3-3
地図アプリで検索してやって来た大東女学院は予想以上に格式高い校舎だった。
調べれば、こうしゃにはも歴史がありそうなぐらい、見るからにお嬢様学園だ。
「ここが、大東女学園」
お嬢様学校に通っている美砂さんはちょっと想像できないけど、ここに美砂さんはいるのだろうか。
それとも彼女は男であるボクとは違い、まだオトメにいるのだろうか。
どちらにしても、これ以外の手がかりはボクにはない。
下校時間だからか、入り口から出てくる女子生徒達が、さっきから男子制服を着ているボクを注意深く観察している。
こんなお嬢様学校の入り口で他校の男子が立ちつくしていたら、ものの数分も持たずに教師や警備員の人がボクを捕まえにやってくるだろう。
でも、大丈夫。
こうなることは予想して、これを持ってきたのだから。
オトメでの生活を思い出しながら、胸の紙袋をぎゅっと握り締めた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ごきげんよう」
「はい、ごきげんよう。また明日も頑張りましょうね」
お嬢様独特の返事が聞こえてくる中、浅黄色の上着が特徴的なブレザーの制服を着こなしたボクはまぎれている。
外から見たとき確信したけど、この学校は超超お嬢様学校だ。
廊下を歩いているだけで、掃除の行き渡り方がボクが通う一般的な公立校とは雲泥の差があるのが分かってしまう。
物珍しさについつい、都会に出てきた地方人のように視線をきょろきょろとしそうになるのを必死に押さえる。
大東女学院の制服を着ているボクに注目する人はいない。
女の子しかいない世界、オトメで暮らしてきたんだ。
女の子だらけの場所で紛れ込むことなんて今のボクには朝飯前のなのに、余計なことで目立っちゃ、意味がない。
「あ、すみません」
「はい?」
丁度目の前を通りかかった生徒に声をかけてみる。
身長は155cmぐらいで、小柄な生徒だった。
黒縁眼鏡に三つ編みなんて如何にもな格好をしていて、ボクみたいに慎ましい胸元には先生から預かってきたらしい書類を抱きかかえている。
「あなた、何方ですか? あんまり見ない顔ですね?」
「あはは、そうですか。ボク、あまり目立たないですからね」
「キミ、めっですよ。最近はそんな呼称も流行っているのは存じていますけど、女の子がボクなんていうのは、ほめられた物ではないですよ」
指をビシッと立てて全く関係のないことを注意されてしまった。
本当、生徒会とかの活動が似合いそうな人だなって本来の目的とは関係のないことをついつい思ってしまった。
って、駄目駄目。
ボクが女装してまで潜入したのは女の子と会話を楽しむためじゃないんだよ。
「は~い。気をつけます。それよりも知っていたら教えて欲しいのですけど、三宅美砂って知ってます。もうモデルみたいに美人で、少し赤みがかった髪がウェーブしていて………」
「キミは、美砂ちゃんを探しているの? う~んと、何処だろうね。今日は学校には出てきているんだけど、今は何処をぶらついているんだろうね」
学校に出てきているってことは、美砂さんもボクと同じくオトメから地球に戻ってきていたんだ。
少なくとも美砂さんが地球に帰ってきたのはボクより後だ。
それなら、リンジュがどうなったのか、彼女なら知っているかもしれない。
「ところで、キミは、美砂ちゃんを探しているのかな? 美砂ちゃんからキミのような一人称がボクっていう生徒の話は聞いたことがないんだけどな」
黒縁眼鏡の奥で、眼光が輝いている。
たまたま声をかけただけだったけど、どうもこの人は美砂さんの知り合い………それも結構親しい関係のようだ。
あまり深い話をしていると、墓穴を掘ってしまうかもしれない。
少なくとも、美砂さんが地球に戻ってきて、学校にも出てきているってしれただけで大きな収穫だ。
「美砂さんには………ボクの大切な人への気持ちを教えてもらったんですよ。美砂さんの事ありがとうございました」
小柄で黒縁眼鏡で三つ編みの彼女にお礼を言うと、ボクはそそくさと立ち去っていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「はああ、美砂さんは何処にいるの?」
解放されていた屋上にやって来たボクはフェンスに寄り添いながら深いため息をついた。
あの後、三宅 美砂という生徒の居場所を、適当な生徒に声をかえて聞いてみた。
モデルも顔負けのプロモーションと美貌の持ち主だ。
彼女は学内でも有名人らしく、かなりの生徒が彼女のことを知っていた。
教えられた教室にも行ってみたけど、既に姿はなくて、校内をふらついてみたけど彼女を見つけ出すことは出来なかった。
「どうしよう………」
何度もここに進入していたら、いずれ不法侵入がばれることだろう。
最初に声をかけた黒縁眼鏡と三つ編みの生徒なんて、あからさまにボクのことを疑っていたからね。
少なくとも美砂さんと連絡を取れる術だけはなんとかして残しておかないと。
最悪、机の中に連絡先を書いたメモ書きでも残しておこうか。
あるいは美砂さんと仲が良さげだった黒縁眼鏡と三つ編みの彼女に伝言をお願いしてみるのも手かもしれない。
「きゃあああああああ。女装変質者よぉぉぉぉ!!」
「変質者っ!」
突如として聞こえてきた悲鳴に思わず、フェンス越しに校舎を見てしまう。
今の悲鳴は何処から聞こえたの?
こんなお嬢様学校に進入する変質者なんて、そんなの許すわけにはいかない。
「変質者は何処だ?」
「それは、翼君のことでしょうが!」
スバン。
思いっ切り後頭部を叩かれて、顔がフェンスにぶつかった。
大阪芸人のような見事なツッコミだ。
「たたたた」
きっと紅くなっているであろうおでこをさすりながら、振り返ってボクに大阪芸人のごよき見事なツッコミを入れた張本人を見ると、
「美砂……さん……」
切れ長な瞳を、ジト目にしながら、腰に手を当てて今にもため息を吐き出しそうなぐらいの呆れ顔をしている美砂さんが立っていた。
「所で、翼君ってこっちに帰ってきてからもずっとそんな格好だったの?」
「そんな格好?」
「はあああ」
人を馬鹿にしたような盛大なため息をついて、
「翼君、もの凄くスカート似合っているわね」
満面の笑みで教えてくれた。
「あぁつ」
そうだ。女子校に女装して潜り込んでいる変質者って………明らかにボクのことじゃん。
「翼君ってオトメ生活が長すぎて、自分が男だって自覚なくしたんじゃないの? 駄目だぞ、こっちの世界で女湯に紛れ込んだら立派な犯罪者なんだからね」
必死に笑いを堪えているような顔で冗談を言っている。
「そういう、美砂さんは向こうと随分印象が……変わったね」
女子校に通っている美砂さんなんて最初は想像が出来なかったけど、もうして接していると何処から見ても、今時の女子高生にしか見えない。
「今、猫被っているからね。言ったでしょう、素の私だと学園生活を送るには、かなりめんどくさい事になるからね、翼ちゃん」
低い声で翼ちゃんと呼ばされると背筋に小さな電流が走った。
うん、この感じ、間違えるわけがない。
この人は、オトメさにやって来て、自由奔放な女王様のようにふるまいながら、その実、僕とリンジュの恋を後押ししてくれた、美砂様その人だ。
「それにしても、美砂さんはどうしてここに?」
「それは、美砂の台詞だよ。美砂のこと、探している人がいるって聞いて、どんな人なのかなと思っていると、屋上で何処かで見たことあるような人がいたからね。良く、美砂の学校が分かったわね」
「あははは、告白のプレゼントでこれをもらってね。見覚えのある制服だったから、すぐに分かったよ」
言いながら、美砂さんが着用しているのと同じ浅黄色の上着が特徴的な制服を指さした。
「告白で女装用の制服がプレゼント。なにそれ、ちょー受けるんですけど」
美砂さんは笑いの壺にはまったのか、お腹を抱えて笑い出した。
「もう、そんなに笑わないでもいいじゃん」
気が付けばボクの顔にも小さな笑みが浮かんでいた。
オトメから地球に強制送還されていこう、笑う事すら出来なかったというのに。
同じようにオトメで過ごした仲間が側にいるだけで、ボクは心はこれまでと比べ物にならないぐらいに軽くなっていた。




