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「だからぁ、きっと、アタシも、ツバサぁの事が好きなんですぅ。それも、大好きなんですぅ。

 だから、お願いです、ツバサぁ。アタシを、もっと、もっと、もっとぉ、ぐちゃぐちゃにして下さいぃ」


 告白された。

 その意味を理解するまでに、ほんの少しの時間が必要だった。

 駆け寄ってくるリンジュを見ていると、心が白乳色の光で包まれていくかのような暖かさと嬉しさに満たされていく。


「僕もだよ、リンジュ。僕もキミのことが………」


 リンジュと触れ合いたい………うん、それだけじゃたりない、リンジュを抱きしめて、体中で、五感の全てを駆使して、彼女を感じていきたい。

 願うより先に、本能に近い何かに突き動かされるように僕も、大好きな彼女に向かって駆け出していた。



『許さない』



 でも、僕たちの恋は世界の逆鱗に触れてしまった。

 天から重低音が鳴り響き、僕とリンジュの間を切り裂くように雷が落ちてきた。


「きゃああああ」

「リンジュっ」


 雷に驚いたリンジュはその場に尻餅を付いてしまった。

 止まることのない雷が何時リンジュを直撃すか分からない。

 なんとかして、リンジュの元に向かおうとするけど、行く手の尽くを雷で塞がれてしまい、彼女に近づくことが出来ない。

 間違えない、この雷は作為的に僕達を狙っている。

 そして、この世界の自然現象を自由に操れるとすれば、そんな人物を僕はただの一人しか知らない。


「あらあら、神様にしては見苦しいわね。でも、嫉妬心に突き動かされる神様っていうのは美砂様好みね」


 まるでこうなることが分かっていたかのように三宅 美砂が目を向けた先には、眼光をうしなったラグナロさんが立っていた。

 そう、この世界の摂理を自在に操れるとすれば、それはこの存在しかいない。


「創造主………」

「リンジュが楽しそうだから、見守っていたが、やはり外に出したのは間違えだったな」


 ラグナロさんの体をよりしろとして世界の創造主が苦々しく呟く。


「いいえ、お姫ちゃんが男を知ることになったのは全然間違えじゃないわよ!」


 堂々とした啖呵だ。

 相手が世界の創造主だろうと、神様であろうと三宅 美砂には関係ないみたいだ。


「で、あんたはいつまで、女の体を乗っ取って姿を眩ましているつもりなのよ………ウヅキ・タロウ!!」


 美砂さんが、ラグナロさん……いや、その体を使っている創造主に向かって、指を突きつける。

 でも、その口から出てきた名前は、僕にとって意外な彼の名前だった。


「………いつから、気づいていた?」

「いつからしらね。少なくともあんたを始めて見た時から、美砂様と同じように裏の顔を隠している同じ匂いがするのは確信していたけどね」

「なら、もう姿を隠す必要もないか」


 生気を失っているラグナロさんが横に逸れると、まるでマジックショーであるかのようにタロウさんの姿が忽然と現れていた。

 いつものようにゴスロリ衣装を纏っているその姿は、この世界で唯一僕と同じ男として親身になって世話をしてくれていた彼でしかない。


 彼の目にはラグナロさんとは異なり、誰かに操られたように生気を失っていない。

 それどころか、これまで見たこともないような激情の籠もった瞳で僕の事を睨み付けてくる。


「タロウさんが……創造主だった………どうしてなの?」

「どうしてだと。それはオレの台詞だ!!」


 普段の少しおかしな口調が嘘のような男らしい荒ぶった声が返ってきた。


『偽りを抱いて生きているのは、美砂とあいつぐらいね』


 いつか語っていた美砂さんの言葉が頭を過ぎる。


「じゃあ、ずっと、タロウさんは僕らを騙していたの?」

「騙していた? ははは、知らなくて良いことを教えてなかっただけだよ」


 タロウさんがそっと僕に向かって、掌を向けてきた。


「キミは本当に余計なことをしてくれた。オレの楽園をこんなにもぐちゃくちゃにしやがって!」


 目の前に雷が墜ちてきて、僕は吹き飛ばされる。

 世界の摂理を自在に操れる創造主だから出来る芸当。

 やっぱり、美砂が言っていたように、あのタロウさんがリンジュをお城に閉じこめていた創造主だっているのか。

 起き上がろうとした所をタロウに操られたラグナロさんによって押さえつけられてしまい、身動きが取れなくなる。

 辛うじて顔だけを上げて、リンジュを苦しめていた張本人を睨み付ける。


「ここは、タロウさんが作った世界なの?」

「そのようだ。リンジュさんがいて、他の男がいなくて、ここはオレが望んだ世界そのものだ!」


 タロウさんが身動きの取れない僕の顎を掴み、唾が飛んできそうなぐらいの至近距離で怒鳴りつける。


「それなのに、貴様は破壊主だ。どうして、リンジュさんにまた恋なんか、教えやがったんだよ!!」


 拳が僕の頬を打ち、秘められた怒りさも伝播してくる。


「これじゃあ、繰り返しじゃねえかよ。オレはリンジュさんを見ているだけで良かったんだよ。お城の中で何も知らずに生きているリンジュさんを見ているだけで、オレは満たされていたのに。なんで、なんでリンジュさんを外に連れ出したんだよ!!」


 拳は止まらない。

 血走った目がすぐそこにあって、殴られる度に顔中に痣が増えてくるけど、怖くなんか全然無い。

 むしろ、それどころか………。


「なんでだって………タロウはソレを本気で言っているの?」


 もしそうだとしたら、笑いが込み上げてきて止まらないよ。


「そんなの決まっているじゃないか。リンジュが外に出たいって望んでいたから、それだけだよ!

 リンジュのためだよ。リンジュの気持ちも知らないで、自分勝手にリンジュと閉じこめていただけのあなたに、とやかく言われる筋合いはないね!」

「このっ! 何も知らない癖に!! 良いか、リンジュさんは恋とかしっちゃいけなかったんだよ。だから、この世界には男なんて存在していなかったんだよ!」


 また拳が来る。

 流石にそろそろ鼻の骨ぐらい折れるぐらいの覚悟をしたけど、僕に振り下ろされるはずの拳は、美砂さんによって止められていた。

 いとも簡単にタロウの手を捻り上げる。


「リンジュのため、リンジュのためだって、それはようはアンタが恐れていただけでしょう? それなら変化を受け入れた、お姫ちゃんの方が何倍も大人よ」

「うるさいっ! 大切な人を守ることの何がいけないっていうんだよ!」

「守ってばかりじゃ何も成長しないわ。愛するのなら、千尋の谷につきとすべきね」

「オレが、リンジュさんを傷つけられるわけないだろう! ツバサ、お前といるとリンジュさんが楽しそうだったから、お前の滞在には目をつぶっていたが、これ以上許すわけにはいかない。ここはオレの世界だ。邪魔者は立ち去れ!!」 


 タロウは、捻り上げられていない方の手を一振りした。

 すると、向日葵の髪飾りを持っていないはずなのに、世界と世界を繋ぐ白い渦が生まれた。

 オトメの理なんてタロウには一切通じない。

 彼は自分がやりたいように、オトメの法則をねじ曲げることが出来る。厄介この上ない存在だ。


「っは、言うことを聞かない奴ははじき出すなんて、小さな男ね。そんなのことじゃ、もてないわよ」

「言っていろ、これがリンジュさんのためなんだ。彼女が哀しまないのなら、悪魔にでも喜んでなってやるさ」


 リンジュのためか。

 この人は本当に何も分かっていない。

 ラグナロさんに抑えられたままの僕は身動きを取ることが出来ないけど、


「ツバサぁぁぁぁ。タロウさん、もう止めてよぉ。それ以上やると、ツバサぁが、地球に帰っちゃうんだよ!」


 彼女の泣き声は聞き取ることが出来る。


「哀しまないためなら、悪魔になるだって。ふざけないで! だったら、なんで今リンジュは泣いているのさ!!」


 僕たちには約束がある。

 僕は絶対にリンジュを置いてオトメからいなくなったりしないって、約束がある。

 だって、僕たちが離れ離れになることを、リンジュは何よりも恐れているのだから。

 こんな渦を通って、地球に戻るわけにはいかないんだよ。



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