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「わ~~広くて気持ちいいわ。それになにこのぬるぬるなお湯。ローションを薄めたみたいで、お肌によさそう」


 湯気に満たされた扉の向こうから美砂さんの喜びの声が聞こえてくる。

 ナロウ荘にお風呂があることが分かるなり、彼女は使命感に駆り立てられたかのように拳を握り締め、ナロウ荘の住民全員とお風呂に入ろうと言いだしたのだった。


「さあて、美砂さんのスリーサイズから見て、これで良いよね」

「完璧なのデス」


 僕が持ってきたレザー生地のミニスカートとジャケットを見定めるなり、タロウさんはサムズアップで答えてくれた。

 体一つでオトメへと迷い込んできた美砂さんは、ブレザーを洗濯に出すと着るモノすらなくなってしまう。

 そこでタロウさんコレクションの中から、美砂さんが切れそうな衣装を探して持ってきたのだけど、これは少し過激すぎたかな?

 でも、美砂さんのスリーサイズは日本人離れした数字だから、入りそうな衣装がこんな布面積が極端に少ない過激なものしかなかったんだよ。


「ねえ、ツバサお姉ちゃん達は、もうお仕事終わった?」

「うん、美砂さんの着替え準備出来たよ」

「ありがとう~~、本当助かるわ。同じ日本人同士仲良くしてね」


 まるで海外で日本人とあったぐらいの気軽な声が聞こえてくる。

 そんな風に言われてしまうと、ついここが異世界だって忘れそうになってくるよ。


「じゃあじゃあ、お仕事終わったんだったら、ツバサお姉ちゃんもタロウお姉ちゃんも一緒にお風呂に入ろうよ~~。凄いんだよ、美砂お姉ちゃんの、このお胸」

「あんぅ。もう止めなさいよね、ルルル。くすぐったいから、胸揉まないでよ」

「フニフニだからね」


 早速ルルルちゃんと美砂さんは仲良くなったみたいだ。

 浴槽から消えてくる仲むつまじい声に耳を傾けながら、ドレスのファスナーを下ろして、

パンティーを脱いでいく。


「大きさはリンジュお姉ちゃんにも勝ってそうだよね。どうやったら、こんなにおっきくて、柔らかくなるの?」

「まったく、幼少の頃からこんな女の胸に目覚めている感じだと、将来が危険だわ。ルルルは、こんな事みんなにやっているの?」

「うん。でもでも、ツバサお姉ちゃんもタロウお姉ちゃんも、残念なお胸しかなかったから、あっちの世界の人はそんな人ばかりなのかなって思っていたんだよ」

「ふ~んツバサは貧乳なのね。ねえぇぇ、ツバサちゃん~~~、お胸なんていつ成長するか分からないから、あんまり気にしちゃだめだよ」


 っく。

 この勝ち組がっ。

 自分が大きいからって、いい気になって………。


「でもね、ツバサお姉ちゃん達はお胸はものすごく薄っぺらいけど、変わりにお豆さんがもの凄くおおきんだよ」

「はい、あんなに大きなのは、アタシも一度も見たことが無くて、ツバサぁのを見ていると、何故だがドキドキしてしまう不思議な魅力を持っているのです」

「あ、リンジュお姉ちゃんも、ルルルも一緒なんだよ。何なんだろうね。この体中が熱くなるような感覚」

「大きなお豆………ちょっと二人とも何の話をしているのよ?」


 準備を終えた僕は、新たな客人を中心に盛り上がっている浴場へと繋がっている扉を開けた。

 開かれた先から仄かに暖かい湯気が体全身にまとわりついてくる。

 オトメにやって来た最初の頃は、みんな女の子ばかりでつい気を遣って、前の方をタオルで隠していたのだけど、もう僕の恥ずかしい姿はみんなの前にさらけ出されたわけで、最近は、隠すのも馬鹿らしくなってきていた。

 それよりも、リンジュよりも全然小さな胸を見られることの方が恥ずかしくなってきて今では、タオルで胸を隠しながら浴室へ向かうようになっていたんだ。


「ほら、ツバサお姉ちゃんのはおっきいでしょう」


 ルルルちゃんが満面の笑みで僕の隠されていない場所を指さしてくる。

 でもやっぱり、こんな可愛らしい女の子に堂々と指さされるのは、ちょっと恥ずかしいな………。

 やっぱり、今からでもタオルで隠したい気持ちになってきたよ。


「………小さいわね」


 湯気に満たされた浴室にいても、悪寒が走るぐらい冷たい声が響いた。

 震えていた弦が止まったかのように騒がしかった浴槽が一瞬で静寂に満たされた。


「え? 美砂………さん?」

「そんなの男の平均から見たら小さい方ね」


 モデルのように整った体つきの美砂さんがぴくぴくと震え始めて、湯船に波紋が走っていく。

 パーマのかかった髪が今にもメデューサのように逆立ってしまいそうだ。


「でも、小さい、大きいはこの際、どっちでも良いことね」


 顔を上げた美砂さんの作り笑顔を見たとき、僕は般若の仮面を思い出した。

 ルルルちゃんとリンジュが何も言わずに、脇に逸れて美砂さんの通る道を空けていく。

 二人は僕を助けてくれないらしい。

 でも、それはしょうがないことかもしれない。

 長いまつげの舌にうっすらと細められた日本刀のような瞳を前にしたら、逃げるしかないと僕だって思うよ。

 僕だって出来ることなら、回れ右をして走り出したいんだけど、おかしいな、体が全然動かないんだよ。


「ねえ、ツバサぁ?」

「はいっ」


 名前を呼ばれただけなのに、僕は直立不動の起立の格好を取ってしまう。

 これじゃまるで調教された犬のようだ。


「ねえ、あんた、ハーレムって知っているかしら?」

「え~と………」


 突拍子のない質問に思考は凍って、答えられない。


「まあ、良いわ…………とにかく一度眠って、出直してきなさいっ!」

「ぶでしぃ」


 それは、形容するまでもない、見事な右フックだった。

 可憐な容姿からは想像のつかない捻りの利いた右フックは、完全にボクの顔を捕らえていた。


「っふ」


 振り抜かれる美砂さんの右手。

 ボロぞうきんの陽に吹き飛ばされた僕は、タイルの上をごろごろと転がり、呆気なく意識を失うしか無かった。


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