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全身を程よい温度で包み込んでくれる大浴場で両足を伸ばして、僕たちは一日の疲れを落としていく。
今日はリンジュとルルルちゃんを連れて山登りもしたし、何時にも増して温かな温泉が気持ちいいな。
周りを見てみれば、洗い場でラグナロさんが自分のお腹を優しく撫でるように洗っていた。
自然妊娠っていうのはなじめないけど、彼女のお腹は僕がこのオトメにやって来たとき比べて僅かに膨れ始めているように思える。
きっとそこは、確実に新しい命が芽生え始めているんだよね。
「もう、どこを見ているのかな?」
「はぅぅ」
ついラグナロさんの柔らかそうなお腹に見とれてしまっていたら、誰かに思いっ切り胸を揉まれてしまった。
思わず、女の子みたいな可愛らしい声を上げちゃったよ。
いくら周りに女の子しかいない世界に来たからって僕は男の子なんだから、こんな声をだしちゃったなんて、恥ずかし過ぎるよ。
「あはは、もう、ツバサお姉ちゃんのお胸は敏感なんだから」
不意打ちに僕の胸を鷲づかみに………いや、鷲づかみされる膨らみなんて僕にあるはずはないんだけど、とにかく、僕の胸を揉んできた張本人であるルルルちゃんは、僕のように全く膨らんでいない胸を反らして威張っている。
「胸は、誰だって敏感なんだよぉ」
胸の敏感さに、男も女も関係ないよ。
人間、弱いところは弱いんだから、仕方ないんだよ。
「でも、やっぱりもみごたえがないな。やっぱり、このリンジュお姉ちゃんぐらいは欲しいよね」
「あぁぁぁん。ちょっとルルルちゃんくすぐったい」
「あ~~ん、やっぱりリンジュお姉ちゃんの胸は柔らかいよ。ほら、力いれちゃうよ~~」「はぅぅぅぅ」
リンジュの甘い声が僕の身体中を突き出していく。
脳みそが溶けてしまうような甘美なリンジュの声が勝手に安堵も頭でリピートされていく。
最近は普通にみんなと一緒にお風呂に入って羞恥心なんて無くなってしまっていると思っていたけど、やっぱり、女の子とのお風呂は男の子のボクには刺激が強すぎます。
こんなリンジュの甘ったるい声を聞かされ続けていたら、僕のは勝手に……その……。
「そんなんじゃ、お風呂からあげれないデスね」
「わぁぁ、タロウさん」
気配もなく現れたタロウさんが、意地悪な笑みを浮かべながらお湯の中を指さしていた。
この世界で唯一僕と同性であるこの人だけは、男の子の苦しみを分かってくれる。
「………タロウさんに言われなくても、分かっているよ……」
タロウさんが指さしているのは丁度、僕の足と足の間だった。
そこがどうなっているのかは………ごめん、恥ずかしくて、言うことができないよ。
「あれれ、タロウお姉ちゃんとツバサお姉ちゃん、二人でどうしたの?」
「ツバサのお豆さんが凄いことになっているって話をしたのデス」
「わあああああああああああああああああああああああ!!」
タロウさんの裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉ!!
この苦しみを唯一分かってくれる理解者じゃなかったのぉぉぉぉぉぉ!!
「え、何々? ツバサお姉ちゃんのおっきなお豆さんがどうしたの?」
駄目だよ、ルルルちゃん、キミみたいな小さな女の子が僕の身体になんて興味を覚えたら。
「ツバサぁの体は、不思議ですよね。アタシ達と一緒のはずなのに、なんか違うみたい。いつ見ても新鮮な気持ちで、胸がドキドキしてしまいますわ」
釣られて、リンジュもやって来てしまった。
駄目だよ。
こんな恥ずかしい姿、絶対にリンジュにだけは見せるわけにはいかない。
「助けて、タロウさん………」
懇願して横を向くと、既にタロウさんは消えていた。
本当に薄情者ぉぉぉぉぉ。
「さあ、ルルル達に隠し事話だよ。ツバサお姉ちゃんのお豆さんがどうなっているのか………」
「アタシ達にお見せなさい!」
ルルルとリンジュが意気のあった掛け声で、ボクに迫ってきた。
「うあわああああ、駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇ!! お助けをぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉ!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「すごかったね。ツバサお姉ちゃんのお豆さん」
「はい。ただでさえ、アタシ達のより大きいのに、どうしてなんなにも大きくなれるのでしょう。人間の体は神秘に満ちているのですよ」
ルルルとリンジュが僕の身体で盛り上がっている中、僕は、
「ううう、これじゃもうお婿に行けないよぉぉぉぉ」
恥ずかしい姿の全てを大好きな人に見られてしまった哀しみで今にも大浴場の中に沈み込んでしまいたい気分だった。
「やっぱり、ツバサぁは異世界からやって来たのですね」
哀しみの海峡に全速力で沈み続けていたら、ぽつりと寂しそうな甘い声が聞こえてきた。
「いきなりそんなこと言いだしてどうしたの、リンジュ?」
「だって、どう考えてもアタシ達のお豆ははそんな風になりませんもの」
僕のまだ元気の衰えない部分を指さしながらしんみりと言ってくる。
僕達の世界から考えたら、こんな状況、バカバカしすぎて笑いが出てくるかもしれない。
でも、リンジュは本気で悩んでいる。僕の……股間を見つめながら、目の当たりにしている男の子と女の子の違いを受けようとしているのかもしてない。
「そうだね。確かに僕はオトメじゃない世界からやって来た異世界人。リンジュの声に呼ばれて、この世界にやって来た………男の子だよ」
確かに僕はリンジュ達が理解出来ない男の子だけど、そんな違いは些細な事かもしれないんだよ。
「でも、一緒だよ。ボクもリンジュも同じ人間だよ。だから、こうして……友達になることが出来たんだよ」
友達って所に少しだけ胸が痛むけど、これでリンジュがまた笑顔になってくれるのなら、今はそれでも良いと思える。
「そうですね………」
でも、何故だからリンジュの顔は晴れなかった。
まるで、僕が話を濁したことを怒っているかのように、僕を見てくる。
「ねえねえ、ツバサお姉ちゃんのいた世界ってどんな所だったの、ルルル知りたいな?」「どんなって言っても………難しいな」
ルルルちゃんの疑問はまさに渡りに船だった。
僕はリンジュから逃れるように話題を変えていく。
ただ、ルルルちゃんの質問も難解だ。
男の子の概念がこの世界にはないから、恋愛の説明は出来ないし………このオトメには存在していない携帯電話とか車の説明とかすれば少しは分かってくれるかな。
「そうだね、例えば、スマートフォンってものがあるんだけど………」
「自分たちの世界のことなんて、ルルルには関係ないことなのデス」
「わぁぁつ!!」
またしても気配もなくタロウさんが現れた。
こればかりは、ルルルちゃんもリンジュも目を大きく開いて驚いている。
「むむぅぅ、タロウお姉ちゃんの意地悪。ルルルは、ここじゃない外の世界のことが知りたいんだよ! いつもそう、ルルルがタロウお姉ちゃんに聞いても、絶対に教えてくれないじゃん!」
「意味がないデス。見ることも行くことも出来ない世界の話なんて、所詮は絵空事と一緒なのデス」
何を思っているのか、タロウさんの言葉は下腹に響く重みがあった。
意地悪で行っている訳じゃない。
もっと別の、タロウさんなりの考えがあって、彼は僕たちがいた世界の事を語ろうとはしていない。
理由は分からないけど、おいそれと、僕が勝手にルルルちゃんに知識を与えちゃいけない事だけは分かった。
「うっぅぅぅ。良いもん、良いもん、タロウお姉ちゃんが意地悪言うのなら、ルルルにだって考えがあるんだからね!」
そう言って、頬を膨らましたルルルちゃんは、一人で大浴場を出て行き…………ナロウ荘に戻ってくることはなかった。




