1-9
「似合っているデス」
ゴスロリ姿がとてもよく似合っている男の娘、タロウさんが胸の前で手を打ち鳴らしながら、僕を褒めてくれた。
でも、ごめんなさい、タロウさん。
その称賛は、これっぽっちも嬉しくないよ。
自分の体を見下ろしてみる。
今の僕が着ているのは、真紅色を基調としたドレスで、所々に黒いフリルがアクセントとして飾り付けれている。
よくフラメンコとか踊っている人が着ている服装に近いかな。
その言いたくはないけど、これは俗に言う女装って奴だ。
でも、勘違いしないでよ。
僕は着たくて、こんな真紅色のドレスを着ている訳じゃないんだよ。
タロウさんの真実を確認した僕は、お風呂から上がろうとしたんだ、そしたら、脱いで籠にいれたの僕の服が綺麗に無くなっていて、変わりにこの真紅色のドレスが置かれていたんだよ。
もう訳が分からなかったよ。
助けを求めるように右往左往していると、
「あんな可愛らしさの欠片もない服なんて自分が許さないデス。ツバサ君にはそっちの方が似合っているのデス」
とタロウさんが笑顔で告げてくれた。
だから、僕たちより遅れて大浴場にやって来たのかと理解した時には、既に時遅しだったよ。
そんな陰謀があったのだからね。
裸でこのナロウ荘の中をうろつくわけにもいかず、僕は泣く泣くこの服を着るしかなかったわけなんだからね。
勘違いなんてしないでよ。
「似合っているなんて、言われてもボクは男の子だから嬉しくないよ」
「可愛いに、男のも女も関係ないデス」
嫌みを言ったつもりだけど、通じなかったみたい。
僕は小さくため息をついた。
僕の格好の話をしていてもしょうがないよね。
それよりも今は確認しなくちゃいけない事がある。
「やっぱり、タロウさんは、男の子が理解できるんだね」
「はいデス。それは今の翼君みたいに、可愛い女の子の姿をしている男の事デス」
「それは、男の娘だよ!」
「ちゃんと理解しているデス。冗談だから、安心して、大丈夫デス」
はああ。タロウさんの性格を僕はまだ理解しきれていないみたいだから、疲れるよ。
「それで、翼は何県出身なのデスか?」
「僕、神奈川県だけど」
「そっか、自分は埼玉の大宮デスよ」
「へえ、そうなんだ………って、埼玉ぁぁぁぁ!!」
これが少し前なら、なんて事無い会話だったはずだけど、ここれは僕たちがいた日本じゃない。
異世界だよ。
なのに、なんで、同じ日本の埼玉県出身の子がここにいるわけさ!
「……もしかして、キミも迷い込んできたの?」
僕は神社でリンジュさんの声に呼ばれて、この世界にやってきた。
それと同じようにタロウさんもこの異世界に迷い込んできっていうの?
「分からないデス」
僕の期待に反して、タロウさんは顔を横に振った。
「埼玉で生まれ育った記憶はあるデス。親や幼なじみのお姉さんと遊んだ記憶もあるデス。でも、自分にはここに来た記憶がないデス」
「記憶喪失ってこと?」
「恐らく、そうなのデス。気がついたときには、この異世界、オトメに自分は迷い込んでいたのデス」
「オトメって何?」
「自分がこの世界に名付けた名前デス。ここは世界にキミと自分を除いて男は存在していないデス。女の子、乙女だらけの世界だから、自分はオトメと呼んでいるデス」
ここは、女の子しか存在していない異世界。
だから、ここに来て僕はタロウさん以外の男の子を誰も見ていないし、男の子である僕に対するみんなの反応は、どう考えてもも異性に対する反応じゃなかったんだ。
男の子を表現する言葉がないんじゃない。
男の子っていう概念事態がこの世界には存在していないんだ。
「男の子がいない世界。それで世界は成り立っていけるのかな?」
「自分もオトメで生まれた訳じゃないデスけど、不都合はないように思えるデス。ツバサ君は、この世界で自然妊娠という単語を聞いたことはあるデスか?」
その言葉は、こちらの世界に来た時に、リンジュさんとラグナロさんが話していたから知っているよ。
あの時は、リンジュさんの箱入り娘ぷりが生み出した厨二病的設定だと思っていたけど、本当にこの世界では、人は聖母マリアのように処女のまま妊娠するというの?
「この世界は、人間だけじゃない。猫、犬、牛、魚に鳥、虫にいたるまで、全ての生物においてオスが存在していないのデス。生命個体は適齢期になると自然と子孫をその体の中にやどすのデス」
僕をこの宿に連れてくるとき、ラグナロさんは嬉しそうに新たな命を授かったお腹をさすっていた。
彼女を思い出しながら、自分のお腹をさすってみる。
もちろん、僕はこのオトメと呼ばれる世界の住民じゃないし、男の子だから、妊娠するわけなんてないけど。
「子孫を残すパオトナーとして男の子が必要なければ、女の子は女の子だけで生きていけるみたいデス」




