3-1
朝陽が閉じた瞼の奥にまで染みこんでくる。
窓の向こう側から車が走り抜ける音が響いてくる。
枕元の携帯に手を取って時計を表示させると7時少し前だった。
どうやら、また今日も来て欲しくなかった朝が訪れてみたいだった。
このままベットの中でずっと過ごしていないけど、僕にだってこの地球での生活がある。
憂鬱な気分のまま起きあがり、クローゼットを開いていく。
ふと、部屋の中を眺めてみる。
ここには僕以外誰もいない。
チョコレートのように甘い声を出してくれる彼女も、好奇心旺盛でいつも金髪の紙を揺らしていた少女も、自然妊娠をしたお腹を愛おしそうに撫でている騎士も、もう僕の側にはいない。
ここはオトメじゃない。
地球に戻ってきたのだから、当たり前のことだ。
でも、胸にぽかりと空いた痛みを忘れるかのように僕は、急いで男子制服に腕を通していく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
登校の準備を終えて、リングへと降りていく。
「おはよう」
返事はない。リビングにはお父さんとお母さんがいたけど、僕がやってくるなり、二人ともあからさまに僕から視線を逸らしたんだ。
まるで、息子である僕のことなんて見たくないかのように。
テーブルに目を向ければ、そこに用意されている食事は二人分だけ。
僕の分は今日もなかった。
「………行ってきます」
返事なんて全く期待していなかったけど、
「どうして帰ってきたのよ。いっそのこと、お前なんか消えてしまえば良かったのに」
敢えて僕に聞こえるような母の罵倒が耳に入ってきた。
今度は僕の方が何も言えなくなる番だった。
父さんも母さんも、突然に行方不明になった僕の事を死ぬほど心配してくれていたのだと思う。
僕の部屋には二人が藁にも縋る想いで作ったであろう千羽鶴が置かれていた。
二人の願いが通じたのか、僕は自分の意志に反してこの地球に戻ってきてしまった。
二人は僕の生還をどれほど喜んでくれたのだろう。
でも、異世界から帰還した息子は……女装していた。
二人にしてみれば、息子に裏切られたと思ったのだろう。
あの日以降、僕は両親とまともに口をきけていない。
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通い慣れていたはずの通学路を歩いている。
既に花は散り、緑の葉を押し茂られた桜並木の道には僕と同じ制服を着たみんなが歩いている。
でも、どうしてこんな異世界を歩いているような気分になってしまうのだろうか。
仲の良い男女のカップルが和気藹々と投稿している姿がまるで別世界の出来事のようだった。
ここがボクが生まれた世界のはずなのに。
これが、地球の普通であるはずなのに。
みんなを見ていられなくなって、空を見上げてしまう。
雲一つ見えない綺麗な青空だった。
空の青さは、オトメも地球も変わらない。
でも、この空に下にもう、みんなはいない。
「リンジュ、元気にしているのかな?」
リンジュの笑顔が蘇ってくる。
僕を呼ぶ、甘い声が耳元で囁かれたみたいに鮮明に聞こえてくる。
大好きなんだ。彼女のことなら、何だって思い出せる。
そして、タロウに操られながら、ボクを突き飛ばした彼女の暗い目がボクの心に突き刺さる。
「っく」
彼女はまだ操られたままかもしれない。
笑うこともなく、リンジュには全く似合わない、能面のような顔をしてタロウの操り人形として立ちつくしているかもしれない。
そんなの認めることなんて絶対に出来ない。
助けて上げたい。
リンジュを、ルルルちゃんを、ラグナロさんを。
でも、この世界に彼女達はいない。
異世界にいる僕は………何も出来ない。




