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3-2


 中身なんて一切頭に入ることの無い授業が終わった。

 こうして時間を無駄に過ごしていることに焦燥感が沸々と沸き上がってくるけど、沸き上がってくるだけで何処に進めばいいのか分からない。

 机の中から教科書やノートを鞄に移していくと、教室の扉の側に、あからさまにそわそわと挙動不審を極めた男子生徒が立っていた。

 柔道部にでも所属しているのか、筋肉質で体格が良いため、もの凄く目立っている。

 あ~~、またか。

 僕は敢えて彼を無視して反対側の扉から出て行こうとする。

 これで、もう何度目だろうかな。

 ボクがこっちの世界に帰ってきてからは、二日に一度はこんな人がやって来ている。

 しかも、彼は見覚えがある。

 たしか、オトメに行ったあの日、僕に告白してきた三村君(♂)だ。

 筋肉質の三村君は意を決したみたいで、反対側のドアからそそくさと帰宅しようとする僕の前に猛然とダッシュ。

 痛いぐらいの握力で僕の肩を掴んで、暑苦しいぐらいに鼻息を荒くして顔を近づけてくる。


「翼。つき合ってくれとはいわない。でもオレは思い出が欲しいんだ。せめて、コレを着て、オレとデートをしてくれ」


 三村君が差し出してきた紙包みの中は見なくても分かる。

 女性の服装だ。

 彼はボクがオトメの世界に行く前から、こうしてボクに女装を迫っていたんだ。

 いい加減諦めてくれても良いのに、諦めの悪い男はもてないと思うよ。


「やだよぉ。ボク、そんなの着るつもりないからね」

「どうしてだよ。だって、お前、行方不明になった後、女装姿で見つかったんだろう? 翼は女装好きなんだろう?」


 好きなんじゃない。

 あの世界では女の子しか存在していなくて、ボクは男の子として生きていけなかった。それだけのことだ。


「なあ、だったら、思い出作りのために、オレのために女装してくれよ」


 三村君は再三断っても、執拗に迫ってくる。

 オトメ暮らしのおかげで女装に慣れたのは真実だけど、好きでもない人のためにわざわざ女装をしてあげるつもりは僕にはない。

 だって、女装をすれば………否応なくオトメのことを思い出してしまうから………。


「オレお前の事、好きなんだよ。男だけど、そんなの、オレ達には関係ないよな!」

「いい加減してよ。ボクはキミのことが好きじゃない。それに、ボクにはもう別に好きな人がいるんだからね!」


 あまりにもしつこい三村君のに、つい腹が立って、彼が持っていた紙包みを払いのける。

包みは床に転がり、中身が廊下に拡がっている。

 今日の中身はブレザー帳の制服だった。それも、浅黄色の上着が特徴的だった。


「え?」


 紙包みから零れる制服に目が奪われる。

 ボクはこの制服を知っている。

 それも、この制服を見たのは地球でじゃない。

 忘れるはずもない。

 ボクはこの制服を、確かにオトメで見ている。


「翼に好きな人が……誰だよ、オレの翼を毒牙に駆けた奴はっ!」

「そんな事は、どうでも良い!! この制服は何処の制服なの?」


 気がついたときには、ボクの方から三村君に詰め寄っていた。


「あっ。これはお嬢様学園としても有名な、大東女学院の制服だ。なかなか出回らない貴重品で、オレは絶対に翼にぴったりだと思う……」

「大東女学院」


 そこに行けば、彼女がいるかもしれない。

 僕と同じく、オトメのことを知っている彼女に。

 床に拡がっていた制服を急いで紙包みの中に詰め直すと、胸元に抱きかかえた。


「ごめん。気が変わった。キミには見せて上げることが出来ないけど、この制服はやっぱりもらうことにするよ。ありがとう」

「おう………え? ツバサ、何処に行くんだよ?」

「優しくない恋の伝道師さんって所かな」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 下校しようとしているみんなの編み目を抜けて、僕は学校を飛び出した。

 胸元に抱えているのは大東女学院の女性制服。

 初登場からあんなインパクトを与えられたんだ。

 見間違うはずなんかない。


 僕の胸元にあるこの制服は、美砂さんが、オトメにやって来たときに着ていた制服だ。



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