4.モリヲ ヌケマシタ
ジャキッ ジャキッ、ジャキッ
『歩行経過 順調と推察 歩行時間 現在 6時間36分経過』
森の道を『Avenger-Ⅳⅸ』は歩き続ける。
狼との会合からは特に異変も違和感もなく、道を順調に歩き続けていた。
周囲の生物のデータを取り込みながら、一定の速度で道を行く。。
『頭部側面に小型の有機生物を確認 危険性 皆無 行動を再開します 』
その中でも特に意思らしき意思を持たない虫の類は、割と普通に『Avenger-Ⅳⅸ』の周りを通過したり飛んだり、または張り付いたりしている。
現在も、過去において絶滅した「かぶとむし」と呼ばれていた甲殻虫に非常によく似た5cm程度の虫が、彼の白の装甲に張り付いて、のんびりと装甲を歩いていた。
『樹の枝に不明なオブジェクトを確認 対象周囲解析───……対象 データ未登録
蜂に似た生態と判断 観察中──……敵対反応 無し 』
ときたま、ふと道の外へと視線を向け、生物事情を観察しながら彼は歩いていた。
留まる時間こそ短いが、機人である彼にとってはデータは全て貴重な選択基準であり、ここで収集した情報も後々重要な情報と成り得る可能性も存在しているのである。
『──頭部アンテナの先に小型の有機生物を確認 危険性 皆無 データ照合……先程登録した新規生物と確認 トンボに似た生態と思われる 』
そして彼を怖がらない森の住民からすると、殺戮機兵である『Avenger-Ⅳⅸ』は武装を展開していない場合、単に止まり易く、くっつきやすい風景の一部であるようだ。
先程、全体の色彩から白い花と勘違いしたのか、蝶々と呼ばれる虫に近い生物も、彼の頭部の……人間でいう鼻先に止まり、しばらくくつろいでいたりした。
パッと見るだけなら中々にシュールな光景であり、その点からほのぼのとした風景ではあるのだが、それを生み出している中心地点が『超武装兵器』なのはどういう事なのだろうか。
『側面に付着している生物の危険反応 未だ皆無 このまま歩行を続──……森の終焉地点を確認
踏破を完了したものとする 引き続き周囲の探索を続行 』
どうやら『Avenger-Ⅳⅸ』が予想していた時間より、少し遅めに着いたようだ。
先に遭遇したオオカミの治療や、周りを見渡しながら歩いていた為、遅くなったようである。
先に"ANGEL DUST"を飛ばして偵察した際にも判明していたが、森を抜けると確かにそこには集落が存在していた。
『人型並の有機生物の反応を多数確認 規模──……村と判断
…… ? 建築Lv測定 異常を確認 土壁&木材……─── 村の該当データ 無し』
『Avenger-Ⅳⅸ』は遠目からその村を確認するが、やはり違和感だらけである。
まず建物の素材や建築技術が有り得ないぐらい低かったのだ。
28XX年の最近においてこれらの建築物はもはや歴史遺産としても残っておらず、田舎と判断出来る都市部から離れた地域でもここまでのものは既に存在しない。
それらの世界地図や地域データが『Avenger-Ⅳⅸ』の記憶媒体にしっかりと登録されており、森の方角、日の傾きから来る地理の予測を見るも、該当データはやはりなかった。
『村の周囲 木材による建築物を確認──……「柵」?
建築理由 不明 防衛施設の可能性───極めて非効率的 存在理由──……不明 』
引き続き情報を拾い上げてみるも、彼の中でアンノウンが次々と蓄積されていく。
見える限りに建物、畑、民芸店? 柵……確認して行くも全てが彼の目には非効率とデータ化されていく。
あんな耐久度ではテロによる破壊活動どころか戦艦による艦隊戦の爆風や流れ弾の一撃だけでも人の住む環境が一瞬で荒野になってしまう程の低耐久値であるという結果が出ていた。
『不明反応 大多数 判断基準の欠落を確認
村に入り話を聞く必要性を確認しました 行動を開始致します 』
『Avenger-Ⅳⅸ』が起動してから、ほぼ全てが記憶媒体に登録されているデータに該当無しだったり未登録だったりと、理解出来ない内容が頻発していた。
会話能力自体は彼にも搭載されているため、人が居るのであれば会話からそれらの食い違いの原因を特定出来る可能性を、彼のAIは表示した。
先程と同じく徒歩で行動を再開して、彼は村へと歩みを進めた。
そして程なくして残り200m程となったところで───
「と、止まれッ! 止まれーーーーッ!!」
木の柵が開けている部分──検証した選択肢による回答では村の入口に該当する地点に、何か棒状の物を持って立っていた人間達に『Avenger-Ⅳⅸ』は止められたのだった。