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3-13


「なんだよ、それ………。俺は守れなかったのに………」


 空間に亀裂が走り、銀色の鎖がはい出してくる。

 か弱い蛙を飲み込もうとする蛇のように僕とリンジュの前に立ちはだかる。


「あああぁぁぁあぁ、もう、俺は一体どうすれば良かったって言うんだよ。どうすれば、俺は、あの人を恋愛なんていう呪縛から守れたっていうんだよ!!」


 泣きわめくような雄叫びと共に、数多のもの鎖達が、まるで世界が涙を流しているかのように垂れ下がっている。


「なんで、どうして、駄目なんだよ。俺は………ただ、鈴寿お姉ちゃんを守りたかっただけなのに! どうしてなんだよ!!」


 垂れ下がっている鎖ががむしゃらに暴れ初め、城の至る所を破壊し始める。

 規則性もなく、理性もなく、まるで子供が駄々をこねて暴れているだけのように鎖が城を壊していく。

 空から降り注ぐ鎖が僕らも狙い来る。

 リンジュを庇って、辛うじて鎌首を下げている鎖から逃れる。


「やめてよ、タロウ。キミは、鈴寿さんの事が好きだったんだよね。だったら、こんな事しても、鈴寿さんは喜ばないよ!」

「そんな事は分かっている! でも、だったら、俺にどうしろって言うんだよ。俺も守りたかったよ、あの人を。初恋の人を。でも、俺は………無力だったんだよ。どれだけ頑張っても、何も出来なかったんだよ」


 一筋の涙がタロウからこぼれた。

 鎖は暴れ続けている。

 もがき苦しむように、帰られない世界を嫌うかのように、力尽くで何かを変えたいかのように、辺りにあるものを見境無く壊し続けていく。


「鈴寿お姉ちゃんが大好きだったさ。でも、あの人には別に好きな人がいた。しょうがないと思ったさ。当時の俺はまだ中学に上がりたてのガキだったからな。でも、好きだったんだ」


 鈴寿さんから聞いた話だと、タロウはその女の子に間違えるような容姿からいじめをうけていたらしい。

 僕も女子制服を着て、女子校に潜入してもばれなかったぐらい、女の子らしい容姿を持っている。

 いじめにまでは発展しなかったけど、中学時代なんてこの容姿をネタに非道いことを言ってくる奴らは存在していた。

 タロウがうけたイジメを正確に知る事は出来ないけど、それはきっと男としての自尊心を非道く傷つけられたことだろう。思春期の男によって、そんな行為がどれだけ辛く、苦しいか、僕も経験した事があるから、少しなら分かるよ。

 そして、そんな時に出会った、自分を男として見てくれる人に恋に落ちるのも分かる気がする。


「幸せそうだった。親の反対を押し切って学生結婚まで決めた鈴寿さんの強さは、虐められているだけの自分とは違って、眩しくて、あの人の側にいるだけで俺はどれだけ救われたことか。幸せになって欲しいと願った。出来れば、俺が鈴寿お姉ちゃんを幸せにしたかったけど、あの人が幸せになるのなら、それで良いと割り切っていた。鈴寿お姉ちゃんの子供が生まれてきたら、微力ながら俺も一緒に、子育てって奴を手伝って上げたいと思っていたさ」

「でも………鈴寿さんの子供は生まれてくることは無かった。それどころか、子供を失ったばかりでなく、彼女は婚約者までも事故で失ってしまったんだよね。」


 地球とオトメの狭間で嗅いだ、ガソリンと鉄と血の香りが蘇ってくる。

 そして、世界の全てを黒く塗りつぶしてしまいそうなぐらいの絶望に染まり上がった絶叫が。


「知っていたのか。そうだよ、鈴寿お姉ちゃんの幸せは一瞬で消え失せた。そこから全てが変わったよ。あの人から笑顔が消えた。幸せだった世界は、一夜にして、哀しみの世界へと変わってしまった。

 嫌だった。鈴寿お姉ちゃんが笑っていない世界なんて嫌だった。あの人は俺を救ってくれたんだ。あの人にはずっと笑っていて欲しかったんだ。守りたかったんだよ………」


 一緒なのかもしれない。

 僕はリンジュを救いたかった。

 そして、タロウは鈴寿さんを救いたかった。

 僕たちの根底にあるのは一緒な想いなんだろう。

 でも、何処で歯車が狂ってしまったのか。

 一緒であった想いだけど、たどり着いた先は異なっている。


「でも………タロウは、鈴寿さんを救えなかった」

「ああ、その通りさ。鈴寿お姉ちゃんから何処まで聞いたか分からないが、俺が何をしても、あの人に笑顔を戻すことは出来なかった。愛する人と生まれてくるはずだった子供を失った傷跡は、俺が塞ぐには大きすぎた。愛する人の代わりになってあげたくて、告白だってしたさ。でも、鈴寿お姉ちゃんは、俺を受け入れてくれなかった」


 鎖が一度動きを止め、まるで獲物を狙うかのように僕とリンジュに向けられた。


「嫌だよな愛する人を、想うばかりに何も出来ない自分なんて嫌だよな。嫌で嫌で嫌で嫌で、負の感情ばかりが蓄積していき、やがて、世界の全てが嫌になった。鈴寿お姉ちゃんを苦しめた世界が嫌で、何も出来なかった自分が嫌で、嫌で嫌で嫌で。俺は、オトメに来たんだ。この恋なんてなくて、鈴寿お姉ちゃんと瓜二つなリンジュが、何も知らずに生きている世界へ」


 僕を見るタロウの目は、憎悪に満ちあふれているけど、その目から涙が止まることはない。

 この人は、鈴寿さんを救えなかった自分を苛み、それでもまだ鈴寿さんを救いたいともがいているのかもしれない。


「そのオトメもお前のせいで、恋が、愛が、恋愛が生まれてしまった。もう、オレは一体どうすれば良いと言うのだよ!」


 世界に垂れ下がっていた鎖がタロウの雄叫びに会わせて、僕らに襲いかかってくる。

 躊躇いなんてない。

 タロウが望むオトメにとって不要分子である僕とリンジュを抹殺するため、四方から狙いを定めて鎖が降り注ぐ。

 逃げる場所なんて何処にもない。

 せめて彼女だけは守り抜くため、リンジュを抱きしめ、僕は盾となる。


「なんで、こんな事ばっかりするの、タロウお姉ちゃん!」


 小さな影が躍り出た。

 綺麗な金髪をポニーテールに編み、向日葵の髪飾りで止めている少女が、僕たちと鎖の間に立つ。

 ナロウ荘で同じ時を過ごした大切な仲間、ルルルちゃんだ。

 

 その時、奇跡が起きた。


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