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召喚勇者はマザコンである  作者: 長月 こたつ
サンガ王国編
9/65

01.マザコンは買い物をする

 用のなくなった王城からはとっとと退散するに限る。

 城門を潜り、足早に街道へと出た俺は無作為に道を曲り、いりくんだ裏路地を行く。

 俺のあとを、怪しい者が五人ついて来ているのだ。


 大金貨100枚。


 この金額はおいそれと持ち歩ける額ではない。

 大金貨100枚持って街を歩けば、周りは全て敵に見えるはずだ。

 それは1億円の魔術である。

 だからそうならないために、探検者ギルドの画期的な機能を活用することにした。

 画期的な機能を、というが俺には馴染み深いものなで。

 お貯金である。

 探検ギルドに預け入れ、ギルド証を提示して引き出せる様になっている…らしい。

 ギルド証の機能、その1。

 貯金残高が確認できる!

 まぁその1とは言ったが、俺はこの機能しか知らないんだけど。それも、さっき知ったばっかりだ。

 人の話しは、受付嬢の話しはちゃんと聞くべきだと再度痛感させられた。


 だから取り合えず大金貨10枚だけを手元に、残りの90枚を預けてもらうことにした。

 やはり直ぐに100枚も用意出来るはずもなく、「取り合えず10枚で」と言った時のカイゼル達の安堵っぷりは見物だった。

 10枚でも1千万円になるがな。


 さて、一応は大金を持っているので、つけられる理由はある。あるのだが、俺が大金を持っているのを現時点で知ってるのは、城に居た奴等だけ。

 身なりだって、路店で購入したありふれた平民服。

 チンピラはあり得ない、事はないがそれにしてはタイミングが良すぎる。

 よって、王城関係なのは間違いない。

 金を少しでも巻き上げるためか、監視のためか、抹殺のためか知らないが鬱陶しい事にはかわりない。

 異世界において、人殺しは覚悟しておかなければならない事だと俺は思っている。

 そりゃ現代の(・ ・ ・)日本は頗る安全な国家だ。人が殺されればニュースにもなり、捜査が始まる。

 だが、日本を出れば?

 元の世界でも、それは起こっている。


 闘争、紛争、戦争。


 生きるため、奪うため、己の正義を通すため。

 その理由は様々だろう。

 だが、一歩日本を出れば、現実のものとしてそれは起きている。


 生まれた場所が日本だったから。


 殺さなくても死なないから、殺しなどしなくても生きていられるから。

 でも紛争地域に産まれていたら?


 更に言えば、昔の(・ ・)日本はどうだったか。

 チョンマゲ?ハラキリ?ツジギリ?トノサマ?


 郷に入っては郷に従え。


 間違わないでほしいのは、俺かて殺しを推奨しているわけではない。起きうる可能性として、生き残るため考えて置かねばならない事なのだ。



 さて、ここまで語っておきながら何なんだが。

 つけてきている5人を、まだ殺すわけにはいかんのです。

 何故かって?

 残りの90枚を確実に振り込んで貰うためですよ…ぐへへへへ。


 角を曲がった瞬間、俺は地面を蹴り、それが追いかけっこのスタートだ。

 入り組んだ路地を適当に駆け回り、尾行者の視界から俺の姿を切り離した所で、


「【風よ】吹き上げろ」


 地面を真上に蹴り上げ、魔術の力も借り、屋根の上へと跳躍した。


 眼下を、俺の姿を必死に探す男達が駆け抜けていった。






 ◆◇◆◇◆◇◆◇





 大金を手に入れたとはいえ、それに甘んじているわけにはいかない。

 魔術媒介などの値段もそうだが、母さんへのお土産を買う金もたくさんいる。

 やはり、金を稼ぐにはダンジョンだろうか。

 稼ぐためにダンジョンで、売れる物を沢山持って帰る必要がある。

 ドラゴ…魔王討伐の帰り道を参考に、一人で潜るのは効率が悪いと考えた。

 帰り道では持ちきれず、その場に破棄した素材や魔核が多くあった。


 で、俺が出した答えは至極簡単、奴隷を購入する事だ。

 異世界ものの小説には度々出てくるワード。

 世界によって待遇はまちまちだが、重要な所は基本的に同じだ。

 ───主を裏切れない。

 これは大変重要である。

 異世界の者、勇者(エセ)、異世界転移魔術。

 知られると面倒事が増えそうなモノばかりのラインナップ。

 秘密は守って貰わねばならない。

 そこで、裏切らない奴隷が適任なのだ。





 ───俺は真っ白な建物を見上げた。

 やって来ました奴隷商館。


 変なイベントとかは、勘弁して下さい。

 と、俺は柏手を打ってから商館へ足を踏み入れた。


「当館にお越し頂き、誠に有り難うございます」


 出迎えるは、ザ・商人な見た目のおっさん。

 ちょいハゲ、ちょい整った髭、ちょーでた腹。

 ザ・商人である。


「奴隷を購入しに来たんですが」

「はい、畏まりました。では、どう言った奴隷をお求めですか?」


 揉み手をして、商人はにこやかに尋ねる。


「あー…どんな感じの人がいるんですか?」

「なるほど。お客様は奴隷をお買い求めになるのは、初めてですね?」

「はい、そうです」

「当館では肉体労働から頭脳労働。家事から荒事。野外での戦闘から夜の戦闘まで。老若男女、上は70下は4と幅広い物を取り揃えております」


 なるほど、なんでも御座れの奴隷商館か。

 町で一番大きいだけのことはある。

 だが待て、4才はそれ犯罪だろ!

 いや……この世界ではありなのか?

 まぁ、俺には全く縁のない話だ。


「では、女性の戦闘が得意な方でお願いします」


 あ?むさい男と四六時中一緒とか耐えられるのか?

 俺には無理だ。


「夜のでございますか?」

「違うわ!?」


 つい、声を荒げてしまった。


「これは失礼致しました。では、それではこちらへどうぞ」


 商人はそう言い、俺を奥へと即した。




 連れて来られたのは、20畳ほどの簡素な部屋。

 壁際にポツリと置かれたソファーに座らされ、「少々お待ち下さい」と商人は部屋を出ていった。


 数分後、ぞろぞろと女人を引き連れ商人が帰ってきた。


「こちらが当館自慢の女戦闘奴隷です」


 俺とは反対の壁際に並ばされている奴隷の人達。

 数は25人とだいぶ多い。

 異世界(ファンタジー)らしく、獣耳や長耳の方までいる。

 だが見るからに皆、歳が若い。

 10代前後から20代半ばだろう。


「これだけですか?」


 ふふふ、まだ隠しているのだろう?

 並んでいるのは、一般的な男子なら飛び付くだろう綺麗所が集められている。

 それに、金額もそれはそれはいいはずだ。


「…お気に召しませんでしたか?」


 落胆を見せる商人に俺は首を横に振る。


「いえ、全てを見ておきたいと思っただけです」

「お客様の要望に添わないと思いますが…お待ち下さい」


 商人がもう一度退出していった。

 お前が隠しているものは分かっている。

 だが、俺はそれを目当てにここへ訪れたのだ。

 ダンジョンのため?

 はい、建前です。

 この待機時間が焦れったい。




「…お客様、こちらで全てです」


 お客様も物好きですね、と言うような表情で商人が言った。

 追加されたのは10人。


 いや…すまん、俺が間違ってた。

 違うんだ、本当にこんなんだとは思ってなかったんだって!


 連れて来られたのは………年端もいかぬ小さな子達だった。


「………………」


 吟味する振りをして、俺は内心では頭を抱えていた。

 期待してたのに!思ってたのと全然違う!

 え?マジでこれだけ?

 俺の希望は?

 俺の癒しは、ドコデスカ?


 何故…何故………何故!三十代半ばの女性がいない!


 俺の母さんは今年で35歳になる。

 これだけ言えば、分かるだろ?


 俺は…母さん(仮)を探しに来たのだ。

 もはや母さん成分なしでは、今すぐカイゼルを抹殺してしまいそうなのだ。

 母さん成分がフソクシテイマス!

 母さん成分をホキュウシテクダサイ!

 ギブミーマザー!ヘルプミー!!


 本物の母さんではない。

 そう、偽りだ。

 そんなことは俺とて分かっている。

 だが、末期な俺の脳内は「パンがなければお菓子を食べればいい」と、「母さんがいないなら、仮の母さんを買えばいい」と言っていたのに!


 何故だ、何故だ、何故だ、何故だ、何故なんだ!?



 ファーーー!!




 よし、少し落ち着いた。


「熟練の、方は居られないのですか?」


 この聞き方ならば俺の思惑には気づけまい。

 平静を装い、隣に立っている商人へ聞く。


「申し訳ありません。王都付近では現在、30代から40代が不足しておりまして」


 商人は深々と腰を折る。お腹の肉が邪魔そうだ。


 だが、聞き捨てならない言葉を言っていた。

 王都付近では…だと!?

 ならば、周辺の奴隷商を回っても居ないということだ。



 くっ…カイゼルめ!?

 いや、違うか。


 しかし、居ないとなるとどうするかだ。

 ダンジョンに潜るのに人手はあった方が楽なのは楽だ。

 だが絶対に必要かと聞かれれば、そうとは言い切れない。


「んー…」


 眉間にシワを寄せ、悩む俺に慌てる商人。


「お、お値段の方はいかほどをお考えですか?」

「んー大金貨を少々」


 その言葉を聞き、商人は絶句し。

 そして、目の色を変える。


 俺は知らなかった。

 奴隷の相場を。

 人一人の人生を買う、それを言葉にすれば重い。

 だが、一人の人生だからと皆が高値で売り買いされれば、人売り身売りでインフレが起こしてしまう。

 故に奴隷の相場は金貨4、5枚。

 日本円にして4、50万程なのだ。


 某国の姫君ともなれば、プレミア、ブランド等で大金貨ウン10枚と行くこともあるが、それは滅多な事ではない。


 そこで俺が告げた予算。

「え、数百万円だけど?」

 商人が目の色を変えるのも無理はない。


「こちらに揃えた物は、殆どが処女の物でして」

「……へー、ふーん」


 俺の反応に、焦る商人。

 処女だのと、俺には関係のない情報だ。


「更に戦闘では──」

「あ、そうだ」


 商人の熱弁を遮り、俺は声を上げた。


「この中で魔術使える人は?」


 商人は何としてでも俺に売りたいのだろう。


「…魔力があるものですか?」


 言い回しを変えてきた商人。

 だが俺が求めたのは魔力を持っている、ではなく魔術を使えるだ。


「いえ、魔術が使える人で」

「…畏まりました」


 商人は肩を落とし、奴隷を捌いていく。


「これだけです」


 残ったのは5人。

 うち4人はアウト。


「彼女は?」


 残る一人の奴隷を指名する。


「はい、歳は20。勿論、処女でございます。魔術は種族がら適正は高いのですが…」


 どうやらこの世界も、人種差別は横行しているようだ。

 俺はその部位に視線を向けた。

 長く尖った耳。

 そう、彼女はエルフだった。


「その、長耳族でして…」


 商人の声も必然、弱気になる。

 この世界は人間主義なのか?

 まぁ、俺も出来れば普通の人族が良かったのだが。

 もちろん差別とかではない。生活基準が違うと色々と難しいと思ったのだ。男と女だと尚更。


「魔術は得意?」

「うひゃ!?ひゃい!」


 取り合えず、性格は良さそうだな。

 コミュニケーションも、まぁ良好…なのか、これは?


 商人が驚きの表情でこちらを見ていた。


「なにか?」


 俺、変なことしたかな。

 商人も自分の向けた視線が不躾だったことに気付き、慌てて弁解する。


「申し訳ありません。お見苦しい所を…ですが、お客様はエルフ語がお喋りになられるのですね」

「えー…あぁ、まぁ」


 なるほど、全てが納得いった。

 言葉が違うから商人は売れないと肩を落とし、この人は突然母国語で話しかけられたから驚いたわけか。


 これは恐らくだが、よくある召喚特典だな。


 一人で納得した俺は、女性に…


「ところで、お名前は?」


 女性、女性と言うのも目の前に居るのに変だ。

 俺は軽い気持ちで聞いたのだが、


「る、ルリジューズといいまひゅっ!」


 噛み噛みである。

 だが…そうか、そうかそうか。

 ルリジューズと言うのか…ルリジューズね。


「このルリ(・ ・)って人、買った!」


 即決現金で!


「ま、誠でございますか!?」


 これには商人もびっくりする。

 揉み手が大変な事になっているが、今は置いておこう。

 摩擦で火とか付かないよね?


「ごほん…それで、彼女はいくらですか?」

「はい、本来なら見た目も充分綺麗ですし、魔術適正も高く、お値段も…」


 そんなわけないだろうに、商人はにこやかに笑う。

 まぁ、キレイなのは確かだ。

 だが、見た目が綺麗なだけだろ?

 それに長耳族で言葉によるコミュニケーションはエルフ語だけだし。


「え、そうなんだ?じゃあ──」


 やめよっかな。

 俺は鎌を掛けようとしたのだが、商人の反応速度は凄まじかった。


「ですが!」


 声を張り上げ、俺の続きの言葉を防いだ。


「お客様は奴隷初購入と言うことですし!ここは、これからのご贔屓を願いまして!」


 もはやそれは早口言葉である。

 弾丸トークショーである。

 冷や汗を流し始めた商人は、最後まで俺に口を挟む猶予を与えず言い切った。


「なんとなんと!お客様だけですよ?お値段は金貨3枚!」


 奴隷とはそんな値段なのか?

 俺は相場を知らないので安いと感じたのだが、黙ってそんなことを考えているため、商人は渋っていると勘違いし。


「で、でしたが!今日は特別ご奉仕!金貨2枚と大銀貨7枚……………大銀貨5枚……………3枚!」


 何故か安くしてくれたので、一人でエキサイトしていく商人をただ見詰めた。


 見詰める。

 見詰める、見詰める。


 このまま、もう少し安くなる気がしたんだ。


 案の定。


「き、金貨2枚でどうでしょうか」


 流れる汗を拭きつつ、商人が青ざめた表情で俺を見返す。


「じゃあ、それで」

「あ、有り難うございます!」


 なんか可愛そうになってきたので、ここらが潮時だ。


 ルリジューズを買った理由か?

 ルリジューズは魔術適正が高いらしいから、この世界の魔術を母さんのために教えてもらおうと思っただけだ。


 えぇーい、そんな目で見るな!

 違う、あれだ!そう、彼女がキレイだったからだ。


 ………くっ。

 母さんの…母さんの名前が… ルリナリア…なんだよ!

 文句あるか、この野郎!


本日2話目。

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