモノ、魔力でどうにかしてすればいいじゃねえか、大体何だ。年齢制限って?」
ホントに二人は知らないのだろう。
このままでは『食えるのか?』と言ってしまいかねない表情だった。
だけど、例え相手が魔王であっても、地上に出てくるのであればルールくらいは守ってほしいと思った。
そんな事を考えていると、カイリが自分の顔をじっと見つめて聞いてきた。
「なあ、そんなに行きたくないのか?」
いくらカイリが男と見間違えるほどの外見をしているとはいえ、女性と言われれば女性と見えるとても整った顔立ちをしていたので、その視線に顔を赤くしながら顔を背けてしまった。
しかし、どうも行きたくない理由を探しているように思われたらしい。
「いえ、そういう訳じゃありませんよ。
じゃあ来週、ここで待ち合わせして、行きますか?
…あと、一つだけ約束を守ってくれますか?」
カジノには一度でも行ってみたいなと純粋に思っていた事もあったので、こちらとしてはそんな些細な願望がかなうとなれば断る理由がなかったのでカイリを見つめて言った。
「な、なんだよ…。」
「カイリさん…くれぐれも、『破壊』しないでくださいね。」
その時、少し甘く見ていたんだ。
相手は魔王で、その話を聞いた魔王も黙っているワケがないって事…。
その2につづく…。