8.ヨウジョ ト アルキマス
次話までにタイトルを変えます。
『シロ』は、ちょっと戸惑っていた。
今の状況が、機人である彼には理解し難いものだった。
『───………。 』
「……?」
『シロ』の横では、リリが彼の小指を握りながら立っている。
今の今まで一緒に歩いていて、彼が状況を確認するために立ち止まった際に一緒に止まったのである。
そして、リリに現在の状況を
『───状況を確認 私は一体何をされているのでしょうか 応答をお願い致します 』
「 ? どうしたの、シロにぃ」
『"Error" 共通言語での会話をお願い致します 』
「ん、わかったっ。あっちでね、お母さんとねっお父さんがねっ、やさいを作ってるんだよ!」
『シロ』が少女に言語の選択を頼むと、やはりそもそもその言葉自体が通じていないために首をコテンと傾げられた。
そのあとに『シロ』が出した音が、先程から会話する度に頻繁に出てくる音のため、少女はその反応を承諾の返事と捉えた。
リリはとても可愛い笑顔で『シロ』の右にある畑を指差して、指の先から腕を軽く引っ張って先を促していく。
{───……状況 不明 }
今度は音声として発言せず、思考回路の中で自問自答を始め出し、先程の出来事をAI内で再生し始めた。
まず、ライレスとリリに連れられ村の入口と思われる所に辿り着く。
そしてライレスはそのまま村の外、というか入口の横へ行き、昨日彼と一緒にいた門番であるケリーと話し出した。
少しの間、まだ指を掴んだままのリリーと一緒にそこに立っていると笑い声が聞こえてきた。
どうやら何かの話ついでに盛り上がっているらしい。
『───。 』
「……おじちゃんたち、はなし、長いね……」
入口からほんの少し離れて二人で待機している『シロ』とリリ。
今日はまだ逢っていないもう一人の門番ケリーも、白い魔族の勘違いされた仔細を既に伝えられているのか、こちらに対して警戒するどころか見る必要性すら感じていないようである。
「でよぉ、リリが頑張って前に出てきてなぁ!」
「っ!」
「ハハハ、そりゃぁまたがんば……ん?」
話題がリリの赤面話に行きかけたところで、ケリーはあるものに気付いた。
その視線は村の入口から繋がる道の先───何かがこちらに向かっている様子だった。
「おー……今回はシロみてぇに変なのじゃないな、ありゃ」
「そうだなー……お、ありゃー行商人のとっつぁんじゃないか?」
彼らの視線で確認するに、こちらに向かってきているのは顔馴染みの行商人の様だった。
一ヶ月に一回程度の割合で、中心都市からこちらに来てくれる、村にとっては有難い存在である。
遠目から『シロ』も行商人に関して分析は終えていたが、彼から見ると家畜に車を引かせているのは極めて前時代的と判断せざるを得なかった。
学習能力が偏っている彼は、この世界が自分の生まれた瞬間に居た時代と違う事に未だ気付かない。
「よし、出迎えの準備も必要か。ケリー、今までココに居て疲れただろうし気晴らしついでにみんなに知らせてきてくれ」
「了解っとー、じゃあちょっと行ってくるわ」
「さて──……っと、しまった。シロ!」
『呼応音声を確認 』
「悪いが俺はちょっとやらなきゃならん事が出来ちまったんだ。そうだな……リリもお前に懐いてるしこの子と一緒に村でも回ってくれや!」
「!」
『"Error" 共通言語での会話をお願い致します 』
「良いか? そいつぁよかった! じゃあリリ、後はよろしくな!」
「う、うん!」
一連の流れ通り、言葉を理解出来ない『シロ』の発言はするりと誤解されて話が進んでしまった。
彼からすれば話の流れが全くわからず、右斜め下で小指を握っているリリの頭頂部を見つめるしか無い。
その視線にリリが気付いて、「次はどこに行くんだい?」と目で語りかけられていると思い、微笑みを『シロ』に返す。
「じゃ、じゃぁ、ね。お、おにいちゃん、私が、村の中をあんないするね!」
『"Error"』
「えへへ、こっちだよ!」
自然と笑いかけてくるリリの表情を見て、『シロ』は昨日の怯えた態度と比べて心が温かくなる。
───と、普通のヒトなら思うのだろうが、残念ながら『シロ』は生まれたばかりの感情というものがわからぬ機人である。
視界センサーから送られてくるデータに{敵対反応 無し }と冷静に確認されるだけだった。
それがリリに聞こえるわけでもないので、お互いの仲はとても良好だが。
{───……状況 不明 }
「それでね、あっちにね、村長さんのおうちがね」
と、このような流れで、リリと二人きりで村の中を歩いている彼である。
言葉がわからない彼の心情を人で例えるのなら「どうしてこうなった」といったところであろうか。
「でね、でね! あっちにね──……あ、おとうさんだ!」
『共通言語での会話を……』
更に別のところへ『シロ』を引っ張ろうとした時、リリは村の外側から程近い森の中で父親を発見したようだ。
その作業を『シロ』が見るからに、極めて非効率的に「森の開拓」を行なっているものと判断出来た。
四人程で森を徐々に切り開いているようで、そのうちの一人がリリの父親のようである。
『シロ』はリリに手を惹かれて、彼女の父親の元へと連れられていった。
次回、「農業チート(物理)」
改稿
原:「ん、わかったっ。あっちでね、お母さんとねっお父さんがねっ、やさいを作ってるんだよ!」
訂:「ん、わかったっ。あっちでね、お母さんがねっ、やさいを作ってるんだよ!」