ハーレムの終焉
時は流れて、4ヶ月が過ぎた。
今日の空は快晴だった。
まるで、これから生まれる新たな命を祝っているかのように澄み渡った青をしていた。
窓から差し込む燦々とした光に目を細めながら、僕は意味もなくと閉ざされたドアの前を右往左往していた。
「そろそろかな」
壁に掛けられた時計は、前に見たときから一分しか経過していなかった。
焦る気持ちを抑えられない。
自分じゃどうすることもできない焦燥感に胸を締め付けられる。
「少しは落ち着いたらどうだ、翼ちゃん?」
向かいの椅子に座ってスマホをいじっている美砂さんが呆れたように言う。
やっぱり、男と女の子じゃ、こういうときの心持ちが違うのかな。
「分かっているけど、こういうのは初めだから、どうしたらいいのか分からないよ」
一度落ち着こう。
赤いドレスのスカートの裾をギュッと握りしめて、深呼吸をすると、美砂さんの隣に腰掛けた。
「美砂様も、誰かの出産に立ち会うのは流石に初めてだよ。それに比べて、出産にはお姫ちゃんの方が慣れているとは驚きだったな」
閉ざされたドアに向かってスマホを向ける。カメラアプリを起動していた。
「なあ、翼ちゃんは、どうしてこの世界に男が存在していなかったと思う?」
「え? どうしたの急に、美砂さん?」
「翼も知っているだろう。翼ちゃんがお姫ちゃんに告白した時期と同じくして、この世界、オトメに起きている異変を」
僕はゆっくりと頷いた。
「自然妊娠が、発生しなくなっているんだよね」
男の存在しない、女の子だらけの世界であったオトメは、女の子達が自然に妊娠することで、子孫を残してきていた。
でも、この数ヶ月、自然妊娠が認められた事例はなく、明らかな異常事態となっていた。
「でも、自然妊娠が発生しなくなったのと、この世界に男の子が存在しなかったのは、何か関係があるの?」
「さあな、美砂様は、この世界の創造主でもないから、真実はわからない。真相をしっているのは、太郎ぐらいじゃないのか?」
シャッター音が鳴り響き、異世界であるオトメの情景が記憶されていく。
「それも、タロウさん達に見せるの?」
「ああ、特にタロウはこの件をいたく気にしていたぞ」
定期的にオトメと地球を行き来してくれている美砂さんは、僕たちとタロウさん達とを繋ぐ大切な存在になってくれていた。
オトメでの出来事を写真に納めては、地球に戻ってタロウさん達に送ってくれている。
その逆もしかりで、美砂さんが来る度に少しずつ距離を取り戻しつつあるタロウさんと鈴寿さんの写真を見るのが楽しみだったりする。
美砂さんは前を見ていた。
僕も前を見る。
二人が見つめるドアの向こうでは、臨月を迎えたラグナロさん今まさに、次に繋がる新たな命を生み出そうとしていた。
「さあて、そろそろかね。この世界の常識が覆る瞬間は」
美砂さんが立ち上がると同時に、ドアの向こうから赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
「ついに生まれたようだな」
無事に出産が終えたことに、僕はほっと胸をなで下ろして、いすに深く腰掛けた。
ラグナロさんの娘だ。
きっと母親に似て誠実で元気な子供に育ってくれることだろう。
「えっ。これって………もしかして………おちんちん!!!」
はっ!?
今、赤ん坊の泣き声に混じって、聞こえちゃいけない単語が耳に届いたような。
しかも、僕の大好きなチョコレートのような甘い声で。
美砂さんは躊躇わずドアを開け、出産を終えたばかりのラグナロに向かって歩いていく。
僕も勇気を持って付いていく。
出産を手伝っていたリンジュが信じられない物を見ているとばかりに、目を大きくしている。
「どうしたの、リンジュ?」
「凄いです、ツバサぁ。この赤ちゃん、ついているんですよ」
へその緒を切ったばかりの、生まれたばかりの姿の赤ん坊がリンジュの腕の中にいた。
「嘘でしょう」
思わずうめて、リンジュの腕の中にいる赤ん坊をまざまざと見つめてしまう。
その子には、確かについていた。
女の子にはなくて、男にしかついてない、アレが。
「どうやら、今日がハーレムの終焉だったようだね」
美砂さんはそう言って笑いながら、生まれたばかりの赤ん坊をカメラに納めた。
世界が変わった。
もう、オトメは女の子だけしか存在しない世界じゃなくなる。
これからは、みんなが普通に愛を知り、恋をしていける世界になるはずだ。
だって、この日、オトメに初めて、男の子が生まれたのだから。
END




