02.
登城したそのままに、俺は謁見の間へ通された。
どうやらカイゼルは暇らしい。
仕事しろ、仕事!
いや、無理矢理に時間を作ったのか?
…まぁ、俺は関係の無いことだ。
「勇者様、此度のご帰還を心より──」
「ご託はいい」
カイゼルの言葉を遮る。
いくらカイゼル達が下手にでようが、誘拐犯が下手にでたところで許せるわけがない。
例えば…
すいません。貴方を誘拐しましたがお金が必要なんです。いつか必ず両親の元へ無事に御返ししますから、どうかそれまでご辛抱ください。
なんて言われて、許せると思うかね?
俺は思わん。
「カイゼル、これを見ろ」
俺は袋からドラゴンの魔核を取りだし足下に転がす。
「コレが何か…分かるよな?」
その場の全員が、息を飲んだのを感じた。
「………まま、魔王の、ま、魔核!?」
どうやら、お姫様がカイゼルの代わりに答えてくれた様だ。
口を押さえるお姫様の手が、小刻みに震えている。
「さて、お察しの通り……なんと魔王は死んでしまいました」
俺は顔に笑みを張り付け、おどけた口調で言った、
ゆっくりと、謁見の間にいる全ての者へと視線を巡らしていく。
そして、カイゼルの所で止め、
「…これで、俺は帰れるんだよな?」
顔から表情を削ぎ落とし、数日前に答えが出ている問いを、敢えて繰り返す。
案の定、場が葬式会場の様に静まり返った。
みんな息してる?大丈夫?
あ、ダメだ。お姫様が過度のストレスにより、過呼吸になっている。
過呼吸で死ぬことはない。
そう、死ぬことはないのだ。
だからと言って、こうも近くで苦しそうにされたまま、話を進めるのも釈然としない。
「……おい、落ち着けって」
「は…はひ…」
目の前には息苦しそうなお姫様。
「ちっ」
自分の甘さ加減に舌打ちし、頭を掻きむしる。
「はぁ………俺の言う通りにしろ。吸って、止めて…吐いて吐いて。吸って、止めて…吐いて吐いて」
背中を擦りながら押し、呼吸を整えさせる。
俺は母さんにもしもの事があった時の為に、粗方の応急処置法などは修得済みなのだ。
過呼吸は酸素の吸い過ぎ等ではなく、二酸化炭素の欠乏状態に陥った症状だ。
袋で口を被うヤツ、アレ間違いな。
アレすると、逆に窒息しする危険があるからな。
徐々に落ち着きを取り戻し始めたお姫様。
「…もういいだろ。適当に休んどけよ」
俺は背中を押して、侍女らしき人物にお姫様を押し付けた。
「さて、待たせたな」
「……いえ、滅相もございません」
それはそうだろうな。
ここで、「待たせやがったな!このロリコン!」などと言ってみろ、直ぐにでもこの城を倒壊させてやる。
「魔王は死んだ、これは分かったな?」
「…はい」
「で、俺はどうすればいい?」
「………………」
国のトップが、たかがガキに言い負かされるなよ。
カイゼルは俺から視線を逸らし、黙りだ。
これならまだ、お姫様の方が事態に対して真摯に受け止めている様に感じる。
口を開く気の無さそうなカイゼルに、俺は自ら提案を出した。
「では、俺から提案だ」
カイゼルが俺の方を向くのを確認し、続きを述べる。
「一つ、お前らの方でも帰還方法探せ。俺の方でも自力で探すが、手が多くて困ることはない」
カイゼルの返答は待たない。
「二つ、金を寄越せ」
うん、実に簡素で無駄を省いたドストレートな要求だ。
「三つ、俺に干渉するな。用がある時は俺から出向く。以上の三つを守るなら、とやかく言う事はない」
俺から提案に、カイゼルが険しい表情になる。
「暫し、皆と相談しても宜しいでしょうか?」
その言葉に俺も眉を寄せる。
「…どれくらいだ?」
「…1週間ほどで、話しは纏まるかと」
予想通りの期間を開けてきやがった。
まぁ、国の大事だ。一つ決めるにも、まま時間を取られる。
そうして出来た時間は、有効に使われるはずだ。
王国側にとっては、だが。
期日まで何とか俺を懐柔するべく動く。
焦らして、自分に有利な状況に持っていくのもあり。
さらに手っ取り早く……俺を殺して始末するとか。
ただそんな事が出来るのは、立場的にも力関係でも上でないと成功率はガクッと下がる。
「だめだな。今、決めろ」
そして、この場の力関係は殆どが俺に集約されている。
カイゼルや大臣達の顔が顰められる。
お前達の思い通りになど、してやるものか。
「あぁ、勝手にこんなところに連れてこられて…」
俺は独り言を呟く。
「魔王とは死に物狂いで、死にかけたけど何とか勝ったのに…」
はい、嘘ですけど。
「報告に来れば、兵士に殺されかけるし…」
これはあくまで独り言で。
「魔王は居なくなったのに帰れないし…」
返答は求めていません、独り言ですから。
「「「……………………」」」
一同、絶句。
「くふぅ……っ」
笑いそうになるのを腹に力を入れ、肩を揺らし必死に堪え、表情でバレないように俯く。
これも端から見れば、泣いてるように見えるかも知れない。
カイゼルの周りを大臣達が囲み、相談が始まった。
よし、流れは俺の思うがままだ。
話し合い中は、すこぶる暇である。
こんな時は、母さんを思い出すに限る。
これぞまさに、時間の有効活用だ。
……………………………おかん!……間違えた、いかん!
母さんに会いた過ぎて、このままでは八つ当たりで目の前のカイゼルを殺してしまいそうだ。
静まれ、俺のマザーハート。
大丈夫だ、まだ俺はやれる!
くそっ…携帯さえ手元にあれば、母さんの写真が見れたのに。
思考の渦に飲まれていた俺に声が掛かった。
「もし…提案に応じなければ………?」
勇気ある大臣が、今にも死にそうな顔で質問する。
そんな勇気があるなら、勇者になればいいのに。
勇気ある者は、勇者だよね?
しかし、こんな陳腐な質問を受けるとは…血染めの服は処分せずに着てくれば良かったかもしれない。
俺は少し後悔しつつ、魔王の魔核に足を乗せ、
「さぁ、どうなるでしょうねぇ~…試してみる?」
魔核を足でごろごろ転がしつつ、満面の笑みで問い返してやる。
「い、いえ…忘れてください」
哀れな生け贄は群れの中へと帰って行った。
しかし、こんなに自分を素直に出したのはいつぶりだろうか?
全くではないにしろ、あっちでは基本的に評判のいい子で通していたからな。
例外は母さんに迷惑や面倒を掛ける輩のみだ。
まぁそれにしても、母さんにバレないように周りの目が無いか確認して、少しお願いするだけなんだが。
話し合いは難航している。
仕方ない、ここらで折り合いをつけるかな。
「金はそこまで多くなくて良いぞ」
たぶん、揉めているのはこれだろう。
国の金とは国民の血税だ。
おいそれと使って良いものではない。
大いに頭を捻った事だろう。
だが、敢えて言おう。
仮に渡される額が雀の涙ほどだったとしても、魔王の魔核を売り払えばどうにかなる俺、勝利!
ようやく話しが纏まった様だ。
大臣達が所定の位置へと戻り、カイゼルが俺を真剣な眼差しで見詰めている。
悪い、俺にそんな趣味はない………。
冗談はさておき、
「で?どうなった」
「お待たせしました。一つ目は勿論、我が国を上げてお探しします。二つ目なのですが、大金貨を100枚。これでどうかご容赦願います」
大金貨100枚か。
だいぶ奮発したな、おい。
1億円でございます。宝くじです。一気に大金持ちです。
「それだけあれば充分だ」
満足である。
魔術媒介がどれ程の値であるかは分からないが、まぁ足りるだろう。最悪、足りなければダンジョンに潜ればいい。
「そして、三つ目なのですが…護え──」
「いらん」
またしてもカイゼルの言葉を遮った。
が、カイゼルめげない。
「しかしっ!」
「くどいな」
裏側が見え見えの提案に乗るバカはいない。
「俺より強い奴なら、護衛って言うだろうな」
護衛と言いつつも、体のいい監視役を張り付けたいのだろう。
俺の言葉を聞き、さすがにそんな奴は居るはずもなく。
居れば俺は喚ばれなかっただろうが。
カイゼル、並びに大臣共がそろって肩を落とした。
こうして俺は、自由と金をいっぺんに手に入れた。
マザコンが鍵師に追随している…だと!?
お読み頂き、誠にありがとうございます。<(__)>
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マザコン…やる気出てきた!
次回、マザコンが奴隷を…
ご期待下さい。