1/64
終園のハーレム
「なあ、翼ちゃんは、ハーレムって知っているか?」
足が止まった。
怖くて彼女の方を向くことが出来ず、僕はよどんだ星空を眺め続けることしか出来ない。
「漫画とかだと、一人の男性の回りに、たくさんの女の子がいて、みんなその子の事が好きで、モテモテな状況とかに使われるよね」
でも、彼女が伝えたいのはきっとそんな事じゃない。
「それは後からついてきた意味だ。本来ハーレムとは、聖域を意味し、男性の進入が禁止されている場所のことを意味している」
彼女が近づいてきて、背中からそっと僕を抱きしめた。
耳に吐息が吹きかかるぐらい近くに口を寄せて、囁く。
「それって、まさにあの世界の事だとは思わない? 男を拒絶した者が作り出した、哀れな逃避の異世界」
全てを知った今、その言葉を否定出来なかった。
込み上げてくる感情が瞳からこぼれ落ちてしまわないように僕は、ぼやけ始めた星空を見上げ続けた。
星空の向こうに、もう会うことの出来ないお姫様、リンジュの姿を思い浮かべながら。