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3-15


 今日の空は快晴だった。

 僕たちの前には、世界と世界とつなぐ渦がある。

 渦の前に立っているのは、ゴスロリ衣装を脱ぎすてた太郎と鈴寿さん、そして美砂さんの三人だった。


「キミは、本当にここに残るのか?」


 僕がこの世界、オトメに招かれたときに来ていた男子制服に袖を通している太郎が、まだ不思議そうに問いかけてくる。

 もう、何度も僕の決意を伝えているっていうのに、この人は本当に、恋に対して心配性なんだと思うよ。


「うん。だって、ここにはリンジュがいるからね」


 ぎゅっと重ね合わせたリンジュの手を握る。

 リンジュの暖かな手が握り替えしてくれる。

 こんなにも大切で暖かな存在を、もう絶対に離れたりするものか。


「そっか。俺がこんなこと言う資格がない事は充分に分かっているが、色々とよろしく頼むよ」

「この世界の創造主として世界を見守ってきたタロウさんから、そんなことを言われると、なんか重たいな」

「俺は、恋愛なんてこのオトメを不幸にする感情でしかないと思いこんでいた。でも、お前は違う。お前ならきっと、俺が作れなかった、本当に幸せなオトメを作ってくれるって確信しているよ」

「うん。安心して。そんな幸せなオトメを作り上げるために、まず、僕とリンジュが幸せになってみせるからさ」


 冗談めいて言うとタロウさんも小さく笑った。

 あの日、鈴寿さんにルルルちゃんを育ててくれてありがとうと言われた時、彼は、自分で背負い込んでいた責任からやっと解放されたのだろう。

 女装をやめ、男に戻った。

 本当に少しずつだけど、鈴寿さんの隣に立つのに相応しい男になるべく歩いていくはずだ。


「それで、ルルルは本当にこっちに残るの?」

「うん。タロウお姉ちゃんや、鈴寿お姉ちゃんには、これがあれば何時でも会いに行けるし」


 そう言ってルルルちゃんは、向日葵色の髪飾りを見せた。

 母親である鈴寿さんは少しだけ哀しそうな顔を見せたけど、これで一生の別れって訳じゃない。


「そうね。会いたくなったらいつでも私達に会いに来てね」

「うん。もちろんだよ………鈴寿ママ」


 生き別れの親子が再会したが、いきなり家族として接するのは難しいのかもしれない。

 時間をかけてゆっくりと距離を詰めていけば良い。僕たちには時間があるのだから。


「所で、ラグナロのお腹も少し大きくなってきたんじゃない?」

「そのようです美砂様。もうすぐ妊娠6ヶ月ですから、安定期に入り、これから準備で忙しくなります」


 ラグナロさんは恥ずかしそうに少しだけ嬉しそうにお腹を撫でた。

 そこに宿っている新しい命は、どんな恋をするのかなって気の早いことを考えてしまう。


 「じゃあ、四ヶ月後にはこっちに遊びに来ないと駄目ね」

 「え? 美砂さん、オトメにまだまだ来るつもりなの?」

 「なんか、嫌そうね、翼ちゃん」

 「いえいえ、そんなことありません」


 猫を一切被っていない、本気の眼光に射抜かれた僕はもはや条件反射とも言える速度で、首を横に何度も振っていた。

 僕、完全にこの人に調教されてしまったような気がするよ。


「美砂様は、まだそこのお姫様との約束を果たしていないのだからね。何度だって、こっちに来るわよ」


 そう言って美砂さんは、ルルルが持っているのは別の向日葵の髪飾りを掌で転がしていた。

 リンジュとの約束ってなんだろうだと思って、隣を見ると、リンジュは何故か顔を真っ赤にして俯いていた。


「どうしたの、リンジュ?」

「な、なんでもないですぅ」


 珍しく彼女が上擦った声を上げた。


「うん。初々しくて良いわね、お姫ちゃん、今度会うときまで、ちゃんと予習と………出来れば実践していても良いのよ」

「ぅうううううううううううううう」


 リンジュが声にならない悲鳴を上げて、顔を可愛らしく真っ赤に染め上げて、僕の手を痛いぐらい握り締めてくる。


「ねえねえ、ミサお姉ちゃんは、お姫様に何を教えたの?」

「男を教えて上げたのよ」

「いやあああああああああああああ。もう止めて下さい、ミサさん。アタシ、絶対にあんな恥ずかしいことなんて出来ませんからぁぁぁぁぁ」


 僕の手を離して顔を覆ったリンジュがしゃがみ込んでしまった。

 嫌々するとばかりに顔を横に振っている。


「美砂様は、本当に何を教えたの?」

「だって、つまらないじゃないのよ。この世界の繁栄が、自然妊娠だけなんて、やっぱり子供はちゃんと作るべきよ。男と女でね」


 それじゃつまり、美砂さんが教えて事って………。

 だ、駄目だ。

 想像したら、僕の方まで顔が赤くなってきた。


「確かに、それもそうかもしれないな。この世界は、オレが生み出した物か、ルルルが生み出した物か分からないけど、枷を作っていたのは、きっとオレなんだろうな」


 タロウさんはそう言って小さく微笑んだ。

 僕たちはまだこの時は知らなかった。

 タロウさんがオトメの呪いを一つ解いていたことに。



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