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14.スイロッテ、ドウヤッテツクルノ


Q.スイロッテ、ドウヤッテツクルノ

A.知らん。


 彼はゴブリン達の言葉が理解出来なかったため、勝手に岩の引き戸を作成した後、彼等との会合もそこそこにして初期の目的であった水源地の方へと再び歩き出す。

 後ろでは、子供を除いたゴブリン達が十人ほど【グギ、グーギャー】と言いながら手を振っていた。

 なお、子供は会合自体が夜であった為に、再び眠りについている。


『水源に至る距離 35.8m ───水源 到着 地形確認を始めます 』


 元々ゴブリン達の住まいは川からもそこまで離れていないので、『Avenger-Ⅳⅸ』はあっという間に川へと辿り着いていた。

 そしてそのまま川の周囲を確認して、現状で一番合理的に行う事が可能な開拓法をAI内で模索し始めた。


『周囲を養状した水路を形成が理想と判定 作成方法───Error データが存在しません 』


 なんということか、畑を耕した後に水路の作成図を作った彼は、水路の作成方法自体はわからなかったのである。

 川のせせらぎが横から聞こえる中、『Avenger-Ⅳⅸ』その場でしばらく棒立ちになっていた。


『─── 自己判断での検証を開始 』


 そして、割と残念な学習機能が今回は役に立ったらしく、まるで赤子がモノに触れていくかの様に水路の作り方を考え始めた。

 まず、指で川のそばの土をへこませる──するとへこんだ所は水に満たされた。

 指に付着した土自体も、そのまま水の中に溶けていくようになくなり、ほんの少し濁った後に川はまた綺麗になる。


『検証終了 物理的に作成が可能と判断します 』


 10分程このような作業を繰り返して、水というものの性質をある程度理解出来たようである。

 『Avenger-Ⅳⅸ』は川のそばから立ち上がり───その無機質な腕を勢い良く…………


 

 ゴブリンの住居の方へと振りかぶった。



 するとその腕の振りで衝撃波が発生し、草が千切れ土が吹き飛び、周りにある樹は軋んでいる。

 直線上に動き回る生物が居ないのを確認した彼は──自身の発言通り『物理的に』作成に取り掛かっていた。

 土が吹き飛んだ、太めに抉れた大地には、川からの水がどんどん流れこんであっという間に彼の周囲から先端が消えてしまった。

 森の奥から【ギャーーーーーーーーー!?】とまた聞こえた様だが、それは周囲の生物の錯覚ではないと思われる。



 そして、そのゴブリンの住居前、というか住居付近に移る。

 少々眠いながらも、突然広くなった住居に喜びを隠せない大人ゴブリン達は舞い上がりつつも楽しく穏やかに騒ぎあっていた。



 すると突然凄まじい轟音と共に住居のやや横手が爆発四散したのだ。



 当然、ゴブリン達は蜂の巣を突っ付いたような大騒ぎになる。

 子供はそのまま寝続けていたようだが、楽しい騒ぎに水をいきなり指されるどころかマグマを撒き散らされたようなものである。


【ギャグーーー!?】

【ギギギーーーー?!】


 全員が一瞬でアワアワとする最中、さらに驚きの事態が彼らを襲う。

 なんと抉り飛んだ大地から水が流れ込んで来たのである。


 彼等にとっては、水は結構な死活問題であり、小型の体格なので『Avenger-Ⅳⅸ』からすればすぐに辿り着く距離でも、水源地である川に行くのはかなりの時間を有する事になる。

 そして道具を作るという文化が無い彼等には水を溜め込む様な物も存在せず、水を欲しがったら周囲の生物に気を付けながら川に水を飲みに行くのである。


 全員が全員、5分ほどポケーッとしていたところで、また好奇心の強い一人のゴブリンが、水を確認するために謎の跡へと体を動かす。

 中にある液体が、流れてきた関係上で濁っては居るものの確かに水であることを、触って、飲んで、確認をした。

 確認はしたが理解が追いつかない故に、驚愕の表情と共に後ろにいる仲間に振り返り、彼の様子から一応は危険無しと判断した彼等は次々と(恐る恐るではあるが)謎の跡へ近づいていった。


 ゴブリン全員が『これは水だ』と確認した辺りで、彼等の前に再び【白い怪異】が現れた。

 

【ギ、ギ……?】

【ギャ、グ?】

『水路先端を確認 ──水が綺麗になっていません? データ確認 ───Error データは存在していません 』


 元々の目的が水路の作成であるため、再び彼らの前に現れた『Avenger-Ⅳⅸ』は、彼等を無視して水質を調査し始める。

 先程自分の指先についた土が溶けた際にもやや汚れたが、今回彼が確認している目の前の水は濁りっぱなしであった。

 流れてきた際に、抉り取られて固まっていない土が水と一緒に流れているのだから、それ自体は当然の事である。

 しかし彼は微妙にその現象を理解出来ておらず、AI内で自問自答を繰り返していた。


『── もう一度最初から検証を開始致します 水源 目前に確認 』 


 そして彼は自分が森から歩いてきた方向から体の向きをややずらし、先程と同じく腕を振りかぶった。

 当然再度発生する衝撃波、10m程離れて【白い怪異】を凝視していた彼等は、後ろにいたのにその余波で吹き飛んだ。

 彼等は内心(やっぱりこいつかーーーーーーーー!!)と思いながら悲鳴を上げてその辺りをゴロゴロと転がるハメになった。


 なお、彼が目前に確認した水源とは自身が作成した水路の先端の事である。




 衝撃波による周囲への影響はすぐに収まり、やや土だらけになったゴブリン達はちょっと心が折れかけながらも立ち上がって周囲の状況を確認した。

 彼等が先程まで立っていた位置よりやや手前に、しゃがみこんだ白い怪異『Avenger-Ⅳⅸ』が見える……どうやら水質を確認しているらしい。

 その先に目を向ければ、森林破壊とまではいかないものの、樹がギシギシと悲鳴を上げ、衝撃波の直線上にあった土と草は水路と化していた。

 先程出来た水路と今出来た水路が繋がっており、まるで『Avenger-Ⅳⅸ』が存在した世界の古代文字【Ⅴ】を描く様な水路の先端が出来ていた。

 

 【川】から【彼等の住居前】まで水路が作られ、そこで水の道が止まった故に、瞬時の洗浄効果が発生しなかった為『Avenger-Ⅳⅸ』とゴブリンが確認した時に水は濁って居た。

 『Avenger-Ⅳⅸ』がもう一度発生させた衝撃波が作り出した水路は【彼等の住居前】から【川】へと繋がり……様々な偶然が繋がって、功を奏する事になった。

 水の流れが生まれた為に洗浄効果は先程より段違いに高まり、現に水質を確認している『Avenger-Ⅳⅸ』の前では水がどんどん澄んでいっている。

 なおかつ立地的にも彼らの住居は【Ⅴ】の形の先端で水が溜まるような低地ではなかった為に、溜め池ではなく小川が生まれたのである。


 そしてしばらく観察しているうちに、先端が水の流れで抉られ始めているのを『Avenger-Ⅳⅸ』は確認した。

 少し周囲を確認して、先程岩の引き戸を作る際に使用して余っていた【元・壁面】の一部を住居横から担ぎ上げ、試行として先端に刺してみた。

 するとそれは確かに効果があるらしく、先端の形が変わることはなくなったようだった。

 後ろでゴブリンに見守られながら、【元・壁面】を適度に分解調整して形を作り、次々と縁に突き刺して経過を観察する。

 どうやら川の中にも石畳のようになった【元・壁面】を埋め込んだ方が良いと判断したらしく、人のふくらはぎ程度の深さの水路に足を突っ込んで『Avenger-Ⅳⅸ』はしゃがむ。

 そのまま準備した石畳もどきを底面に敷き詰めていったのだった。



 こうして、彼は水路作成に関する知識をAI内へ記憶させることに成功する。

 突然水路が降って湧いたゴブリン達も大喜びして『Avenger-Ⅳⅸ』に抱きついて騒いでいた。



9/12訂正


誤・そして彼はもう一度腕を自分が森から歩いてきた方向からややずらし、腕を振りかぶった。

訂・そして彼は自分が森から歩いてきた方向から体の向きをややずらし、先程と同じく腕を振りかぶった。

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