13.リフォーム シマス
ゴブリン達にひとしきりツンツンされ続けた『Avenger-Ⅳⅸ』は、ひとまず住処である洞穴へと招かれていた。
動きを確認する限り、どうやら村の方に居るリリという少女程に懐いてくれている訳ではないらしいが、それでも会話の下地は出来たのである。
『貴方達は未だに幼体でありながら この様な人里離れた拠点に住んでいる理由をご説明願います 』
【ギャ……?】
【ギャ、ギャグ……】
『"Error" 共通言語での会話を御願い致します 』
問題は会話自体が成立していない事だった……いつもの『Avenger-Ⅳⅸ』である。
相手の言動も把握出来ない為、『Avenger-Ⅳⅸ』は改めて周囲を確認してみた。
住処を(視認範囲だが)隈なく数値化し解析を完了していた。
結果的に分かった事は───
『この場所は人が住むと 健康被害または物理的被害が発生しかねない環境の拠点です
何故この状態のまま放置しているのかご説明願います 』
【ギャ~ゥ~……】
『"Error" 共通言語での会話を御願い致します 』
ここが、「ただの穴」に過ぎない事である。
彼の居た世界の時代に生きる人々は、様々な近代化に伴い生物が本来有している筈の免疫が低下してきており、彼の兵装機能には細菌兵器の合成・展開も含まれている。
そしてその基準が未だに生きている『Avenger-Ⅳⅸ』からすれば、この洞穴に住む事は自殺行為以外の何者でもないのである。
虫は這いずるであろうし、この住処のところどころにある石のでっぱりに蹴躓けば転倒して擦り傷を負うだろう。
衛生面的には地獄といっても過言ではないのだ。
『───会話不能につき 応急処置段階の改築を行います 』
【ギャゥ…………──ギャ!?】
変な音をこちらに出し続けていると思ったら白いヤツは突然立ち上がる、ゴブリン側から見れば大体こんな感じである。
そして彼は女子供老人の横を抜け、洞穴の奥へと移動した。
その謎の行動に、ゴブリン達はざわざわし始める。
自分達を通り抜けた時点で害するつもりが無い事は分かったが、会話も成立していないのに動き回られた為、対応に困ったのだ。
彼はデコボコである洞穴の壁面へと静かに掌を置き、指を添えて真っ直ぐに下に撫でて行き───
バスンッ
【【【ギャギャーッッ!?】】】
気の抜ける様な音と共に洞穴全体が凄まじい衝撃に襲われた。
…………が、その衝撃は一度だけのものであったらしく、それらが洞穴に何かを引き起こした訳ではなかった。
しかしそれらも気にせず『Avenger-Ⅳⅸ』は、反対側の壁にも同じ様な処理を施し──また衝撃が洞穴を突き抜ける。
【【【グギャーーーーーーーッッ!? グギャーーーーーーーッッ!?】】】
何も分からないゴブリンたちはもう大パニックである。
『Avenger-Ⅳⅸ』が来てからパニックにしかなってない彼等がいっそ可哀想になってくる位に。
ギャーギャー騒いでいるゴブリン達を横手に、『Avenger-Ⅳⅸ』はまた彼等の横を通り過ぎ、今度は外に出た。
入口横手の岩肌をなぞる様に触れている、どうやら入口の壁面にセンサーを向けて何かを調べている様だ。
『岩盤連結解除部分を発見 全長1,55m 次の連結解除工程に入ります 』
確認を終えた後、すぐにまたあの気の抜けた音と衝撃が洞穴を襲う。
さすがの状況に、ゴブリン達も全員洞穴の外へと飛び出して来る。
洞穴の外へと出たあとに、全員で寄り添ってガクガク震えている前を『Avenger-Ⅳⅸ』は──また無表情で通り過ぎる。
もはやゴブリン達からすればこの白いのは現状、ただの『怪異』でしかない。
洞窟の反対側へも、同じように手でなぞり調べ終えた後、また同じように洞穴が揺れた。
『応急処置改築 下準備完了 分離した壁面の撤去を開始致します 』
どうやら予定行動を終えたらしく、『Avenger-Ⅳⅸ』は入口の横手からすぐに洞穴へと入って行く。
【ギャ、ギャー】
【ギャウ、グギャ……】
【ギャグギャー……】
ゴブリン達は寄り添いながら「なんなんだアイツは」「不気味すぎるよ」「コワイよ……」と話し合う。
そして洞穴の中へと消えたということは占領されたのかもしれない、自分達の住処。
絶望に拉がれて始めるゴブリン達を他所に───
事態は突然変な方向へ動き出した。
ゴ……ゴゴ……ゴ……ゴ……
【【【 !? !? !? !? 】】】
自分達の住処の、入口横手が突然動き出す。
しかも何故か、とても綺麗な形でどんどん突き出されて行く。
【ギャ、ギャ!?】
【ギャ、グギャッ!】
【ギャー!?】
ゆっくり、ゆっくりと入口横手は突き出され続け──そして最後には、自分達の住処の壁面であった部分が丸ごと外へと姿を現した。
───壁面最後尾で、それを押している『Avenger-Ⅳⅸ』と共に。
【【【 ギャ………………。 】】】
一同全員ポカーンである。
彼等は、そこに住んでいる訳であり、壁面がどれだけ硬いか、その材質であろう石や岩がどれだけ硬いか、重いかをよくわかっている。
それが、ただ一人の手によって、彼等からすれば訳の分からない大きさとなった壁が、押し出されている。
『Avenger-Ⅳⅸ』の姿を確認した時点で既に壁面は外に出現しきっており、それを確認した『Avenger-Ⅳⅸ』は次の行動へと移った。
押し出された壁面を───ひょいっと持ち上げた。
【【【 ギャーーーーーー!? 】】】
凄まじい怪力である、彼等はあれの重さがわかる故に、目の前で何が起こっているのか全く分からない。
そしてその声色に恐怖らしいもの等、緊急性が無い悲鳴と判断した『Avenger-Ⅳⅸ』はそのまま作業を続行した。
取り出した壁面に関しても使い道をAIが決定していたため、洞穴の横手に移動してそれを置き、一度壁面中心まで移動した後、静かに横たわらせる。
それらの行動を、次は逆の入口にも同様に行い───残ったのは少し広がったゴブリンの住処だった。
しかも新たに出てきた壁面は、綺麗に寸断されておりツルッツルである。
【……ギャ、グギャ】
【ギャー】
その様子に興味を惹かれた怖いもの知らずのゴブリン達の一部が、彼の弄った洞穴へと再度入る。
衝撃によって天井から石が少しだけ落ちてきたのか、小石が散乱しているが──そこは確かに、広くなった自分達の住処だった。
壁面をぺたぺたと触って、左右を見渡して、奥の方も確認する。
二人のゴブリンは忙しなく、広くなったその住処を手当り次第に確認している中で、洞穴に彼が現れた。
白い『怪異』、『Avenger-Ⅳⅸ』だ。
『今から入口に扉も作成致しますが 居住範囲に関しては御納得頂けましたでしょうか
ご要望があるなら受け付けますので 御早めに申請を御願い致します 』
二人のゴブリンに向けられた言葉は、彼等にとって理解出来るものではなかった。
しかし殺意も敵意も感じられないその言葉は、状況と相まって彼が発言したものである。
住処が広くなる、これは彼等ゴブリンに限らず他の種族、果ては人間やエルフにも大きな意味を持つ。
住みやすくなるのだ、繁殖しやすくなるのだ、群れも大きくなるし、貯蓄出来る量も増える。
それほどの───『価値』が発生するのである。
【【 ギャギャーーーーーーッッ♪ 】】
『 !? 』
一連の彼の動作と結果を理解した二人のゴブリンは、二人揃って『Avenger-Ⅳⅸ』に飛びついた。
そして『Avenger-Ⅳⅸ』もその様子に敵対反応が全く無い為に対処が一瞬で出来なかった。
人で例えるなら、少し体を強ばらせた様な動作をして、そのままゴブリンに抱き着かれてしまった。
【グギャー、ギャー♪】
【ギャグギャー、ギャギャ~~♪】
そして抱き着いているゴブリン達はそのまま『Avenger-Ⅳⅸ』をよじ登り、彼を笑顔でぺしぺしと叩く。
どうやらとても嬉しいらしく、感極まって『Avenger-Ⅳⅸ』に抱き着いたようだ。
この場に置いて、様々な誤解こそ発生し続けたが、結果的に『Avenger-Ⅳⅸ』とゴブリンで和解が成立した。
まだ外にいるゴブリン達も彼らを通じて事実を知って行くであろうし、内容を知れば全員が『Avenger-Ⅳⅸ』を受け入れるのは時間の問題である。
だが、しかし───
『"Error" 共通言語での会話を御願い致します 』
彼は相変わらず、言葉が理会出来ていなかった。
後半推奨BGM:劇的ビフォーアフターのリフォーム完了後
8/3 12:54
改行忘れを訂正、細かい文章を訂正