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3.ユウキセイブツ ハッケン

0:22 



 血液が付着している下を辿り、機械の駆動音を出しながら進み行く『Avenger-Ⅳⅸ』。

 その血液が記す道の終着地点が漸く見えてきたようだ。

 血が示すその先は、山肌にある人の手が加えられていないかなり大きな洞窟であり、既にその中から非常に大きな、獣の威嚇の唸り声が響いていた。


「グルルルルルルルルルルルル……………」


 機械の駆動音のせいで、傷付いた何かからすれば得体の知れないモノが近付いて来つつあるのが容易に知れたからである。


『音声反応 超低音 対象が警戒状態であるものと分析 ──……血液追尾地点の可能性 極めて大 』


 その唸り声を全く気にする事無く『Avenger-Ⅳⅸ』は山肌の穴の中に入ると、唸り声は更に大きくなっていく。


『── 音声反応……複数 ? "Change"暗視モード 』

「ガァァァァァーーーーーーーーーッッ!!!」

『ギャンッ!ギャンッ!ギャンギャンっ!!』


 しかしそれらもやはり気にする事は無い、機械であるが故の無頓着が成せる業だったが……どうやらその穴の住民にとってはとても良い迷惑だったようである。

 穴の住民はどうやら狼のような有機生物であり、解析の視線を向けてみるも、やはり未照合に終わる。

 『Avenger-Ⅳⅸ』は下に視線を向けるも、血の跡は間違いなくこの穴を示していた。


『── 有機生物 五体 確認 内 幼体 四体を確認 』


 彼が上がり込んだこの穴はどうやら狼状の生物の棲家であるらしく、怪我をしているであろう成体の生物と、子供であろう幼体の生物が四匹だった。

 視界で確認してみると、成体の狼の右前脚部と右後脚部に棒状の何かが立っていた。

 否、刺さっていたのである。


『──成体の手負いを確認 オオカミの情報と照らし合わせ検証──……成体構成の予想から、放置は極めて愚策と認定 これより排除に取り掛かる 』


 刺さっていた棒状の何かは、極めて前時代の兵器であった『矢』と呼ばれているモノだった。

 その矢自体は、刺さり続ける以外の役目は持っていないようであり、それさえなくせば『助ける』事に特段問題は無いと彼は判断した。

 対処をするために手負いの成体へと近付くが──


「グッガァァァーーーゥッッ!! ガフッッガフッッ!!」


 動きこそ彼のデータにおけるオオカミと比べ精彩の無い動きではあったが、それでも外敵を排除するという気概は存分に漏れ出しており、ついには『Avenger-Ⅳⅸ』の脚部パーツに全力で噛み付く事に成功する。


 が、残念ながら『Avenger-Ⅳⅸ』は機人であり、痛覚などというものとは無縁の存在である上に、基本的に全てを数値化、データ化して物事を判断する存在だった。


『──攻撃反応 被損傷……皆無 対象の接近を確認、排除に取り掛かる』

「ガフッッガフッッ!! ガウゥゥゥゥゥゥッッ!!」

『ギャウッ! ギャウギャウッ! ギャンッ!? ギャウギャゥ!』


 成体は一生懸命、文字通りに我が子を守る為『命賭け』で未知なる存在に噛み付いているのだが、『Avenger-Ⅳⅸ』からはなんの障害にもならないどころかむしろ排除対象が接近してきただけ手間の高速化が進んだと認識されてしまっていた。

 更に残念な事に。手負いなりにも野生の狩人であるオオカミの鋭い噛み付きは、比較対照が少なすぎる程に硬い彼の装甲に阻まれて薄い傷すら付ける事が出来ていない。哀れオオカミ。

 我が親の危機とあって、親に比べて小さく可愛らしい子オオカミ達も『Avenger-Ⅳⅸ』に向けて必死に引っかきやら噛み付きやら体当たりやらを繰り返しているが、こちらも悲しい事に検証どころか判断対象にすら上がっていない。


『排除行程 検証──……パルス砲を用いて消滅 "Error" 対象以外の消滅の可能性 極大

 荷電分子制御連結行程を用いて消滅 "Error" 対象以外の消滅の可能性 確実』

『ギャンギャンギャンギャンギャンギャンギャンギャンッッッ!!』

『───生物五体の敵性反応 増大 早急の処置の必要性を考慮 ……考慮 …… 』


 『Avenger-Ⅳⅸ』が考えている間もオオカミ達からの攻撃がやむ事は無く、むしろ彼の判断基準では悪化の一途であるようだ。

 様子を確認しながら対処法を取捨選択してゆき、結局彼が選んだのは───


『──己の手による引き抜きが最も効率的と判断 該当生物に更なる傷の広がりが懸念される 排除後に速やかなる治療の要を認める 行動開始 』 グシュッ

「ギャィンッ!?」

『ギャンギャンギャンギャンギャンギャンギャンギャンッッ!!!』

『摘出確認 後脚部の物質の排除を続けて執り行う 行動開始 』 グシュッ

「ヒャンッ……!」

『ギャウギャウギャウギャウギャウギャウッッッ!!』


 『Avenger-Ⅳⅸ』が痛覚を認識、または共有が出来ない故の悲劇だった。

 素手で引っこ抜くという、超未来兵器にあるまじき選択肢(それに至っただけまだ褒められる行動)に加えて、刺さっている成体の状態を全く気にせず引っこ抜いてしまう。

 野生の獣故、痛みに対して若干の耐性はあるものの、ここまで無遠慮に引っこ抜かれてしまうと鏃の返しに肉を引き千切られ、凄まじいダメージを負ってしまうのだ。

 一度目は突然の痛み故にまだ気力も残っていたようだが、二度目の方は明らかに弱りきった悲鳴であった。

 子オオカミ達も親の弱々しい悲鳴に著しく反応し、声が枯れんばかりに未知なる何かに吼え続けている。


『両物質の摘出完了 細胞分裂促進による欠損部位の修復開始 』

「ゥ…………ゥゥー………… ──ッ!? !? !?」

『ギャウギャウギャウギャウギャウギャフッッ……!?』


 『Avenger-Ⅳⅸ』は、矢を引き抜いてすぐ横に置いた後に自身の兵装である『Recovery Laser・Ver3.41』(以後Rレーザー)を傷口の一つに照射を開始した。

 このレーザー、実は最近の28XX年事情の中でもかなりの進歩を遂げた治療法であり、近年になってからレーザーに麻酔効果まで適用されるに至っていた。

 生物学上傷を負ってしまうと体内に熱が発生し、衰弱を加速させてしまう場合がよくある。

 しかしこのレーザーの麻酔は麻酔の名に違わず、細胞再構築と同時にその箇所の痛みを麻痺させるのだ。

 この痛みが消え去る違和感に成体のオオカミが反応し、子オオカミの方も親の変化にびっくりして途中で吼え声を止めたのである。

 『Avenger-Ⅳⅸ』は前脚部の精密な治療の終了を確認した後、周りの変化に取り合わず後脚部にもRレーザーを照射し始めた。この辺のストイックさは流石の機人といったところである。

 Rレーザーが放つ光も、この暗めの洞窟では非常に明るく映り成体オオカミは若干ビクンと体を震わせる、一回目の時は驚く体力もなかったのだ。

 子オオカミも親の様子を確認していて一緒にビクンと同時に動く、が───


「……ッ!? !?」

『クゥーン、キュゥン……』


 一体何が起こったのかわからないが、親が弱っていた原因である傷が完治したと理解したのか、子オオカミは『Avenger-Ⅳⅸ』を無視して成体オオカミへと擦り寄っていった。

 矢傷から来る体力の減少までは回復しきれなかったようで、派手に動く事こそなかったものの、成体オオカミは伏せた状態から顔に近寄ってきた一匹の子オオカミをペロペロと舐め始めた。


『──……行程 全完了を確認 エネルギー充填率 185.2%

 道へと戻り 引き続き歩行を開始する』


 ここでやる事は全て終わったといった感じに、『Avenger-Ⅳⅸ』は「ギシッ」と機械ならではの音を立てて立ち上がる。

 その様子を五匹の親子は逐次確認するが、動きの度合いからして自分達に何かをするわけではなさそうだと判断したようで、静かにその様子を見送っている。


 そしてそこまで深くない斜面の洞窟から彼が出ようとしたところで、それは起こった。


【待てッッッ!!】


 『Avenger-Ⅳⅸ』は自分が少し前まで居た洞窟の中から、肉球のせいで酷く小さくなった成体オオカミの足音を確実に捉え、洞窟へと振り返る。

 そして視界内に、洞窟の入り口へ立つ──怪我が無事に治った成体オオカミが四足でしっかりと地面に立ち、こちらを見ていた。


【貴様は、なんなのだ……人──いや、魔族か?

 どちらにせよ、何故我に治療を施したのだ……答えよッッ!!】


 身長208cmである白銀装甲の騎士風の何かと、視線の高さ120cmの成体オオカミの視線が交錯する。

 その後ろには、子であろう四匹の幼体オオカミも親に隠れながらこの状況を見つめていた。


 オオカミから伝わる思念会話に、『Avenger-Ⅳⅸ』は───


{───? 頭部付近に謎の振動を確認 原因探査──探査中──……原因不明 }

【一体なんなのだと聴いているのだッッ! 何故答えぬッ!? 我の声が聴こえぬとでも言うつもりかッ!!】


 ───そもそも会話が成立していなかったようだ。

 恐らくは、この成体オオカミが掛けてきた思念会話は、生物の脳──またはそれらに該当する思考を司る部位に直接波動を働きかけて会話を成すモノと思われた。

 しかし機人である『Avenger-Ⅳⅸ』の頭部はただの兵装の塊であり、思考制御AI自体も体内の別の箇所に設置されている。

 その上、有機生物と根本的に思考制御の素材も質も方法も違う彼に、『会話が通じる生物達』と同じ方法で、会話が成立する訳が無かった。

 頭部に来る現象の可能性を探るべく、少し周囲に目を向けたが──特段何も変わった様子は無い。


{───原因探査中…… "Error" 特定の現象が発見出来ません

 頭部振動に危険性 無し オオカミらしき存在 敵性反応 皆無 害無しと断定

 頭部振動の原因不明に付き要検証 歩行と検証を併行 行動を開始します }

【お、おいッ貴様ッ! 無視をするなっ! まさか本当に聞こえておらんのかッ!?】


 非常に残念極まりない擦れ違いにより、実は知的な意思を有していた成体オオカミとの会話は成される事なく『Avenger-Ⅳⅸ』は来た道を戻り行く選択肢に従い、歩を進めていった。




 ジャキッ、ジャキッ、ジャキッ、ガサガサジャキッ、ガサジャキ

 機械らしさのある歩行音と共に、森の中へと奇妙な存在は去っていった。


【な、なんだというのだ……あれは……】


 オオカミは突如現れたあの乱入者が何をしたいのか全くわからなかった。

 

 我が子の餌を求め、獲物を追い回していたところで、どうやら人間の縄張りに入り込んでしまったらしく弓矢を持ってしてオオカミは人間に撃退された。

 とはいっても人間側もかなりの深手は喰らわせたので表現的には痛み分けに近いが。

 しかし自身の疾走力も狩りにおいてはかなり重要な部分を占めており、その駆動部に手傷を負わされ、それも抜けないオオカミからすれば致命傷といって差し支えなかった。


「キュン、キュン」

「キューン…………」

【おぉ……すまぬな、我が子等よ。腹も空いたであろう……今暫し待つのだぞ】


 せめて我が子だけでもなんとか生存の段取りを……と弱気に考え始めたところでオオカミの耳に突然耳障りな音が響き始めた。


 ジャキッ、ジャキッ、ジャキッ


 今にして思えばとても恐ろしい音である、全く聞いた事が無い未知の物質の擦り合わせが成すであろう無機質な音が……あろうことか手負いの自分の方へどんどん躙り寄って来るのだ。

 不味い、これは不味い、と思いながらせめてもの抵抗と威嚇していたが、気にせずそれは現れてしまった。


 デカい。ひたすらにデカい、そして不気味であり──威圧感が飛び抜けていた。

 まるで地獄の底から自分を迎えに来た『白の死神』──オオカミがそう錯覚するのも無理は無い事だった。

 これまでも、何度も人間とはやりあってきたし、魔族にだって関わらなかったものの遠目には見てきた……しかしあの死神はそんなものとは比較にならない、おぞましい何かがあった。

 そして蓋を開けてみれば一度瀕死に追いやられた後に、自身の理解が追いつく前に傷が完全に治っていた。

 何やらよくわからない音を頭部から漏らしていたが、自分の愛しい子供達にも、治療が終わった自分にすらもう興味がないといった感じで洞窟内から去っていった。

 まるで意味が分からない。あれは一体何をしにここに来たのか。


【終いには我の呼び掛けすら無視しおって……意思のある存在の癖に、聞こえなかったとは言わせんぞ……クソッ、結果的に助けられているのに礼すら言えんとは我ながら腹立たしい……!】

「クゥン?」

【ん、いや……気にすることはないぞ? 皆と遊んでおきなさい、我が子よ】


 正体不明の何かが、行動原理まで正体不明すぎて、オオカミは小さな混乱を起こしてしまうが、それも我が子の前でそうあり続ける訳にもいかない。

 ひとまずアレに対する意識を振り払い、傷こそ治ったが今までの状態が産んだ体内の熱は逃げてくれていない為、少し休んだ後にまた狩りに出ようと決めるオオカミだった。




語句に関しては適当に書いております。

もしも語句自体の意味が矛盾していたら、ご教授願えると有難いです。

あと誤字やらミスやらもあれば、コピペと一緒にご報告頂ければ気付き次第訂正させて頂きます。


0:22 訂正

旧:解析の視線を向け終わるも、やはり未照合に終わる。

訂:解析の視線を向けてみるも、やはり未照合に終わる。


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