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 ベットの上で安眠を楽しんでいたら、


「大変です! ツバサぁ、早く起きて下さい! 起きてくれないのなら、え~と、こう、ラグナロがいつもやっているみたいに……頭を叩けばいいのですよね……え~~いぃですぅ!!」


 脳天に衝撃が突き抜けて、眠気なんて一気に粉砕されてしまった。

 何事かと思って、慌てて眼を開けると、そこには文字の通り、目と鼻の先の距離にうっすらと涙を浮かべているリンジュの顔があった。

 いやいやいや、顔が近すぎだよ、リンジュ。

 この唇と唇が触れ合ってしまいそうな距離、リンジュの紙から香る甘い匂いが鼻腔に染みこんできて、つい鼻がひくひくと動きそうになってしまう。


「ツバサぁ一大事……なの」


 重い声だった。

 僕の邪な思いなんて一瞬で沈んでしまうぐらいに、悲しみに満ちている。


「一体どうしたっていうの、リンジュ?」


 ただ事じゃないことは分かるけど状況が読めない。

 僕から少しだけ距離を取ったけど、リンジュは僕の方が思わず身を乗り出してしまう衝撃的な一言を口にした。


「ルルルちゃんが、昨日から帰ってきていないのぉ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 既に日が暮れ始めて、ナロウ荘も夕焼けによって紅く染まっている。

 正面に立てかけられている看板には臨時休業の文字が記入されている。

 僕は重たい気持ちをぐっと堪えて、扉を開けた。

 ドアに付けられた鈴が鳴って、僕の帰宅を否応なく知らせてくれる。

 すぐに飛び込んできたのは、リンジュの縋るような瞳だった。

 嘘を言っても何も変わらない。

 ボクは正直に首を横に振った。


「ごめん、ルルルちゃん、見つけられなかった」

「そう……ですか」


 リンジュはうなだれるように椅子に座った。

 でも、流石は一国のお姫様だ。

 すぐさま、気持ちを切り替えて、クルリとした瞳に確かな決意を込めて、ボクの方に近寄ってくれる。


「本日はご苦労様でした、ツバサぁ」

「でも、収穫ゼロだった。ラグナロさんの方は?」

「ラグナロは騎士団を連れて町中を捜索しておりますが………やぱり手がかりすら見つけられません」


 ルルルという少女が一夜にして、忽然と消えてしまった。

 まるで世界から切り取られたんじゃないかって思えるぐらい、痕跡さえ残すことなく、あの金髪少女は行方を眩ませてしまった。


「まるで、神隠しだ」

「え? それはなんですか、ツバサぁ?」

「僕たちの世界の言葉さ。ある日突然、誰からが世界からくり抜かれてしまったかのようにいなくなることだよ」


 こんな異世界に来てしまったボクも、元の世界から見れば神隠しにあったと噂されているかもしれないね。


「後一時間ほどで、ラグナロが定時報告に戻ってきます。次の行動はそれから考えると致しましょう。ツバサは一度お部屋に戻ってお休み下さい」

「でも……」


 ルルルちゃんはまだ幼い。

 それに外だって、もうすぐ日没を迎えてしまう。

 暗くなってしまえば、ルルルちゃんを探し出すのは至難になる上に、ルルルちゃんへの危険性は上がってしまう。


「後一時間あるのなら、まだ探していない所を………」

「駄目ですよ」


 外に出ようとするボクをリンジュが意外にも強い握力で掴んできた。


「休むことも大事ですし、焦っていては見えているモノも見えなくなってしまう事もあります。ここは、一度お休み下さい」


 言っていることは分かる。

 でも、僕が休んでいる間にもルルルちゃんは………


「それに、ルルルちゃんに続いてツバサぁまでいなくなったら、私は………嫌ですぅ」


 それは、王女としての凛とした姿ではなく、リンジュという一人の少女の願いだった。

 そんなことを言われたら無理をするわけにはいかない。

 ボクはドアノブを手放すしかなかった。


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