第一話
ニルバス村
この村には、不思議のダンジョンという洞窟がある。
不思議のダンジョンとは、入る度に中の構造が変化したり、落ちているアイテムが毎度変わるという洞窟の事だ。
当然、深く入れば、いいアイテムがあるのだが、モンスターも強くなるので一筋縄ではいかない。
命は奪われるまではいかないが、力尽きたら持っていた物を無くして、外へ放り出されるというリスクもあるが、生活費を稼ぐには、低い階層で十分補えるので。彼にとって、ダンジョンでの探索はいい仕事であった。
彼の名前は、シュロ。
父さんを去年亡くし、母さんと妹の三人となったので、「学校に行かずに働く」
と最初はそう言ったのを母さんは毅然とした態度でそう言った。
「お前は学校にいきたいのでしょう?
学費くらいは、私が働いてなんとかします」
だが、生まれつき身体が弱い母さんは。職場で倒れ自宅療養となった。
そして自分に働ける仕事はないものかと、長老に相談すると、「まいったのう」と頭を抱えたのであった。
当然だ。
学費を稼ぎながら学校に行き、生活費を稼ぐとなると条件は絞られる。
『短い時間で高給であること』なのだから。
「そんなの危ない仕事くらいしか、思い浮かばんのぅ。
…おお、そうじゃ。危ない仕事には変わりはないが、この村にある洞窟に行って見てはどうじゃ?」
「あの不思議のダンジョンの事ですか。この村じゃ、成人を迎えてないとダメじゃありませんでしたか?」
「本来なら成人を迎えてないとダメという決まりなのじゃがな、昔は…というより、ワシの頃なのじゃが、15でよかったのじゃよ。実際ワシも、その年で入ってみたのじゃが、モンスターも大した事なかったのもあるしの。
そして他の国では、若くても試験に合格した人なら、どんなに若くてもダンジョンを探索してもよいというのぅ。
帰還の石のお金はワシが持つから、シュロよ。やってみるか?」
当然断る必要はなかったので、試しに洞窟を探索してみた。ホントに大した事なかったので、『長老の家で働いている』という名目と、冒険者には事情を知ってもらって今に至っている。
ここは洞窟の2階
シュロはいつもの様に洞窟を探索していると、小石の様なモノが飛んできた来たので、左手で払おうとすると。
スポッ
「うお、な、なに?」
それは、指輪だった。そしてそれは綺麗に指にはまり、その指輪をまじまじ見ていると、目の前にモンスターが倒れていた。おそらくこのモンスターが持っていた指輪だろう。
だが思わず後ろに下がった、何故ならそのモンスターは深くに生息しているはずの『ヴァンパイア』だったからだ。
当然、次にやる事は一つだ。
道具、帰還の石、使う、さようなら。
「ちょっと、待て。」
だがヴァンパイアの目が光り、身体の自由を奪われた。
「私は危害を与えるつもりはないのだ。
さっき、石でコケてしまってな。指輪を見なかったか?」
動けずにいるシュロの回答を待っているヴァンパイアは指にはまった指輪を見つける。
「フン、人間と言うのは拾ったアイテムを、しかも人様のモノをすぐに装備する習性があるのか?」
ヴァンパイアは、指に填めている指輪を見つめながら嫌味をいうので、反論したかったが身体の自由が奪われたままなので何も言えなかった。
「…まあいい、とにかく返してもらうぞ」
そう言って、シュロの手を取って無理矢理手を開けて、指輪に手を掛けるがなかなか指輪がはずれない。
もう一度試しそうと、仕切りなおしてやってみるが何度やっても外れなかった。
「もしかして、この指輪呪われているのでは?」
「…みたいだな」
結局シュロとそのヴァンパイアは、身体の自由が効いてくるまで指輪の解除作業に明け暮れて、一つの結論をだした。
…別に二人は頭が悪いワケではない。
「確かヴァンパイアは、呪いを無効に出来ませんでした?」
「いや、それは自分自身という意味だ。
相手に掛かっている呪いは無効にできないのだ。」
ホントに困ったのだろう、さっきからヴァンパイアは頭を抱えていた。
指を切り落とそうとしないのかと、思ってはいるのだが、ヴァンパイアは言った事を守るという事らしく、そのおかげでシュロは無傷だった。
「じゃあ、一旦外に出て、呪いを解除してこのフロアに来ましょうか?」
「それは、困る。
その指輪は…まあいい、魔界ではかなりの高価なモノでな。
持ち出されるのは困る…そうだ。」
次の瞬間、とんでもないことを口にした。
「そうだ、お前が魔界にいけば良い」
「…はあ?」
「呪いを解いてもらう為に、魔界に来てもらう」
そんなに警戒するなと言うが、魔界に行く事自体経験がないので、さすがにシュロは警戒した。
「二人で呪いを解除する巻物を探すというのは?」
「モンスターは人間と一緒に探索しない掟があるから却下だ。
それにお前、弱いだろう?」
即答で答えるヴァンパイア、言い返せないシュロ、仕方ないじゃないか低い階層でしか探索してないのだから…。
「……」
しばらくの沈黙が続き、シュロの頭の中で一つの考えが浮かぶ。
『逃げよう』
『ヘアッ!!(眼光)』
そう思い、道具袋に手を掛けた瞬間、ヴァンパイアの目の光を浴びてしまう。
「すまないな、何故か逃げられると思ったのでな」
このヴァンパイアは人の心が読めるのだろうか?
そのまま硬直したシュロの身体を人形を抱えるように持ち上げ、懐から黒く光る帰還の石を掲げた。すると本来なら、光が包み込む本来の帰還の石に対して、黒い光が包み込んで来たを見てホントに魔界に連れて行かれる事を直感するがどうにもできないので、シュロはそのまま魔界に連れて行かれた。
そして…
「どこでどうなってこうなったのだろう?」
「そんなの私に聞いてほしくないものだ。」
思わず独り言が漏れたシュロを見て、ヴァンパイアも独り言を言うように答える。
魔界に来たトコロまでは良かったと思う。だがいざ呪いを解いて貰おうとすると、
「…こりゃ、特別な呪いだな。他を当たってくれ。」
その言葉通りに二人は、他を当たったのだが、さすがは『特別な呪い』どの施設も『他を当たってくれ』と言う。
「仕方がない、緊急事態だ…」
まだ手があるのか期待してヴァンパイアを見るが、ふと数分前と似た感覚が襲ってきた。
「我が王にあってもらおう。」