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召喚勇者はマザコンである  作者: 長月 こたつ
サンガ王国編
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01.マザコンはダンジョンを無双する

 それはまだ俺が5歳で、母さんと一緒に家の近くの公園で遊んでいた時だった。

 当時はただ母さんが大好きな、普通の子供で………。


 はしゃぎすぎた()は転んで、膝を擦りむき大泣きした。

 痛みは少しだったが、血が出たこと驚いた。

 そんな大泣きする僕に、お母さんは優しく微笑んだ。


「大丈夫よ。ほら、泣かないの」


 ポケットティッシュを取り出し、膝の患部へと当てがう。


「ひく、でも、ひく、でも…」


 鳴き声こそ鳴りを潜めたが、流れる涙は止まらない。


「もう、しょうがないはね春ちゃんは」


 呆れた様な言い方だが、その時のお母さんの表情は僕には聖母の様に輝いて見えた。


「春ちゃん、これ、皆にはナイショよ?」


 お母さんは、そっと僕の膝を両手で優しく包み込み。


「【癒しよ】」


 それが俺の初めて触れた魔法であり、魔法と異世界の存在を知覚した瞬間でもあった。


 手の隙間から、柔らかな光が微かに漏れだす。

 その現象の驚きで、僕はただただお母さんの手で包まれた膝を凝視していた。


「……じゃーん!」


 悪戯っぽい笑みと共に、両の手が退けられる。


「…………え?」


 見えた膝はつるりとした肌で、血の赤はなくなっていた。


「ふふーん!実はお母さん、魔法使いなのよ」

「ほ、ほんとに!?」

「えぇ、そうよ」


 僕は膝を怪我した事も忘れてお母さんの話に夢中になっていた。



「僕もお母さん見たいな魔法使いになれる?」

「もちろん、なんたって私の子なんだから!すっっごい魔法使いになれるわよ!」

「えへへ」

「ふふふ」


 お母さんの温かい手が、僕の頭を撫でた。

 その頃には、すっかり涙は止まってた。





「…………………夢、か」


 いつの間にか眠る、と言うより意識を失っていた俺は固い石の床から身を起こした。

 今しがた見た夢を想い、そっと頭に手を乗せた。


「………俺は母さんの子だ」


 そう自分に言い聞かせる。


「母さんは天才だった」


 そう魔術の天才だ。


「俺は天才の子供だ」


 あの世界で習える教えは受けた。


「母さんにも出来たんだ」


 異世界を渡ることが。


「この世界でも魔術は使えたんだ」


 過程が違っても根源は同じはず。


「なら、俺にも出来るかもしれない」


 異世界を渡ることが。


「母さんを驚かせよう」


 母さんの知らないような魔術で。


「母さん、喜ぶかな」


 根っから研究者体質だから。


「未知の世界の魔術だし」


 食いついて来てくれる筈だ。


「母さんに話してあげる為に」


 元の世界へ帰る為に。


「こんなところにいられない」


 俺の心に希望ではなく、実現させるためのヤル気の火が灯った。

 俺は立ち上がり、心臓のある位置の服を握る。


「母さん………」


 夢に出てきてくれた母さんに、心内でお礼を言う。


「しっ!」


 続いて両頬を叩き、気合いを入れる。

「バシッ!」と景気の良い音が響き、ヒリヒリとした頬がまっ赤に染まった。


 先ずは現状確認からだ。

 俺は辺りを見回し、絶句する。


「……………………」


 辺りは惨殺現場と化していた。

 ついで、恐る恐る己の服装に視線を向け……………。


「……OH MY GOD!」


 買ったばかりのローブは見るも無惨なボロ衣に。

 見れば身体の到る所にも切り傷が走っている。


「…死にたがりめ」


 そう自分を罵倒するほどに、無茶な戦いをした痕跡。

 自然と苦笑いが浮かぶ。

 絶望し過ぎて頭が可笑しくなっていたようだ。

 今考えたら、母さんに会うことを放棄するとは何たる愚かな行動か!


「ふぅ…」


 深呼吸して、自分を落ち着かせる。

 状況確認はまだ途中なのだ。

 魔物が居ると言うことは、もしもしなくてもここはダンジョンだろう。


 だが、ここまで来た道のりなど覚えている筈もなく、ここが何階層なのかも分からない。


 そこで思い付いた。


「血痕を辿って行けば……!」


 出口に近づける出はないかと。

 これだけ派手に暴れているのだ、到る所に痕跡は残っているだろう。


 俺はそう辺りをつけて、新たなる門出を踏み出した。

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