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~記念の作品

織星、彦姫-二人のひかり

作者: RYUITI
掲載日:2016/07/07

 長い長い雲間が間を分かち、私たちがお互いの顔を長い間みる事が出来なくなったあの日、

何度目かの最後に眼を合わせたあの瞬間、繋がりという呪いを互いにかけた。

年に一度逢うことが出来るとしても、

私たちの想いが永久の時の中で、風に吹かれる砂のように散っていくことは、本当に無いのだろうかと。

そう思っていたから呪いをかけた。

流れゆく時の中で、繰り返す時の中で、

互いの気持ちが水のような清さと紅葉の流れゆくような美しさを忘れないために。

私たちは、年ごとに性別の切り替わる呪いと、外に降りて私たち以外のモノに触れてみるという呪いを、

互いに、言わば自らに切れぬ鎖として巻いたのだ。


本来ならば、年に一度しか逢えない事こそがどれだけ強い呪いとなっているのかという事も、考えた。

逃避行という可能性にかけてみようと思ったこともあったかもしれない。

けれど、夫婦となった私たちにはそもそも、押し通された役目を破ったという天からの罪があった。

その重さを考えてみれば、天の檻ともいえるこの世界の中で何処に逃げる事が出来るというのか。


もしかすると、年一以外にも逢う事が出来るのかもしれない。


けれど、堕落したり、怠惰の沼に身を委ねたことのある私たちには、

そうでなくとも愛するという気持ちを保っていられるのか不安だった。


そうして今、何度目かの別れから出逢いの日を迎えた。


もう何度目だろうか、今回は互い違いの性別なのだ。

私は、彼女が好んでいた紫と藍色の朝顔の織物を羽織って、

赤い鼻緒の下駄を履いて小屋から出た。

近所に居を構える若造が、今日も愛らしいねえと声をかけてきても、

今日だけは、この男を相手にするわけにはいかないのだ。

と言ってもこの若造に髪の一本すら触れさせたことは無いので。

私の心もまだ清い。身体はどうかというとそこいらに関しては何も言えない。

下駄をとんと鳴らして、

鼻歌交じりで石段を下りて青々とした山の奥へと軽い足取りで進んでいく。

途中にある大きな川は私たちの間で【あまのがわ】なんて呼ばれていて。

織物を濡らさない様にゆっくりと丸石の上を歩いて川を渡っていると、

川の向こうから手をひらひらと降る男の姿が見えた。


彼の姿を見た瞬間、私の心はきゅっと締め付けられるような感覚を覚えて。

少しばかり急ぎ足になってしまっていたらしく、いつの間にか丸石から滑り川に落ちそうになっていた。

その刹那、いつの間にか近くの丸石に乗った彼が自ら方に私を引き寄せて支えてくれていて。

その様子に気付いた時には胸の奥と頭の中で、たくさんの風鈴の音が響くようだった。

彼に支えられて、川を渡った私は、

山の先にある彼の小屋へと向かう。

自然と手を握ってしまうのは少しばかりはしたなく感じてしまうけれど、

致し方ない。仕方ないのだ。


彼の小屋に付くまでに、色々な話をした。

昔の話も今の話も、西瓜が安くなっていたとか誰々の家に子どもが生まれたとか。

その度を聞くたびに彼は愛らしく笑い、つられるようにして私も笑った。


彼の小屋の前に辿り着いた時、私の喉がきゅっと締まるような感覚を覚えたけれど、

怖さなど微塵も感じることは無くて。

彼が扉を開ける。

すうっという音と、たんと閉じる扉の音を聴いて。

小屋の中に入った時、私たち二人は互いに、

ふうっと深いため息をついた。


「今年も、天に咎められることなくこの日を迎えたね。」私が言う。

「いやはや、色々と気を使ったが天の川に身を濡らさなくてよかった」と冷や汗を拭いながら彼が言う。

あそこで身を濡らしていたら、明日にはまた遠い場所に引き離させることになるのだ。


いつものように天の言葉によって割かれようとしていたあの日、

私たちは天の言葉が身に沈み切る前にお互いに呪いをかけた。

そうして織姫は男に、彦星は女になった。


別々の身体となった私たちはどうにか、お互いが共に日常生活を送れるようにと何度も奮闘して、

性別が変わる年一のこの七夕の日を過ぎた後、天の干渉によって引き離される形を考えるようになった。

不自然な光を帯びた雨、雷。

ある時、七夕の日に逢う場所がいつも何処かしらの大きな川の先だという事に気付いた私たちは、

濁流に飲まれ、川滑りを繰り返し、大きな川こそが天の定めた路で有り、私たちを別つ場所なのだと確認して今に至る。それでもこの後、私が織姫だと、彦星だと天に気付かれでもしたら、

次の日にはまた逢えなくなってしまうのだと考えると、

怠惰な私たちにも理を持って縛る天にも少しだけ腹が立つ。けれど、其れでもいいのだ。

どちらにしろ、私たち以外のモノに触れてみるという呪いがある限り、

退屈な一年を過ごすこともないし、良い土産話が出来るだろうから。


それでも今回は一年くらいずっと一緒に居たいとも思ってしまう。

この状態の中、今までの暮らしを共にした日の最高記録は一か月。

なんせ、七夕の日を超えて天に察知されてしまえば、

また彼を見つけるところからやり直しなのだから慎重にもなってしまう。

いくら七夕の前日にお互いの居場所が頭の中に流れてくると言っても、

やはり逢えないのはもどかしいのだ。


それでも、今日一日だけは、お互いにお互いをたくさん愛でるとしよう。

今日一日だけは、織姫と彦星のそして織星と彦姫の大切な時間なのだから。


久しぶりに交わした口づけは、胸が熱くなるほどに心地よくて。

久しぶりに繋いだ手は、透明な雫がゆっくりと頬を伝うほどに嬉しかった。


室内に置かれている笹の葉には、二枚の短冊が吊るされていた。

【今日一日が良い日でありますように。】

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