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オトメにやって来て、既に数日が経った。
少しはこの世界にも慣れてきた僕は一人で、女の子だらけの街を歩いている。
夕暮れ怒気で世界は赤く染まり始めていて、中世ヨーロッパのような街並みにとても良く似合っている。
「異世界でも夕方ってあるんだね」
日が沈み始めて、街を吹き抜ける風も少しだけ冷たくなってきた。
今の僕が着ているのはロングスカートだから、風が冷たくなっても股の下をスーと風が吹き抜けることはないからまだマシかな。
前に学校の罰ゲームでミニスカートのセーラー服を着せられて時は色々非道かったからね。
もうあの日以降、絶対にミニスカだけは履かないって決めているんだ。
「って、ここは過去のトラウマを思い出している場合じゃないよ」
頭を振って、過去の記憶を追い出す。
改めてリンジュさんに招かれた異世界を見てみる。
「本当に女の子しかいないんだね」
警察も大工も焼鳥屋の店主もみんな女の子だった。
通りの先で、お腹の大きな妊婦さんが買い物の籠を持っていて、近くで遊んでいた子供とぶつかった。
妊婦さんがもっていた籠の中身が散らばってしまう。
「あっ」
助けなくちゃと思うけど、まだロングスカートになれてないから、上手に歩けない。
そうこうして、僕がノタノタとしている間に回りの女の子たちが妊婦さんを助けていた。
『子孫を残すパオトナーとして男の子が必要なければ、女の子は女の子だけで生きていけるみたいデス』
タロウさんの言葉が蘇ってくる。
確かに、そうかもしれない。
ここは男の子である僕は必要とされない女の子だけの世界なのかもしれない。
だとしたら、僕はここでどうやって生きていけば良いのだろう。
「探したでござるよ、ツバサ殿」
聞き慣れた声に振り向くと、ポニーテールに和服姿のラグナロさんが立っていた。
この世界、街並みは中世ヨーロッパ風に統一されているけど、みんなの服装には統一感がない。
僕はスパニッシュ風のドレスだけど、タロウさんはゴスロリ姿だし、ラグナロさんに至っては街並みとは似ても似つかない和服姿だよ。
この異世界は、女の子だらけな事を抜きにしても、おかしな世界だと思うよ。
「どうしたの、ラグナロさん?」
「姫様が、ツバサ殿をお呼びでござる。拙者についてきて下され」
「リンジュさんが?」
そう言えば、この世界に召還された初日以降、この世界の事を知るので一杯で、彼女に会いに行っていなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
女性警護兵が守っている扉を通されて、ラグナロさんと一緒に階段を昇っていく。
最上階にたどり着くと豪華絢爛な扉がそびえ立っていた。
一瞬気圧されてしまうけど、ラグナロさんはなれた手つきで、扉をならすと返事を待たずに開いた。
部屋の向こうに拡がる世界は既に夕方は終わり、薄闇となっている。
そんな中、ベランダでティーセットを準備しているリンジュさんの姿があった。
「あ、ツバサ。もう遅いですよ、ほらほら早くこちらに着て下さいませ」
我慢が出来ないのかな?
女神のような美しさを持つ彼女が、子供のように兎のようにぴょんぴょんと跳ねている。
そのギャップがなんだか微笑ましい。
でも、リンジュさん。ちょっと勢いよく飛びすぎじゃないですか。
ぴょんぴょんと跳ねるたびに、白銀のドレスから伸びるスカートが舞い上がって、陶器のような真っ白なおみ足がちらりと見えていて、僕、もの凄く目のやり場に困っているんだけど。
「それでは拙者はこれで」
ラグナロさんが慇懃に頭を下げて、背中のドアを閉めた。
「え?」
ってちょっと待って。そこの護衛騎士さん。
あなた、一国のお姫様を守る騎士だよね。
それなのに、お姫様とこんなで何処の分からない男と二人にしちゃって良いの!?
こんな女神みたいなお姫様と二人きりなんて僕、自分を抑えられずに野獣になっちゃうかもしれないんだよ………ってそんなことはないか。
なんと言っても今の僕は、
「ねえ、ツバサ。出会ったときは奇妙で見窄らしい服装でありましたけど、いまは可愛いらしいドレスで、とてもお似合いですね」
女の子の格好をしている男の娘なんだから。




