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6.ムラニ ハイリマシタ


『Avenger-Ⅳⅸ』は、戸惑っていた。


『───状況不明 類似事例 データ内に存在しません

 周囲反応 敵性存在 ゼロ ───』


 先程、反応があった集落へと辿り着き、特徴と骨格から人型であるのを確認出来た。

 しかし会話を試みようとする前に、集落の外側に居た二名から敵性反応が確認された。


「……さっきから、よくわからん音は漏れてるよなぁ」

「んー、もしかしてこの音って……こいつの『声』なんじゃないか?」

「ふーむ、君達が声をかけた際にはちゃんと反応は返しているのだね?」

「いや……そこら辺もちょっと断言出来ませんね、顔もこっちに向けてくるし、ちゃんと俺らを認識してはいるみたいなんですが」


 その時に向けられた、旧時代の武器である槍に酷似した物を向けられたものの、自身の装甲耐久と槍らしきものの材質を比較してみた結果『傷もつかぬ』という検証結果が出た。

 危険性は特にないと判断したために近づいたというAIらしい合理的な判断だった。結果は二人の逆鱗に触れかかったのだが。


「あーあー、えーと……話は通じ……ないよな?」

『"Error" 登録されている言語の全てと発音、口部の動きが一致しません 』

「……やっぱり話しかけたら音が漏れてきてるな、これ絶対『声』だろ」

「それっぽいのう、はてさて、どうしたものか……」


 そして現在進行系で、場にいる全員がかなり困った事態に陥っていた。

 上記の通り、言葉が通じないのである。

 途中で室内にココリ村の村長が現れてからも、それは一向に解決しない。


『お尋ねしたいのですが 此方は第何宙域の なんという名の惑星でしょうか 』

「んー……全く聞き覚えがない『声』だな、というか……耳慣れないというか」

『"Error" 登録されている言語の全てと発音、口部の動きが一致しません 共通言語での返答をお願い致します 』

「まあ話しかけて『声』が返ってくるんだし、意思はあるんだろ」

「ふーむ……ここまで来ると、もう考えられる内容も狭まってくるのう」


 会話になっていない会話が場を支配する中、村長は一定の結論を出した様だ。


「先程報告してもらった内容から順に追っていくが……彼からは特に敵対する様子は無いのだね?」

「はい、何を喋ってるのかもわからないですけど……こっちに来てくれってジェスチャーした時はちゃんと後ろからついてきましたし」

『"Error" 登録されている言語の全てと発音、口部の動きが一致しません 会話内容が確認出来ません 』

「私から見ても彼は、魔族にしか見えん……極々稀に人間と敵対しない魔族もいるらしいが……それは例外として」


 ひとつひとつ、二人の門番に丁寧に確認をしていく村長へ、嫁のいる門番が回答を求める。


「つまり、こいつも例外である魔族だと?」

「いや……彼は多分それ以上の例外だ……」

「それ以上……どういうことですか、村長」

「おそらく、だが……彼は『産まれたばかりの魔族』なのではないかのぉ?」

『産まれたばかりぃ?』

『"Error" 共通言語での会話をお願い致します 』


 村長が至った解答に、二人の門番は胡散臭気な声を上げる。

 無理もない、そんな前例は英雄の冒険譚ですら聴いた事がない。


「魔族でありながら、私たちに敵対する様子も見せず……なおかつ言葉すら通じない、つまり、何も知らない子供と同じような状態だろう?」

「確かに……言われてみれば辻褄が合うような……」

「そういやさっきヨロイムシが鳥に食われた時もなんか悲しそうな雰囲気出してたな」

『──会話 理解不能 登録言語全てと一致しません 』


 二人の門番はその答えに関して考えてみると、確かに村長の言うことは一理ある。

 無遠慮にこちらに近寄ってきた事も「知らなかった」と考えれば納得は行くのだ。


「じゃあ、こいつはひとまず害無しって事で良いのかな?」

「良いと思うよ、しかし彼をこのままにするというのはどうだろうのぅ……」

「どういう事だ? 村長」

『──……共通言語を…… 』

「今、何も分からず敵意が無くても、他の魔族に色々教えられたら人間の天敵となってしまう……と私は考えるよ」

「あー……うん、なるほど」


 相も変わらず『Avenger-Ⅳⅸ』にはわからぬ言語で会話が繰り広げられている。

 先程から共通言語での会話を懇願しているが聞き入れて貰えていないのか、わかる単語が飛び出す気配は無い。

 彼に出来る事といえば、声を出している人間の方へ顔を向けるぐらいしかなかった。


「んじゃ、どうするんだ? まさか魔族を村に住まわせるのか村長」

「……さすがに、それは……いや、有りかもしれんな?」

「は? いやいやいや……俺らはこいつの事少しわかったけど他の連中が受け入れられんだろ」

「しかし今のうちに人と接しておけば魔族特有の体力の高さで村の益になる可能性は高いと思うのだが」

「でも流石になぁ……常識ハズレ過ぎないか? なぁ、白いの」

『共通言語での会話を希望致します 』


 今も普通に話しかけられた『Avenger-Ⅳⅸ』だが、何を言っているのかさっぱりであった。

 もしも彼に人並みの判断が可能であれば、高機能学習装置を装備させなかった製作者オディオを盛大に怨んでいたモノと思われる。


「──よし、わかった。とりあえずはそういう方向にしよう」

「あぁ……まぁ、わからんでもないけど……」

「いいのか村長……? 意識がしっかり確立した後に怒られても俺は知らんぞ?」

「まあやるだけやってみるって事での。もしも耐えてもらえるならこれ以上に頼りになる番人もおらんじゃろ?」

「まぁ、うん、そうだな……」


 魔族という存在は、最下級と認識されている存在でも人間を遥かに上回る身体能力を持っている。

 彼らから見て、現在椅子におとなしく鎮座している白いナニカがどの程度の実力なのかはまだわからないが、本当に村人の力になってくれるように仕込めれば、それは非常に大きな力となる。

 たまに来る冒険者や、駆除依頼を受けて来てくれる国からの派遣兵に頼む事もあったが、それらは大体態度が悪かったり信用が出来なかったりと、安心出来ないものがあった。

 未来的には不明瞭なものはあったが、今後の事を考えても魔族である彼を人間側に引き入れるチャンスを活かす事は、確かに有用な事ではあったのだ。

 まあ、そもそも『Avenger-Ⅳⅸ』は魔族ではないのだが。


「とりあえずこの村で匿うのは良いとして……一旦は迎賓室にでも居てもらうか」

「あぁ、そうだな。このまま村をうろつかせたら他のヤツに誤解されかねないぞ、そうだろ村長?」

「ふむ、ではあとで一度村の全員を集めておこうか。あとは……まぁ、彼が期待通りに働いてくれればいいのだが……」

「でも現状言葉も通じないしなぁ……」

『共通言語での会話をお願い致します お願い致します── 』




 そして『Avenger-Ⅳⅸ』は、ひとまず迎賓室──客室へと案内され、どうしていいのか分からず寝台へと腰を掛け、じっと分析をし続けている。


『現状 超旧式の部屋にて待機 言語判定 全て不一致 状況照合中 状況照合中───』


 『Avenger-Ⅳⅸ』も村人と敵対するためにここを訪ねた訳でもないので、彼ら三人の表情や動きを観察し続け、この部屋に自分を案内したがっているというのは理解出来た為、普通に村長についてきた。

 とにかく、会話が通じない……これは大きなハンデであった。

 判断基準も何もない状態である彼は、どのように行動すれば良いのかも現時点で決められないのだ。


『状況照合中 状況照合── ? 壁材後方に多数の反応──……子供 ? 』


 周囲を確認している最中に、彼は壁を通して複数の人の反応に気付く。

 頭部を壁の方へ向けると、同時にこちらを覗き見ていた複数の顔が窓の外へと引っ込んだ。

 どうやら村の子供達が、怖いもの見たさで窓から『Avenger-Ⅳⅸ』を覗いていたらしい。


「お、おいこっち見たぞ!」

「こ、怖いよ、もうやめようよぉ」

「ば、ばかっ声出すなっ、バレちゃうだろっ」

「そうだそうだ、そっ、それに、別に俺は怖くなんかないぞっ!」


 四人の子供達はそれぞれ意見を述べ合うが、連携は全く取れていない様である。

 窓を見る以前に熱源感知センサーに引っかかって見つかっているのだが、そんな絡繰も露知らず、ガキ大将に意見を持っていかれて全員で恐る恐る窓を見た。


 目の前に、白いのが居た。


『うわーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?』

{……? 子供四人 全員……逃走? }

「に、逃げろーーーーーッ!」

「おかーーーさーーーーーーーんッッ!!」


 子供、大絶叫。バレていないと思い再度顔を窓ガラスに向けたら既に全員捕捉されていた。

 大人でも絶叫を上げそうな状況で、子供である彼らに耐えろというのは酷な事である。

 全員が全員、彼を認識したあとに悲鳴を上げてバラバラに逃げ出してしまった。


「ひ、ひぃ───うぁっ!?」

『子供一名 転倒 ───…… ! 』


 そんな逃げる子供達の中で、女の子が一人石に躓いてしまったのか盛大に転んでしまった。

 結構な勢いで転んでしまったようで、女の子は逃げるのも忘れてその場に蹲る。


「い、痛い……うぅ、ふぇぇ……ひぇッ!?」

『──子供の膝部に損傷を確認 』


 痛さで泣いてしまいそうになったところで、音も立てずに再び白い魔族が目の前に現れた。

 逃げようと思ったら完全に逃げ場がなくなっていた恐怖は、子供心に計り知れないものがあった、しかも魔族は何か呟いている。

 恐怖は倍々でどんどん増えていった───が、しかし。


「た、たす、助け……て、え、あれ?」

『───…… 』


 女の子の怪我を確認すると同時に、彼はRレーザーでの治療段階に入っていた。

 女の子が固まって恐怖しているとも知らず、『Avenger-Ⅳⅸ』は一切遠慮せず、怪我をした箇所にRレーザーを当て、損傷部位の修復を完了させていた。

 あまりにも不可思議な現象に、女の子は白い魔族を見やる。

 強い光を当てられて、しんじゃうのかな……と思っていたら膝の痛みがどんどん引いていき、一度出た血が消えるわけではなかったが、痛みは確かに感じない。

 そっと立ち上がってみるとやっぱり痛くない、自分の様子に驚きを隠せない女の子だった。


(魔族があたしを治してくれた……? どう、して……?)

『子供の治療を確認 状況確認中──部屋に戻り待機が最良と判断する 行動を開始致します 』


 女の子が『Avenger-Ⅳⅸ』を見上げているのも構わず、部屋の入口として使った窓へ体を向けた。


{───…… ? 牽引反応 ? }


 と、同時に左手の小指稼働部に小さな反応が現れた。

 先程治療した女の子が小指を握りながら、彼を見上げて声を出そうとするが……どうにも踏ん切りが付かないようであり、顔を俯いている。

 何かを言いたげにしている上に、『Avenger-Ⅳⅸ』はそもそもこちらの言葉が全くわからない。

 力ずくで戻る事も彼の中では合理的ではないt判断され、彼はそのまま立ち止まっていた


「………………あ………あ、の………え、と………」

『───……… 』

「………………………………………ぁ、あ……り、が……とう」


 とても小さな声で『Avenger-Ⅳⅸ』に礼を述べた後、ててててて、と走ってどこかに行ってしまった。

 その行動原理が理解出来ないながらも彼は自分の仕事は終わったと判断し、再び迎賓室へと戻って寝台へと着席したのだった。


『状況不明 照合中 ──"Error" 状況が登録されている状況と一致しません 』


 彼が言葉を理解出来るのはいつの日か。





誤字訂正


原:「……やっぱり話しかけたら音が漏れてきてるな、やっぱりこれ『声』だろ」

訂:「……やっぱり話しかけたら音が漏れてきてるな、これ絶対『声』だろ」




原:女の子が固まって恐怖しているとも知らず、遠慮なしに『Avenger-Ⅳⅸ』は遠慮なしにレーザーによる損傷部位の修復を完了させていた。

訂:女の子が固まって恐怖しているとも知らず、『Avenger-Ⅳⅸ』は一切遠慮せず、怪我をした箇所にRレーザーを当て、損傷部位の修復を完了させていた。


原:とても驚いた様子で女の子は白い魔族を見やる。

訂:あまりにも不可思議な現象に、女の子は白い魔族を見やる。

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