2-10
太陽の陽射しが今日も照りつけてくる。
「やっぱり、リンジュが、その石塔に触っても駄目かぁぁ」
「みたいですね。ルルルちゃんはどうやって、コレを発動させたのでしょうか?」
翌日、ボクはリンジュと一緒に、世界を繋ぐ渦を生み出せる場所にやって来ていた。
異世界からやって来た僕は起動させるのが駄目でも、この世界の住民であるリンジュならもしかしてと淡い期待を抱いてみたけど、結果は変わらなかった。
「謎だね。ルルルちゃんが帰ってきたら、聞かないとね」
空を眺めてみると太陽が丁度真上にさしかかってきた。
隣を見ると、リンジュが迷いのない瞳で頷いてくれた。
この計画が上手く行くかなんて、それこそ、神のみが知ることだけど、残された手段はもうこれぐらいしかない。
さあ、これからが勝負の時だ。
「ツバサ殿に姫様、本日の差し入れでござる」
昨日と同じようにバスケットを下げたラグナロさんが差し入れを持ってやって来てくれた。
昨日はサンドイッチだったけど、今日は何だろう?
「ラグナロ、ご苦労様です」
「いいえ、ツバサ殿のがんばりに対して拙者が出来ることはこれぐらいでございますので」
敬愛するリンジュにほめられた事がそんなに嬉しいのか、ラグナロさんは切れ長な瞳を情けなく垂れさせながら小犬のように近寄っていく。
ここまでは予想通り。
さあ、神様に対する作戦を決行する時だ。
「ごめんね、ラグナロさん」
小さく呟いて、
「はああああああああああ!!」
スカートの下に隠し持っていたナイフを取り出し、躊躇うことなく無くラグナロさんに斬りかかった。
「何事だっ!」
期待通り、騎士としての鍛錬を怠っていないラグナロさんは、僕の奇襲はなんなく避けれてしまった。
「ツバサぁ?」
ただ、ラグナロさんに避けられた僕は勢いを殺す事が出来なかった。さらに、向かった先が不味かった。
その先にはのは、純粋な瞳をクルリと見開いているリンジュだった。
僕が握り締めたナイフは、
「きゃあああああああああああああああああああ!!」
リンジュの右腕に突き刺さった。
細くて華奢な腕には到底似合わない真っ赤な血が滴り落ちていく。
「姫様ぁぁぁ!? ツバサ殿、これはどういうことでござるかぁぁぁ!!」
サンドイッチが入っていたバスケットを放り出したラグナロさんがこれまで見たことのない様な形相で迫ってくる。
「何を血迷った事をなさっているのだ!!」
見たこともないぐらいに目を充血させながら僕の首を締め上げてくる。
僕がこれまで生きてきた中で、これほどの激怒を目の当たりにした事はなかった。
でも違うんだ。
僕たちが求めているのは、ラグナロさんのこんな激情に溢れた眼じゃないんだ。
駄目だったのか?
失敗なのか?
これぐらいじゃ足りないというのか?
無意味にラグナロさんを騙して、怒らせただけでしかないのか?
「なら、こうするまでですっ」
左手でナイフを抜き取ったリンジュは、瞳を閉じて………自分の脇腹目掛けて刃物を振り下ろした。
恐怖で小刻みに左手が震えているけど、そんな勢いで刺さったら、演技じゃなくて本当にリンジュが………。
「リンジュっ」
死んでしまうっ!!
何やっているの!
そんな事までは、計画になかったはずだよ。
「リンジュぅぅぅぅぅ!!」
僕の叫び声が響き渡る。
刃物が人肉に本当に突き刺さるその瞬間を見たくなくて、僕は咄嗟に目を閉じてしまった。
耳を覆いたくなるような嫌悪感の固まりのような醜い音は、いつまで待っても聞こえてくることは無かった。
閉じていた目を恐る恐る開けると、ナイフはリンジュの脇腹に触れる寸前で止まっていた。
あれだけ勢いよく振り下ろされたナイフがそんな風に止まるなんて、物理的にどう考えても不可能な出来事だ。
可能というのなら、それはまさしく神の力。
「やっと、再会できましたわね………」
リンジュが策士のように唇をつり上げながら笑い、ボクがラグナロさんの顔を見ると、彼女から表情が落ち、瞳の光彩が無くなっていた。
「この世界の創造主さん」




