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 僕の名前は、代々木 翼。

 翼って紛らわしい名前と、中学生の男にしては細身な体つき、声変わりしたのに高い声色に、クラスメート曰く魔性の童顔のせいで、よく女の子に間違えられちゃうけど、僕はれっきとした男の子なんだ。

 そう、例え、今、文化祭でやるクラスの演劇の役名が、シンデレラに多数決で決まろうとしていても、僕は男の子なんだよ。


「は~い。それじゃあ、代々木 翼君の役は、シンデレラに決まりました。では、次に、王子役の投票を行いたいと思います」


 クラス委員長が黒板に淡々と僕の名前を書いていく。

 役決めへの反対票は1票のみ。

 賛成大多数な結果だけど、僕は何度も言うよ。


「僕は、男の子なんだよ、みんな~~~!」

「いや~~、もうここまでくれば、お前さんは、男の娘と書いて、男の娘だろうさ」


 男の娘。

 そんな単語が、ごく一部のサブカルチャー社会で使われているのは知っている。

 可愛らしい男の子が、女の子の格好をして、女の子のように振る舞っている子達のことだ。

 そんなの嫌だよ。

 僕は、男の子だもん。女の子になりたいわけじゃないんだもん。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「はあぁぁぁぁ」


 人里離れて、人気のない神社で僕は小さくため息をついた。

 夏休みが終わってもう一ヶ月以上も経つと、流石に風も冷たくなってきた。

 枯れ葉を転がす秋風が僕の心の中も虚しく通り抜けていくかのようだった。


「どうしたら良いっていうのだよ」


 今、僕の手の中には男の娘専門マガジンなんて、もの凄くニッチな雑誌があったりします。

 どうして、僕がこんな本を持っているかと言いますと、今日の放課後、隣のクラスの三村君(♂)に校舎裏に呼び出されたと思ったら、突然、


「翼、オレは、お前の事の可愛らしさに耐えられない! もう、この沸き立つ想いを抑え切れられねえんだ!!」


 なんて、鼻息を荒く、目なんて眼球が飛び指しそうなぐらいに大きく拡げて僕に迫ってきたんだよ。

 すっごく、怖かったよぉぉぉ。

 ビクビクとして、震えだしそうな僕になんてお構いなしに三村君は、鞄から一冊の雑誌を取り出して、さらに続けたんだ。


「お前は可愛い。そこらへんの女なんて目じゃない。だから、その本のように、女の子の格好して、このオレをつき合ってくれ~~~!!」


 もちろん、速攻で断ったけど、三村君は往生際が悪くて、


『それなら、せめて一度で良いから、女の子格好したお前を見せてくれ。今度、オレが女子制服持ってくるから、絶対に着てくれ! そしたら、オレはお前のこと高嶺の花だったと思って諦めるからっ!』


 とか無茶なお願いをしてきたんだよ。

 断りたかったけど、三村君があまりにも必死そうだったから、無碍にすることも出来なくて、結局三村君が持ってきたこの雑誌を受け取って、『考えておくよ』と行って、その場は誤魔化しちゃった。


「はあぁぁぁぁぁ」


 また、ため息が出てしまう。


「なんで、いつも僕は男の子ばっからしか、告白されないんだろう。もう~~いっそのこと、男の子なんて存在しない世界にいけば、こんな事にはならないのに~~~!!」


 ちょっと朽ちている神社の境内に倒れ込む。

 こんなの叶いようのないお願いだって、分かっているけど、そんな事でも願わないとやっていけないよ、この状況。


『アタ……を、助……さい……』


 あれ、気のせいかな?

 今、何処から女の子の声が聞こえてきた気がしたんだけど………。

 辺りを見渡してみたけど、それらしい気配はない………よね。


『アタシ………助けだし……下さ…』


 また聞こえた。

 これって、空耳じゃないよね。

 神社の裏側から聞こえているのかな?

 僕は恐る恐る、裏側に進んでみると、


「あれって……何?」


 よく訳の分からないものを見つけてしまった。

 神社の裏側には岩肌が向きだしの山になっているんだけど、そこの一部に白い渦があった。

 少し前のSF映画とかで出てくるブラックホールを白くしたような感じだよ。

 これって、どう見ても普通じゃないよね………。


『アタシを助け出して下さい』


 白い渦から、今度ははっきりと女の子の声が聞こえた。

 まるでアニメ声のように特徴的な甘い声だった。

 でも、こんな不気味なものを助け出すっていうのは………ちょっとねぇ。

 相手を刺激しないようにゆっくりと歩を進めていって、


「えい」


 白い渦の存在に向かって、持っていた男の娘専門マガジンを投げつけた。

 男の娘専門マガジンは渦潮ぽい存在に飲み込まれたかと思うと、


『キャフン。う~~、痛いですわ。なんですか、このご本は? 空から落ちてきましたの? ではやっぱり、この向こう側は繋がっておりますのでしょうか?』


 本が何かに当たる音と、女の子声が返ってきた。

 それはもう聞いているだけで、女の子が涙を浮かべているのが分かっちゃうぐらいに哀しそうな声だった。


「本が当たったのなら、ごめんなさい。僕は、そんなつもりじゃなくて………え?」


 声だけ聞こえてくる女の子に謝ろうと、つい白い渦に手を伸ばしちゃった。


 それが、僕の運命を大きく変える事になった。


 渦はまるでブラックホールのように僕の身体を吸い込み始めたんだよ。

 踏ん張ろうにも、渦潮の力は強くて為すがまま、真っ黒な世界に飲み込まれるしかなかった。


「うあああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 何も見えない世界の中、どこまでも落下していく感覚だけがあった。

 悲鳴を上げ続けていた僕だけど、いつしか意識までも、真っ黒に塗り潰されてしまっていたんだ。



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