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テレビの中でしか見たことのないような出来事が洪水のように襲いかかってきて僕の頭はそろそろオーバーヒートを起こしてしまいそうだ。
廊下の端から端まで続いているような長机での夕食。
食事はもちろんメイドさんがトレーに乗せて運んできてくれていた。
フォークとかナイフの使い方も知らないような僕は右往左往するばかりだったけど、
「作法などお気になさらずとも宜しいのですよ」
っていうリンジュの声で幾分救われてしまった。
食事の後は優雅なティータイムを楽しんでいたのだけど、僕は大切なことを忘れていた。
この世界は女の子ばかりの世界。
男なんて概念が存在していないんだ。
『それでは、一緒に参りましょうか』
って笑顔でネグリジェを渡されるその時まで忘れていたんだ。
この世界に男湯なんて者は存在していないってことを。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あああ、ど、ど、ど、ど、どうしよう」
プールのようなお風呂につかりながら、つい考えてしまう。
リンジュは濡れないように髪を編んでから入浴するってことで、僕は先に湯船に浸かっている。
リンジュは僕が男の子じゃなくて、女の子だって思っているはずだからきっと………。
だああああ、静まれ、僕っ!!
こんなんじゃ、リンジュの前に顔向けなんて出来ないよ。
「ツバサ、お湯加減は如何ですか?」
「あ、いいんじゃないのかな?」
脱衣所から響いてくる声に上擦った声でしか返事が出来ない。
ドアが開かれる音がして、足音がゆっくりと近づいてくるよ。
「それでは、アタシもご一緒させていただきますね」
お風呂のお湯で体を習い流したリンジュが僕の隣に腰を下ろしてくる。
甘い匂いが鼻腔を擽ってきて、それだけで僕の動悸が速くなっていく。
見ないように。
見ないように。
見ないようにしないよ。
「まあ、ラグナロのお話ですと、親指ぐらいの大きさとお聞きしておりましたのに、それよりも全然大きいではないですかぁ」
「え?」
気配を感じて、つい隣を見てしまったらリンジュが興味津々と瞳と輝かせて、お湯の中に隠していた僕の身体を見ていた。
それはもう、まざまざと。
「見ちゃ駄目えええええええええぇえ」
何処の筋力を使ったのか自分でも分からないけど、僕は座ったままの状態で、リンジュから脱兎の勢いで後ずさった。
頭の上に乗せていたタオルで、お姫様に見せるわけにはいかない部分を隠す。
汚いことだって分かっているけど、そんなこと言っている場合じゃない。
こんな恥ずかしいところ、リンジュに見せるわけになんていかないよ。
「もう、そんなに恥ずかしがることじゃないですか?」
「これは男の子にとっては、死ぬほど恥ずかしい事なんだよ!」
「また、男の子って言いました。ねえ、ツバサ。それは、なんなのですか?」
女神と見間違えるような裸体の美女が嬉々とした顔で僕に迫ってくる。
駄目、来ないで。
そんな体を動かすたび、柔らかそうに揺れるものを携えながら僕に迫ってこないで。
「ほんと、おっきい」
駄目だよぉ。
なんで、うっとりとした声でそんなこと言っちゃうの?
「触ってみても良いですか?」
「絶対に駄目ぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
涙目になった僕はもう裏声で絶叫。
誰か、助けてよぉ。
性別なんて概念がないこの世界は、みんな大胆すぎて、僕には耐えられませんよ。
「じゃあ、寝ている間にこそっと触ちゃいますね」
「それも止めてぇぇぇぇ、笑顔でお姫様が夜這い宣言なんかしないでよぉぉ」
「あははは、ツバサは本当に面白いですね。大丈夫ですよ、ツバサはお友達なんですから、嫌がることはしませんから」
「本当に?」
「はい。でも。やっぱり、触ってみたいな………」
物欲しそうな瞳で、口元に手を当てながら懇願された僕は一体どうすれば良いのですか、神様?




